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令和8年度 会長就任2年目のご挨拶
令和8年度 会長就任2年目のご挨拶
日本弁理士会会長 北村 修一郎 
1.はじめに
本年 4 月 1 日より日本弁理士会会長の任期の 2 年目に入りました。皆様におかれましては、日本弁理士会の活動にご協力を頂き、心から感謝申し上げます。
会長1年目のスローガンは2 年計画に対するものなので、今年度のスローガンは前年度のものと同じです。
「それぞれの弁理士道を極めよう!尖れ、弁理士! 弁理士の多様な活躍に光を当てよう」です。
今、生成AIは、研究開発、ビジネス、教育、行政、そして知財実務を含む、あらゆる分野に影響を与え始めています。文章作成、要約、翻訳、調査補助、アイデアの整理など、従来は人が時間をかけて行ってきた作業が、短時間で一定水準まで到達する時代になりました。そして、その生成物の質は、確実に上がっています。
これからの弁理士には、より高度な専門性、応用力、説得力が求められることになります。
2025年度から取り組んでいる柱の事業の1つであるロールモデルの発表というのは、自ら活躍の場を切り開いてきた先駆者である弁理士の開拓精神を称えてそれを見習うとともに、ロールモデルとして示された業務の社会的ニーズを周知活動によって、より大きなものとし、また、その業務に参画する志のある弁理士にスキルを伝えて社会の期待に応えることを目標としています。急速に変わりつつある社会環境の変化に対して弁理士の対応力を強化していかなければなりません。
2年目に力を入れる取り組みの代表的なものを挙げて、目指すところを説明します。
2.重点施策・事業
(1)ロールモデルの発表
上で説明させて頂きましたロールモデルの一つとして、タイムスタンプを活用したオープン・クローズ戦略の活用については前年度の終わりにスキルを伝授する研修まで行いました。その他のテーマとして、知財コンサル、ブランディング戦略等、弁理士の突出した活躍をモデルとして前年度までにスキル伝授のための研修の準備、情報発信のためのコンテンツ作成を進めました。今年度は、クライアント開拓のための情報発信、参画する弁理士のためのスキル習得の研修を進めるとともに、新たなテーマとして農林水産事業者に対する知財活性化業務、コンテンツ事業者に対する知財サポート業務等を対象としたロールモデルを発表していく準備をしています。
(2)知財経営コンサルに対する取り組み
弁理士が主導する知財経営コンサルの拡大を図ります。
行政の補助金による特定の企業への知財経営支援の伴走は、その特定の企業に対しては継続的ではありません。特定の企業へ支援は、その成果の実績を他の企業で再現し広めていくためです。補助金による支援を終えたその後に、その支援を受けた企業が継続的なコンサルを、弁理士に対価を払って求め続けることが自立の最終的な姿です。
そこまでもっていくためには、支援企業が弁理士の知財経営コンサルを受けたことによる経済的利益を実感して、コンサルに時間とエネルギーを割いた弁理士に対価を支払う意識を支援企業にもってもらうところまでいかなければなりません。知財経営コンサルが有料で行うサービスであることが前提とならなければ、弁理士はその後の権利化業務に誘導することでしかビジネスを成立させることができなくなります。そうすると、弁理士が依頼者を導いていく方向が依頼者の経済的利益第一とならない方向へずれる可能性が生じます。
日本全国で弁理士が主導する知財経営コンサルを普及させるため、各地域の弁理士と、日本弁理士会の知財経営センター、そして各地域の経済産業局等の機関との連携を強化し、支援企業に経済的利益を実感してもらえる成功事例を積み重ね、弁理士が主導する知財経営コンサルを普及させていきます。
(3)農林水産事業者に対する取り組み
農林水産省の知的財産戦略である「農林水産省知的財産戦略2030」が策定され、農林水産事業の分野でも知的財産を戦略的に保護・活用していく必要があると社会からの要請も高まっています。
品種登録、地理的表示(GI)、地域団体商標や通常の商標を用いたブランド戦略の他、特許や意匠も総合的に活用した知財ミックスの戦略を駆使してはじめて農林水産業の知的財産制度を活用した保護ができることになります。それぞれ個性に満ちた農林水産事業に最適な戦略を作り上げていかなければなりません。
スマート農業技術の開発と普及を推進するため、関係者間のマッチングや人材育成等の様々な活動を推進するスマート農業イノベーション推進会議(IPCSA、イプサ)の動きも加速していて、動きのある場面で知的財産制度の活用を適正に行えるサポートが弁理士に求められます。
