日本弁理士会の活動

ACTIVITY

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令和4年度パテントコンテスト
日本弁理士会会長賞
受賞者インタビュー

岐阜県立岐南工業高校

 


 2022年度のパテントコンテスト(以下パテコン)で日本弁理士会会長賞を受賞したのは岐阜県立岐南工業高校の武田優さん(2年、応募時、以下同)、中嶋鳳貴さん(2年)、酒井朋希さん(1年)、野村龍騎さん(1年)のチームが発明した「液汁を保持する弁当用ボード」だ。同校の部活動である電気研究会では顧問の石井正人先生の指導により、年間30程度の各種コンテストに応募していて、最も重要なものの一つとしてパテコンは位置付けられている。約40名の部員を「いつも同じメンバーにならないように」石井先生が適性などからチームを組み、応募するコンテストを割り振っているそうだ。チームブランディングから始め、アイデアを詰めて作品にして応募するまで、長くて2ヶ月ほどで年間のスケジュールをこなし、一人の部員は5ないし6のコンテストに取り組む。

 今回の受賞チームは、夏休みに入る頃から始動した。武田さんは前年度に別のチームで「液汁」をテーマにパテコンに応募したが結果が出なかったことから、「液汁」をテーマに今度こそはという思いを抱いていたそうだ。着想の原点は、毎日学校に持参するお弁当だった。自転車通学していると、揺れたり傾いたりしておかずの液汁が弁当箱の中に広がり、さらには漏れ出てしまう。おかずカップなど既存の商品は傾きに弱いし、弁当を詰める際にもいちいち手間がかかる。弁当箱に置くだけで済むボードにして、液汁をためて流れ出さないものを目指した。アイデアは4人で話し合いながら、よいと思う案が出たら、2年生が中心になってCADで設計し、3Dプリンターで出力して検証していった。

 受賞作は傾斜をつけた凹凸の最下部に溝を作り、ここに液汁をためるようになっている。この溝の断面を楕円形にして、溝と直角になる両端の壁を曲面にすることで傾いた時にも液汁が漏れ出ない返しの役割を果たすようにした。溝はどのような形なら貯留できるか正円、三角、四角などいろいろ実験したが、意外にどんな形でも液汁を貯留できることがわかって、最も多く貯留できる楕円形を採用した。「ためるのは簡単だったけど、傾けると出てしまうので、当初は平面で考えていたボードに壁をつけました」と武田さんは発明に至る過程を明かす。お盆の期間を除いた夏休みの間中、4人は毎日学校に集まってさまざまに試行錯誤を繰り返した。
 ようやく納得できる設計になっても、3Dプリンターの出力がうまくいかないという困難もあった。一度の出力に7時間ほどかかるので、夕方帰宅する時に出力を始め、翌朝に出来上がったものを見るとぐちゃぐちゃになっていて、がっかりしたこともあるそうだ。最終的にできた試作品で液汁を保持し、傾けても流れ出ないことを確認できた時は「これならばいける」と手応えを感じたという。できれば実際のお弁当で試作品を試してみたかったが、残念ながら、応募締め切りまでにその時間的余裕はなかったそうだ。

 応募書類を作成する段階では、発明を言葉だけで説明する難しさに直面した。「みんなで相談して、先生のアドバイスを受けて書きました」と中嶋さん。「パテコンで得た言葉で表現する経験はこれからも活かしていきたい」と武田さんはいう。パテコンに取り組む中で難しかったこととして、それぞれに次のような点を挙げた。「新規性などパテコンの応募要件をクリアするのが難しかったです。先行技術を調べてみると、自分たちが知らないだけで、すでにある技術もけっこうありました」(武田さん)。「溝の構造にさまざまなアイデアがあって、どれが一番いいのかを決めるのにも苦労しました」(中嶋さん)。「新しいモノを作ったことがなかったので、アイデア出しとか悩みに悩みました。もしまた機会があったら、今回以上の役割が果たせるように挑戦したいです」(酒井さん)。「初めてJ-PlatPat(特許情報プラットフォーム)で先行技術を検索したのですが、自分の知りたい情報がなかなか出てこなくて、検索ワードをあれこれ変えたり苦労しました」(野村さん)。

 パテコンの応募書類を提出した後は、4人それぞれに別のチームで新たなコンテストに取り組む準備に追われ、結果を気にする余裕はなかったという。前年度のリベンジを期していた武田さんは「優秀賞だけでなく、特別賞まで受賞できたことはびっくりしました」と受賞の感想を語る。家族に受賞と特許出願を報告したら「特許って、あの特許か」と驚かれたそうだ。今回の受賞で特許出願も経験したが、パテコンに取り組むまでは特許は企業が取得するもの、自分たちには遠いものだというイメージだった。同校は2022年度の工業所有権情報・研修館(INPIT)の知財力開発支援事業の支援校として、弁理士や大学教授など外部講師による知財の講習も受けていた。その中でお菓子や日用品といった身近な製品も特許技術があることを知るなどして、特許への関心も高まったそうだ。

 パテコンに積極的に取り組んでいる石井先生は、その意義について次のように語る。「世の中にあるモノを再現して、そこから技術を学ぶリバース・エンジニアリング的な要素ではなく、自分のアイデアを形にする教育が工業高校ではほとんど行われていません。これからの社会では、自分のアイデアを形にすることに可能性を感じます。モノづくりでは先行事例をJ-PlatPatで調べる習慣を身につけてほしい。こうした点で、パテコンは教育的価値があると思っています。さらに特許出願の経験、知財に関する知識が得られる貴重な機会となります。今後もパテコン、あるいはデザインパテコンを通して、自分で考えるモノづくりのマインドを育てていきたいと思います。」