中小企業・スタートアップこそ、
「知財」を企業経営の
強さに変えるとき。
「知財」を源泉に、
日本の中小企業・
スタートアップに競争力を。

第8回知的財産活用表彰 /
第2回技術・ブランド・
知的財産ビジネスプランコンテスト

日本企業の世界での競争力が問われるいま、
中小企業、スタートアップの成長・躍進を、
「知財」視点で支援することをめざす、日本弁理士会。
「知財」を経営戦略に活かすとはどういうことなのか。
なぜ、中小企業、スタートアップにこそ
「知財」という視点が必要なのか——。
日本弁理士会会長にインタビューしました。

<プロフィール>

杉村 純子日本弁理士会会長早稲田大学理工学部卒業。平成元年弁理士登録、プロメテ国際特許事務所 代表。平成23年度日本弁理士会副会長をはじめ、内閣府知的財産推進戦略本部委員や産業構造審議会委員等の公職を歴任し、令和3年4月より現職。令和3年 知財功労賞 経済産業大臣表彰受賞。

■2022年はスタートアップ・地方企業支援元年

——日本弁理士会では中小企業・スタートアップの支援に注力されていますね。
(日本弁理士会会長 杉村純子 ※以下、杉村)私たち日本弁理士会では、これまでも中小企業、スタートアップを知的財産の面から支援してきましたが、今年度改めて「スタートアップ知財支援元年」を宣言し、これまで以上にサポートおよび啓発活動を充実させていこうと動き出しています。
これから自分で創業してみよう、起業してみようとお考えの方々に、「知的財産」を企業の重要な資産として活用する意義を広くお伝えしていくと同時に、私たち弁理士をぜひ活用して欲しいというメッセージを強くお届けしていきたいと考えています。

——スタートアップ知財支援元年、とても強いキーワードですが?
(杉村)日本では最近でこそ、起業を志す人も増えてきた印象がありますが、諸外国と比べるとまだまだ少ない状況です。例えば、いまアジアではシンガポールでスタートアップが急増していますが、法律的にも税制的にもあらゆる側面から国全体で支援しているという恵まれた背景があります。

それと比べれば、日本はまだまだ支援体制は整っていない状況ではありますが、大学生など若い世代では「起業」ということに対する意識もだいぶ変わってきていると感じていますので、ぜひ日本発の「グローバルに活躍できるようなスタートアップ」を生み出せるような環境づくり、そして知的財産の面からの貢献に尽力していきたいと考えています。

なかでも、地方のスタートアップの知財支援に力を入れて、地方経済の活性化を図るべく全国的に支援していきたいと計画中です。

——特に地方のスタートアップを支援、というのは?
(杉村)地域経済の活性化というのは、やはり日本に課された大きな課題のひとつです。ある意味、コロナ禍を経験し、DX化なども一気に進んだことで、働き方も企業をとりまく環境も大きく変わってきています。

少し前までは、大都市圏でないと人材が確保できない、新しい技術が生まれにくい、他の企業と繋がりにくいなど「距離の壁」も確かにありましたが、ニューノーマルに移行した今、地方であっても地方同士、あるいは大都市圏の企業と繋がるといったことは容易にできるようになっていますし、逆に今まで東京で操業していた企業が、地方に移転してビジネスをするということも増えています。

私たちとしましては、その流れをもっと太く大きくしていくためにも、日本中のあらゆる地域でチャレンジをしようとしている中小企業・スタートアップを応援していく所存です。

——たしかに「起業」に関する環境や意識は変化してきていますね。
そのようななかで「知財経営」という言葉を耳にするようになりましたが、これはどのようなものなのでしょうか。

(杉村)「知財経営」という言葉に関しては、特に確定した定義はないと考えていますが、私たちとしては、「知的財産を企業の競争力の源泉である重要な経営資源として捉えて活用していくこと」と考えています。

特許や意匠などと聞くと、単に「権利」を獲得することと、思われている方もいらっしゃるかもしれません。そうではなく、それらを経営のための重要な「資源」として捉えてみると、企業の技術の評価、企業のイメージの評価に繋がり、市場において他社よりも注目されるという優位性を確保できたり、他社の追従を抑制したり、他社の知的財産を意識した製品開発、ブランド展開を実行するといったことが可能になります。

現在の企業の状態を理解し、将来の企業の経営戦略のあり方に向かって、自社の持つ「知的財産」を、どのように経営資産として捉えていくべきなのか、企業としてロジカルにまとめていくということが、知財経営ということで、企業の競争力の源泉になっていくのではないかと考えています。

■中小企業・スタートアップこそ知財経営を強みにしていくべき

——現実として、中小企業・スタートアップでは、「知財」戦略まで手がまわらないことも多いのではないでしょうか。

(杉村)「知的財産」を経営資産として捉え活用していくのは、大企業、グローバル企業にとっても非常に重要なポイントです。ただ、日本の企業の99%が中小企業といわれるなか、日本の経済・産業界全体が進化していくためには、やはり中小企業・スタートアップこそが「知的財産」を経営資産として上手く活用していく必要があります。

