日本弁理士会の活動
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令和6年度デザインパテント
コンテスト
特許庁長官賞 受賞者インタビュー
大同大学

2024年度のデザインパテントコンテスト(以下デザインパテコン)で特許庁長官賞に輝いたのは、大同大学情報学部情報デザイン学科3年(応募時)の加藤碧さんが創作した「Washer」だ。「食品を潰す、掬う、攪拌する3つの役割を担うマッシャー」として考案されたもので、作品名は潰すのに使う先端の形状がW字になっている特徴を示している。大同大学は毎年のようにデザインパテコンの入賞者を出している応募常連校で、プロダクトデザイン専攻の加藤さんはCADの授業の課題「木製スプーン」で創作した作品で研究室の友人たちと一緒に応募した。前年に優秀賞を受賞した友人から応募書類の書き方を教えてもらうこともできた。また作品とともにレポートを7月の前期終了時に提出したので、この内容を応用して応募書類を作成した。応募のために先行事例の検索を初めてしたことで世の中にはとても多くのデザインがあることを知り、それらとは違うものを作らなければいけないと思ったそうだ。
授業の課題は「新規性と機能美のある美しいデザイン」が求められ、まず10のアイデアを提出して絞り込む。料理、特にお菓子作りが好きな加藤さんは、当初は調理器具として計量できるスプーンを考えた。しかし最初の10案に納得のいくものはなく、「もう少し考えます」と2週間後に提出したのが、マッシャーの機能を備えてタルタルソースやポテトサラダなどを作れる調理器具のアイデアだった。家で実際にマッシャーを使ったとき、潰す部分の穴が洗いにくいと感じていた。ならば、穴をなくせばいいのではないかというのが出発点だった。初めはスプーンの掬う部分にマッシャーを付け足す形を考えたが、先端が大きくなって調理に用いるボウルに入りそうもないと、一旦は行き詰まってしまった。そこでマッシャーと同じように立てて先端で潰せるように、断面をN字型や波形(なみがた)など10パターンほど考えた中でW字の形状にたどりついた。ここまでは紙に図を描いて考え、W字のアイデアが固まったところで針金と紙粘土で模型を作ってみた。W字の部分と把手の長さ、大きさなどを大雑把にイメージして作り、これをCADで設計して3Dプリンタで出力した。最初に出力したものは少し小さいと感じ、W字部分の長さや幅、厚み、把手とのバランスなどに修正を加えながら、3Dプリンタで出力しては改良する試行錯誤があったそうだ。食材を押し潰す先端部分は初期の設計では断面が思っていたより薄く強度に不安があった。しかし強度をあげるために同じ厚さにしていたW字全体を厚くすると、食材を掬いにくくなってしまう。そこで、W字の中央を一番厚くして両端は薄くなるように調整し、食材を潰す機能を確保しつつ、左右どちらの側からも食材を掬い取りやすくした。この部分の改良に一番時間がかかったという。
加藤さんの作品のもう一つの特徴は、W字部分から把手につながる、ひねったような独特のカーブだ。紙の上のデザインではこの部分は真っ直ぐだったが、紙粘土の模型で少し斜めになっている方が握りやすかったのでカーブをつけた。さらに右利き、左利きのどちらでも使える握りやすさも考えられている。加藤さんは右利きだが、調理器具に左利き用のものがあることから、利き手に関係なく使える形を目指した。3Dプリンタで作ったサンプルを友人や先生に左手でも握ってもらい、指に当たるなどの不具合がないか確認したという。さまざまな検討を経て最終的なデザイン、サイズなどを決めてCNC切削機で木製の作品を製作した。この切削機が上下二方向からしか使えないという制約に対応するためにも、W字から把手へのカーブを工夫してユニークなデザインを導き出した。「授業の課題がなければ、この形は生まれなかったと思います」と語る加藤さんは、この部分のデザインが気に入っていると明かしてくれた。出来上がった作品を使って家でポテトサラダを作ってみて、ジャガイモを潰す、マヨネーズを混ぜるなど思っていた機能は実現できたと確認でき、家族には握りやすいと評価されたそうだ。
優秀賞受賞の知らせは加藤さんにとって、とてもうれしいものだった。3年になってからいくつかのコンペに挑戦したが、成果が出なくて自信をなくしていたそうだ。そうした作品は授業の合間に作ったものだが、Washerは4月から7月まで、一番長い期間をかけて作り上げたものだったので、この作品で受賞できたのもうれしかった。特許庁長官賞は他の特別賞受賞者の中から選ばれると思っていたので、受賞の知らせには「すごくびっくりしました」と振り返る。デザインの分野に自分が向いているのか悩み、就職先も迷っていた時期だったが、受賞によって「やっぱりモノを作るのが好きだ」と感じ、その方面に進む決意ができたという。「身の回りで使うものを作りたいです」という加藤さん、意匠出願したWasherが製品化されて世の中で使ってもらえたらという願いもある。「木製はコストも高くなるし、手入れも大変なので、樹脂かステンレスでやってみたい」と考えている。
受賞によって意匠を出願し、特許庁長官賞では授賞式のプレゼンに向けてパワーポイントを見やすいように工夫して、大きな会場で発表するという新しい体験もできた。加藤さんにとってデザインパテコン応募は、将来に向けた分岐点になったそうだ。
