平成29年度パテコンサミット in 一関工業高等専門学校

 

パテントコンテストに関するユニークな取り組みとして、一関工業高等専門学校は「パテコンサミット in 一関」を平成27年度から年に1回開催している。平成29年度末に行われた第3回の同サミットについてレポートする。

 

 

 

国立一関工業高等専門学校

開催の背景

 パテントコンテスト(以下、パテコン)でトップクラスの受賞実績を持つ一関高専は、知財教育の一環としてパテコン応募を組み込んだ授業を設けている。さらに「パテコンサミット in 一関」を、パテコンで実績のある高専あるいは大学などとの交流を図る機会としている。参加校が切磋琢磨してパテコン、さらには地域、日本の知財への意欲を高めていこうという趣旨で企画したという。

 同校は岩手県の「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」にも、岩手大学などと共に参画している。この事業は地域に学生たちが留まることのできる産業の創出・開拓、地域の求める起業家人材育成などを目的としている。「知的財産教育の普及」によって、特許をはじめとする知財を創出・獲得できる人材を輩出することで、地域産業の活性化につなげ、その結果として雇用を増やすことにより、人口流出を逆流させるのが狙いだ。パテコンサミットは、この事業の一環でもある(主催は、一関高専未来創造工学科 COC推進部会、貝原巳樹雄教授、梁川甲午教授、平林一隆准教授、八戸俊貴准教授)。

 

1. 基調講演

 パテコンの創設から関わってきた国士館大学副学長兼任学校法人国士舘理事(日本弁理士会パテントコンテスト委員会副委員長)の飯田昭夫教授は、パテコンは知財の認知度を高めることが当初の目的だったと語った。そこには、日本の特許出願件数が年々減っていることに対する危機感があった。学生の時から特許等の知財について実践教育が必要だということから、出願支援をするパテコンが構想された。従って、その目的は優秀な発明を表彰することではなく、従来技術の検索、明細書や図面の作成を経験し、特許取得までの流れを体験することにある。

 パテコンで群を抜く実績を誇る徳島大学は、学部から大学院まで一貫した知財教育体系がある。知財技能検定3級取得を含めた実践的知財教育に、パテコンへの応募も組み込まれている。これらを統括する出口祥啓教授は、創造力を生み出すことのできる教育とは何かを考えたことが出発点だったと明かした。パテコンへの応募といっても、学生からはなかなかアイデアが出てこないため、地域企業の協力を得て、ニーズを聞くだけでなく、学生の工場見学や技術者との交流を行い、応募作品のアイデアを思いつくヒントを得ているそうだ。

 出口教授はパテコンの課題として、発明の内容を他者がわかるように応募書類を書く訓練が必要であることを挙げた。さらに特許出願支援を得た発明が、なかなか商品化に至らないことも指摘する。徳島大学では平成30年度から大学産業院を立ち上げ、商品化を支援していく計画だという。

 

2.パテントコンテスト主催者賞受賞者による講演

 上智大学理工学部の岡田ひかりさんは、「らくらく安心松脂ケース」で選考委員長特別賞を受賞した。弦楽器を奏でるのに不可欠なのが弓に塗る松脂だ。松脂を塗ることで弓と弦の間に摩擦が生まれ、音が出る。従来の松脂ケースの使いづらさなどの欠点を分析し、これを解消するためのケースを考案したものだ。

「おろし器」で工業所有権情報・研修館理事長賞を受賞した一関高専の千葉梨佳さんは、潜在的なニーズのあるものの方がやりがいがあると考えて、この課題に取り組んだという。(詳細は受賞者インタビューを参照)

 平成27年度、一関高専在学中に「段ボール卍折り機」で特許支援対象者に選ばれた小野寺貴俊さんは北陸先端科学技術大学院大学に進学し、研究する創造性開発教育の考え方について紹介した。

 

3.各校の取り組み

 パテコンに積極的に参加する大学、高専の実践例が紹介された。

 山形大学ではシステム創成工学科1年次の必修科目に、知財に関する特別演習を組み込み、受講生の中から選抜でパテコンに応募している。これまで出願支援を受けて特許取得したものは、地元企業の協力により、商品化を図ってきた。同学科の木俣光正教授は、試作品を3Dプリンターでつくる際、発明者が機構のイメージしかないために3DCADに起こすのが難しいケースがあるという課題を挙げた。今後、2年次にパテコンへの応募にチャレンジする取り組みのほか、PBL実習科目の新設、アントレプレナー教育の推進により、知財教育をさらに充実させていく構えだ。

