日本弁理士会の活動

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令和5年度デザインパテント
コンテスト
日本弁理士会会長賞 受賞者インタビュー

新居浜工業高等専門学校



 2023年度のデザインパテントコンテスト(以下デザインパテコン)で日本弁理士会会長賞を受賞したのは、新居浜工業高等専門学校5(応募時)の新延亜利紗さんが考案した「ウェーブ状鉛筆」だ。同校の生物応用化学科では5年の前期に「知的財産」の授業が必修となっている。法律・制度をはじめとする知財に関する知識を学ぶだけでなく、授業担当の先生が選んだ論文から特許になる要素を抽出するといった課題(請求項の作成)も出される。この授業の一環として出された「丸い鉛筆に比べて持ちやすい鉛筆を考える」という課題は、新延さんの創造力を刺激したようだ。90分の授業中に、ウェーブ状鉛筆というアイデアが思い浮かび、色違いにして何本も並べたらきれいだろうとも考えたそうだ。このアイデアを提出したところ、知財授業担当の先生から意匠として面白いと評価され、デザインパテコンへの応募を勧められた。同校はこれまでにデザインパテコンで優秀賞を受賞した実績が4件、同時開催のパテントコンテストで優秀賞を受賞した実績が11件あり、デザインパテコンの受賞者の一人は新延さんの親しい先輩だったので、アイデアが評価され応募を勧められたこと自体がうれしかったという。

 応募すると決めてまず、同じアイデアがすでに意匠として登録されていないかを確認した。特許情報プラットフォームで意匠登録を検索するのは初めてのことだったが、「ウェーブ、鉛筆」などキーワードをいろいろ組み合わせて検索してみた。また通販サイトでも同様に検索をかけて、さまざまな製品情報を検討した。思いつく限りのキーワードで丸2日、検索を続けたという新延さんは、見慣れない意匠登録書類も含めた膨大な情報を読んでいくのは「知らなかったことをいろいろ知ることができて、楽しかった」という。その結果、考案したウェーブ状鉛筆が抵触する意匠はないと確認できた。

 授業で提出した最初のアイデアは鉛筆としての実用性はまったく考慮せずに形、外形だけを考えたものだった。デザインパテコンに応募するためには、鉛筆としての実用性、無理なく製造できるものであることも重要だ。ここで問題となったのは、従来の鉛筆のように真っ直ぐな芯が使えるか、既存の鉛筆削り器で削れるか、という二点だった。鉛筆の製造工程を調べて、芯を二枚の板で挟む方法でウェーブ状鉛筆も製造可能だと判断した。削ることに関しては、3Dプリンターで模型を作って確認した。

 生物応用化学科で学ぶ新延さんはCADの使い方は学んでいないため、同校のデザインエンジニアリング教育センターの先生の協力を得て模型を作った。模型ができた時には、自分のアイデアが手に取れるモノになって目の前にあることに感動したそうだ。イメージ通りの模型ができたが、ウェーブのカーブが大きくて真っ直ぐな芯に対応できないことがわかり、少しゆるいカーブに変更して模型を作り直した。この模型で削るシミュレーションをして、鉛筆を入れる角度を変えられない固定タイプの電動あるいは手動の鉛筆削り器は使えないが、ハンディータイプの削り器ならば自分で差し込む角度を変えられるのでウェーブ状鉛筆でも削れることがわかった。
 模型で実際に書く動作をしてみると、カーブに指をかけて鉛筆をしっかり握ることができると実感した。従来の鉛筆では持つ指の一点に力が集中するが、ウェーブ状鉛筆は指にかかる力が分散され、また下方向に力がかかりやすいので書きやすい。これならば手の力の弱い幼児や高齢者、障害のある人にも使いやすいのではないか、ユニバーサルデザインと言えるだろうと思った。頭の中のイメージだけではわからなかったことで、「自分のアイデアに新しい発見があって、すごくわくわくしました」と新延さんは振り返る。5年の夏休みは卒業研究でみんな毎日登校して実験などに取り組むそうだが、新延さんはそれと並行して応募書類の作成も進めることになった。最初に書いた応募書類に、新たに見出したユニバーサルデザインという要素のほかにも、SDGsの目標にも合致するなどの付加価値を入れるといいのではないかと思いついて、文章を再構成するのが大変だったそうだ。そんな夏休みは充実していたという。
 先輩の受賞例もあったので、この作品にかけた時間と努力が報われるといいなと優秀賞を期待していたが、日本弁理士会会長賞という特別賞の受賞は念頭になかったという。先生から受賞の知らせを受けた時もまったく実感が湧かなかったが、先生がにこにこしていたので、とてもうれしくなった。本校の特別賞の受賞が初めだったということで、先生もすごく喜んでくれた。特別賞授賞式は卒業式と重なったので出席できず、ようやく実感が湧いたのは学校に送られてきた賞状を手にした時だったそうだ。意匠出願では、厳密に位置を揃えなければいけない画像を、何回も修正して作成するのに苦労したという。
 今回の経験を今後、どのように生かしたいか新延さんに尋ねると、将来の夢を語ってくれた。
「デザインパテコン応募は自分のアイデアを発表できた貴重な経験になりました。自分のアイデアを世界に発信・発表して多くの人に見てもらうという点で、将来の夢である研究者が論文を発表するのと同じ感覚ではないかと思います。誰に説明してもわかりやすく伝える力が必要だということも痛感しました。それは今回も鍛えられましたし、これからも鍛えていきたい力です。」
 この経験は、研究者を目指して新たなステージに進む新延さんを後押しする力になるだろう。