しかし、起業したばかりの段階で、社内に知財に特化した人材を確保したり、企業としての価値や強みをしっかりと把握し経営を進めていくのは難しいというのも現実です。
それでも、「知財経営」を目指してほしい理由のひとつには、「資金調達」という面があります。スタートアップが抱える一番の課題はこの点にあるからです。自社の「知財」を経営資産として捉えるということは、企業としての価値評価につなげることができるということです。

企業としての実績がまだないなかで、「知的財産」を、自分たちの無形資産としても捉え、それをどう投資に結びつけていくのかという視点はとても重要なのです。

私たち弁理士は、知財のエキスパートとして、そういった中小企業・スタートアップの皆さまをサポートしていくというのが、社会的使命であり役割であると考えています。

日本弁理士会会長 杉村純子日本弁理士会会長 杉村純子

■表彰制度を「知財」活用のきっかけに

——日本弁理士会が主催する2つの表彰制度
「知的財産活用表彰」と「技術・ブランド・知的財産ビジネスプランコンテスト」について教えていただけますか?

(杉村)まず「知的財産活用表彰」については、知的財産を有効に活用している企業や、活用を支援されている企業・団体を表彰させていだたくことで、知財の活用が企業にとって有効な手段であることを実例をもって広く知っていただくことをめざした制度です。

「知的財産」というと、どこか堅いとか難しそうなイメージがあり、自分の会社とは遠いものだと感じられている経営者の方もいらっしゃるとお聞きします。しかし決してそうではなく、「3人ぐらいの小さな企業でも、知的財産というものを企業経営の一つのツールとして利用できる」ということをアピールしていきたい、または応援していきたいという想いから実施しているものです。

——今年度は「特別賞(コロナ対応貢献)」もあったそうですね。
(杉村)コロナ禍では、すべての人や企業が大変辛い状況にあったかと思いますが、そのようななかでも、自社の特許等の知的財産を活用して社会に貢献された企業を「特別賞(コロナ対応貢献)」として今回特別に表彰させていただきました。

——もうひとつ「技術・ブランド・知的財産ビジネスプランコンテスト」についても教えてください。
(杉村)「技術・ブランド・知的財産ビジネスプランコンテスト」というのは、創業前もしくは創業したての個人・企業などを対象に「ビジネスプラン」を広く募集するものです。このコンテストで上位に選ばれた個人・企業の皆さまには、弁理士が実際に知財コンサルティングや特許等の出願支援を行い、知財経営への道筋づくりをサポートしていきます。
昨年度に選ばれた企業からは、私たちのサポートを活かしビジネスプランを実現させたという事例もお聞きしています。

——このほかにも、さまざまな支援策を行っていますね。
(杉村)はい。「弁理士知財キャラバン」という活動があります。中小企業やスタートアップから知財についてのご相談等があった際、弁理士が現場に伺い直接コンサルティングを提供するという活動で、私たち日本弁理士会の事業として無償でご提供させていただいています。

この「弁理士知財キャラバン」を通じて企業の方とお話をしていますと、「今まで知的財産というものは自社にはないと思っていたが、自分の会社にも知的財産というものがあるんだという気づきを得られた」、「権利を取得した後に、それをどう事業に役立てて活用していけばいいのかを知ることができた」「知財と経営というものを結びつけて考えられるようになった」といったうれしいお声をたくさんいただいております。

■スタートアップが弁理士をパートナーに持つ意味

——全国の中小企業・スタートアップの皆さんにメッセージをお願いします。
(杉村)繰り返しになりますが、創業期の限られた人数、限られた状況のなかでも、しっかりと経営を考えていくならば、外部に知財の専門家をパートナーとして持つという手段は有効だと思います。

知的財産という無形資産を企業の経営資産として捉えて、経営戦略に活かしていくためにはアドバイスを受けることも重要です。特に、中小企業・スタートアップの一番の課題は、「どのようにして融資を得るか」ということです。「知的財産」という無形資産をどうアピールし、金融機関やベンチャーキャピタルからどうしたら融資が得られるか、投資してもらえるかといったことも私たち弁理士はアドバイスが可能です。

——企業価値をどう評価するか、つまり資金調達にもつながるということですね。
(杉村)はい。そして、もう一つは「知財リスク」への備えという視点です。例えば、海外進出を考える際には、それぞれの国に知的財産制度があり、さらには法律や制約等があります。
例えば、ある国の特許法はこうだけれども実は別の契約法があるとか、そういうさまざまなことがありますので、その国に進出をするのか、進出するためにはどうクリアすべきなのか、いや、条件を考えれば別の国に進出した方がいいのかといった選択肢もアドバイスすることが可能です。

いま農業分野などでも海外進出が盛んに行われていますが、技術流出を事前にきちんと予防するためにも、知的資産というものは一つのツールになりますし、オープンにしていく部分と営業秘密としておく部分とをきちんと切り分けるオープン・クローズ戦略は中小企業やスタートアップの方も必要な対策なのです。そういった専門性の高いアドバイスを得るためにも、ぜひ弁理士というパートナーを活用していただきたいと思います。