 群馬高専の場合は専門知識を生かすため、4年次に知財の概論を学び、5年次でパテコンに応募している。機械工学科の黒瀬雅詞教授は、先行調査により、社会における自分の研究の位置づけがわかるという点も含めて、パテコン応募に取り組んでいるという。学生から発明のアイデアがなかなか出ない場合は、講師側から情報を提供するほか、同校に設けられた地域連携テクノセンターで地元企業の技術相談を受けて、研究テーマの参考としている。

 沼津高専電気電子工学科の大津孝佳教授は、前任校の鈴鹿高専時代からパテコンへの応募に取り組んできた。沼津高専では知財マインドの育成に力を入れ、全学年で年間に一度は知財に触れるようにしている。特に環境、エネルギー、新機能材料、医療、福祉の分野を重視し、知財についてさらに学びたい学生には同好会のような形で「知財TKY(寺子屋)」を設けてパテコンに応募している。「知財TYK」では、発明の原理を40項目にまとめたTRIZを導入している。大津教授は、問題解決の道筋や課題の発見などについてTRIZの活用法を紹介した。

 仙台高専総合工学科では4年次に創造工学演習を必修として、パテコンへの応募につながる発明をグループワークで行っていることが、同科の伊藤昌彦教授から紹介された。4年次に入る前の春休みの宿題として、発明のアイデアを20個ほど考えておくことが課される。前期ではグループ内でそれらのアイデアを検討し、取り組みテーマを決め、役割分担して後期につくる。作品は学生同士の評価でパテコンに応募するかどうかを決め、パテコンに応募しないものは学内で発表しているそうだ。

 鶴岡高専創造工学科の正村亮准教授は、知財について多角的に考えられる人材の育成を目指した「総合工学」でのパテコン応募の方向性を示した。「総合工学」は1年次から4年次までの必修科目で、技術者倫理、知財の知識、アントレプレナーシップを柱にしている。アクティブ・ラーニングを主体として、これからの時代を生き抜くための、チームでプロジェクトを進行する能力を養っていく。その一環である創造実習で、今年度から4年次にパテコンに応募する予定だ。パテコンへの応募は学習のモチベーションとして有効だと同教授は評価する。

 一関高専未来創造工学科の梁川教授は、知財教育の一環として知的財産管理技能検定試験の実施会場誘致と、それに伴う受験講座を開設していた経緯を紹介した。また、同校ではパテコン応募だけでなく、小・中学生の発明創作募集など知財に関する様々な取り組みを行って、一関を「発明の町」にしたいという抱負を述べた。

 

4. ファシリテーション 

 参加者が3、4名のグループに分かれ、講演内容に基づいて課題を抽出する時間が設けられた。各グループともに活発な議論が交わされ、その要点が発表された。

・パテコンの授業対応について。パテコンに挑戦した学生が再挑戦する機会を授業のシステムに取り入れられないかと議論した。どのようにパテコンを授業科目に取り入れていったらよいのか。ただし、複数年でパテコンへの応募に単位を授与するのは難しい。再挑戦したい学生のモチペーションをシステム化するためにどうしたらよいか、考えていきたい。

・受賞作品を製品化することで、国産材の価値を高め、地域創生につながる形で活かせるとよい。例えば、岩手県ならば漆を利用する発明がそうした形で地域貢献できるのではないか。

・PBLに対してネガティブな意見が出たら、パテコンへの応募を前提としたグループによる問題発見解決型の取り組みは難しい。その場合、ゲーム理論のようなものをうまく活用できないかという意見が出た。

・発明のテーマとなるアイデアを見いだすのが難しい。グループワークや過去の例を利用する、春休みの課題など、応募の第一歩となるところで工夫したい。日常生活で、ちょっと不便だなと思うような気付きを大事にしたい。

・パテコンの在り方について。何のためにやっているのかが一番重要ではないか。パテコンは学生の能力を育てる手段であるべきではないか。そうした活用法を考えていきたい。

 

 

5.まとめ

 表彰式での受賞作品の発表とその一部の紹介だけでは窺い知ることのできない、コンテストの取り組み現場における苦心や課題、動機、機微、紆余曲折などをお互いに踏み込んで知ることが出来た。 パテコンに関する実質的な“対話・討論の場” にできたのではなかろうか。講演者、参加者、それぞれの「あぁ、そうなのか」、「えー、意外」 といった気づきや発見が生まれることにより、次の活動のエネルギー が生まれる。
 次回は平成31年3月20日(水)開催を予定しているそう。パテコンに興味のある方はご参加をお勧めする。