今年度は、現代農業の各種課題(アグリテック(スマート農業)、JAS等の規格・標準化、AI・データ契約、競争のボーダレス化、ブランド化等)を解決するために会員が研修で得た農水産業分野の相談・支援業務に必要な知識・スキルを、実践で活用する機会をより多く増やしていきます。そのために、各地域の農林水産事業者への知的財産リテラシーを向上させる講演等を行い、知財経営コンサルの普及と同じく、各地域の農林水産事業者に対する伴走支援を目標にしています。
(4)エンタメ・クリエイティブ産業に対する取り組み
海外展開を見据えたエンタメ・クリエイティブ産業戦略の現状と問題の抽出を行い、現状を把握した上で、エンタメ・クリエイティブ産業戦略における知的財産業務と周辺業務(契約、利用規約、著作権の許諾やその他の管理業務を含む)の研究・検討を行い、エンタメ・クリエイティブ産業戦略において弁理士が関わるべき業務の抽出と人材育成を行います。
対外的にエンタメ・クリエイティブ産業の保護育成には高度専門人材である弁理士の関与が必要であることを理解してもらうための情報発信を行います。
(5)標準化に関する取り組み強化
弁理士は「標準化戦略人材」および「規格開発・交渉人材」として位置づけられ、とりわけオープン・クローズ戦略の立案やそのサポートを担うことに期待されています。この期待に応えるべく、産業標準委員会や知財・標準化一体的活用検討WGを中心に標準化の現場で主導権を取るのに求められるスキルに関する研究を行い、会員研修で対応できる弁理士を増やしていきます。標準化戦略人材としてのスキルを重要事案の経験者から収集することは秘密性の高さのため難易度が高いですが、「標準化人材情報Directory(STANDirectory)」の登録弁理士数を増やし、高度専門家人材として自信をもって標準化戦略の策定をできるようにするためのサポートを強化します。
(6)AIへの対応
進化の速いAIツールを弁理士業務に利用する際のユースケースについて継続して検討を行います。当該検討に基づいて、会員が安心してAIを業務に活用できるように「AIツール利活用ガイドライン」の適時の改定を検討します。また、AIツールの利活用による業務効率化の手法等を主とする会員向け研修を開催し、会員のAIツール対応力の向上を目指します。
(7)受託事業(経営センター・支援センター)応札
日本弁理士会が知的財産制度の普及のために外部機関から要請を受けて弁理士を派遣する場合、弁理士の報酬が限られたものになってしまっています。一方、外部機関が事業の実施のために受託事業者に渡される費用は大きかったりします。受託事業者が高度専門家人材としての弁理士を理解していなければ、仕様書の段階で弁理士のタイムチャージも僅かなものとなってしまいます。
そのような状況を脱するために、日本弁理士会として前年度に獲得した全省庁統一資格を用い、関連団体が実施する入札案件の応札を行います。このような案件を受託することにより、弁理士報酬の適正化を目指すとともに、例えば会務活動を行っている会員を優先的に受託事業に派遣するなどの方策を講じることにより、会務活動、特に地域における会務活動の活性化を図ります。
(8)弁理士報酬の適正化に向けた取組
昨今の物価高の中にあって、弁理士事務所の手数料がなかなか上げられないとの声が弁理士から上がってきます。日本弁理士会が行ったアンケートでは、現在まで10年を超える期間で報酬が据え置かれている事務所の事例が複数報告されています。この10年の間に物価上昇、人件費の高騰、社会保険料の増加など事務所運営コストは確実に上昇しています。
弁理士の報酬額が固定されたままであると、事務所の運営コストの上昇の中での報酬の据え置きは、弁理士事務所の収益を圧迫し、継続性を担保するための採用や育成の余裕すらなくなり、持続可能な事務所経営ができなくなります。
このような課題を解決するために、公正取引委員会の方を講師とした研修や、弁理士と依頼者との価格に対する意識のずれから生ずる課題の共有を通して、弁理士の手数料に対する意識改革を進めます。低い手数料に合わせて時間をかけない手抜きのサービスをするのではなく、依頼者が求める付加価値を付けるために必要な手数料を依頼者に説明して納得してもらえるよう、弁理士が積極的に申し出ることができる環境を作っていきます。
3.むすび
激動の時代に、資質の高い若い人が弁理士の職業を魅力に感じて、弁理士を目指してくれるようになるために、そしてまた、既に弁理士として活躍している若い会員が未来に希望を持てるように、弁理士の活躍の場をさらに広げ、依頼者に大きな経済利益をもたらし、社会的に高く評価される弁理士が沢山生まれていく環境を作るための活動を日本弁理士会として行っていきます。当会の活動にご理解とご協力を賜りますようお願いいたします。