日本弁理士会会長 杉村純子

日本弁理士会が主催する
2つの表彰制度

令和4年2月2日(水)に、表彰式がオンラインにて開催されました。
受賞企業によるプレゼンテーションは動画でご覧いただけます。

第8回 知的財産活用表彰

営業秘密保護やブランドデザイン、標準化等を上手く活用して知的資産経営に積極的に取り組む中小企業、それらを支援する金融機関やシステムツールの開発者や販売者などのサービス支援企業を表彰することで、知的財産の活用に対する意識を高めていただくことを目的としたものです。

<表彰企業一覧>
知的財産活用大賞   日本リニューアル株式会社(東京都武蔵野市)
知的財産活用奨励賞 ブランド部門 株式会社中村印刷所(東京都北区)
  デザイン部門 株式会社マーナ(東京都墨田区)
  知的財産戦略部門 株式会社弘栄ドリームワークス(山形県山形市)
    有限会社リタッグ(岐阜県美濃加茂市)
  特別賞 ツカサ工業株式会社(愛知県半田市)
  特別賞(コロナ対応貢献) 株式会社mediVR(大阪府豊中市)

第2回 技術・ブランド・知的財産ビジネスプランコンテスト

知的財産等を用いた新たな萌芽的ビジネスプランを実施している、または実施を予定しているスタートアップ、中小企業等を発掘・表彰するものです。

<表彰企業一覧>
受賞企業には、それぞれ賞金が贈られました。
受賞企業は、弁理士が知財コンサルティングを行い事業化をサポートしていきます。

グランプリ(日本弁理士会会長賞) 株式会社ビードットメディカル(東京都)
超小型陽子線がん治療装置の普及による国民の健康寿命最大化計画
準グランプリ 株式会社チャレナジ—(東京都)
世界初!台風でも発電可能な次世代型風力発電機
「垂直軸型マグナス式風力発電機」実用化普及プロジェクト
特別賞 AGRIST株式会社(宮崎県)
AIを活用した農業用収穫ロボットと環境制御システムの連携
及び収穫ロボットに最適化された再現可能な農業の提案
奨励賞(中小企業診断協会会長賞) 千葉光範(東京都)
履かせやすくて脱げにくいオーダーメイドの犬用シューズDogSoxx

受賞企業の声

知的財産活用表彰
知的財産活用大賞

日本リニューアル株式会社(東京都武蔵野市)
代表取締役 工藤秀明 氏
マンションにおける老朽化した給湯銅管への更生工事(ライニング工事)のパイオニア企業

受賞企業の声
受賞企業の声

Q.応募のきっかけは?
自社の特許工法をもっと多くの方に知っていただきたいという思いがありました。弁理士さんからの推薦も後押しになりました。

Q.評価されてうれしかったポイントは?
更生工事で漏水を止めることができる、という大変難しい技術を評価していただいたことです。
この分野は世の中であまり評価されることがなかったため、今回受賞したことにより私どもだけでなく、業界に携わる多くの方に喜んでいただけるのではないかと思います。

Q.御社では「知的財産」を企業活動においてどのように位置付けていますか?
同業他社との競争力をつけ、差別化を図るためには大変有効な視点だと思います。今回大賞をいただいたことで更なる技術革新に拍車がかかりました。今後も創意工夫をしながら知的財産活用に取り組んでいこうと思います。

受賞企業の声
受賞企業の声

技術・ブランド・知的財産ビジネスプランコンテスト
グランプリ(日本弁理士会会長賞)

株式会社ビードットメディカル(東京都)
代表取締役社長 古川 卓司氏
ビジネスプラン名:超小型陽子線がん治療装置の普及による国民の健康寿命最大化計画

受賞企業の声
受賞企業の声

Q.応募のきっかけは?
弊社はものづくりベンチャー企業であり、かねてより知財に力を入れてきました。弊社のビジネスモデルのキーは保有する知財にあり、知財視点で発信できる場を探していたところ、偶然拝見したのがきっかけです。

Q.以前から「知財」という視点に関心をお持ちでしたか?
ベンチャー企業が競合他社と渡り合うには、大企業にはないようなスピード感の他、常識にとらわれないアイデアが必要だと思います。しかし、ただアイデアがあるだけでは活かすことにはなりません。「知財」はそのアイデアを見える化するだけでなく、秘匿すべきものは何か、事業をどう進めるかを助ける性質を持ち、ベンチャー企業にとっては限界を突破する起爆剤であると考えています。

Q.受賞されたビジネスプランを、今後どのように成長させていきたいとお考えですか?
知財を活かした弊社製品を上市し、世界中に陽子線がん治療を普及させるということを実現させます。単に他社から排他的に市場を独占するだけでなく、業界全体を盛り上げられるよう、オープン・クローズ戦略も使い分け、他社と共存しながら市場拡大を行っていきたいと考えています。

受賞企業の声
受賞企業の声

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