知的財産権とは

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営業秘密に関するコラム

                         「それパク」にも営業秘密?!
                                                令和5年度 不正競争防止法委員会
                                                     副委員長 大竹 健一

 「それパク」を見て知的財産に興味を持ちました。これは、ある学生さんの感想です。
 近くの大学で私はちょっとだけ知的財産の講義を担当しているのですが、今年度は「それパク」のおかげで、講義中の脱線トークに幅が出ました。
 「それパク」は、「それってパクリじゃないですか?」の略で、同名の小説を原作として2023年の春に日本テレビ系列で放映された、知的財産エンタメドラマです。知的財産部員が主人公、かつ、弁理士が3人も登場するということもあって、知的財産業界での視聴率は私の体感では5割を超えていました。
 「それパク」はエンタメドラマでありつつも、知的財産の専門家が心配になるくらい専門用語が連発され、それでいて専門用語が分かりやすく解説されることから、知的財産の知識を楽しみながら得られるという点で好評だったようです。
 そして「それパク」にも第9話などに「営業秘密」が登場しました。世間一般では企業秘密という言葉の方が馴染み深いと思いますが、それでも「営業秘密」という法律的な専門用語を使ったところに、このドラマの意気込みを感じました。
 ネタバレにならないように、今から「それパク」とはちょっと離れて「営業秘密」のお話をします。「それパク」に興味を持った方は、今でも全話視聴可能ですので、動画サイトなどで御覧下さい。あまり時間がない方にはダイジェスト版もあります。

 「それパク」では、ある凄いアイディアについて、特許出願をせずに「営業秘密」として隠しておくことにしました。その理由の一つは、特許ではそのアイディアが公開されてしまいそれを独り占めできる期間が限られているのに対して、「営業秘密」であればそのアイディアを人に知られず半永久的に独り占めできるからだと思われます。
 とは言え、あるアイディアを秘密にしていても、隠しておく意味がなくなる結果、もはや「営業秘密」ではなくなる場合があります。そのアイディアが採用された製品を他人が分解調査してそのアイディアがバレてしまった場合や、そのアイディアを他人が独自に思いついてしまった場合などがその例です。
 製品の構造に関するアイディアであれば、分解しなくても外観から採用されたアイディアが分かる場合も少なくありません。また、特許を出したことがある方なら実感できると思いますが、何か凄いアイディアを考えついたと思っても、実は同じアイディアを十数年前の人が考えていたという例が非常に多いです。人間というものはなぜか同じタイミングで同じことを考えるので、たまたま今は先に思いついたとしても、すぐ後に他人が同じアイディアを考えつくことだってよくあります。
 ですので、何か凄いアイディアを考えついた場合は、まず今までに同じ技術が無かったことを調査で確認した後、製品分解で分かるか、他人がすぐに思いつくか、などを検討して特許を出すか、「営業秘密」として隠すかを決めると良いと思います。その際は、特許を出願して特許権を取得することを、まずは念頭に置かれると良いと思います。特許権は、同じアイディアであれば、それがたとえ真似されたものでなくても特許権侵害だと文句が言える、とても心強い権利だからです。
 なお、あるアイディアを「営業秘密」として隠しておいたのに、他人が同じアイディアについて特許を取る場合があり得ます。この場合は、その他人から特許権侵害だと文句を言われる可能性がありますが、これを避ける秘策が特許法には準備されています。それを専門用語で先使用権(せんしようけん)と言います。文字通り、先に使っていたから大丈夫というものです。ですが、先使用権はそれを証明することに高いハードルがあり、また、日本の先使用権は日本でしか通用しません。将来、特許権侵害だという攻撃に対して、先使用権に頼ろうと考えている方は、事前に(ここがポイント)、知的財産の専門家である弁理士に相談されることを強くお勧めします。電子タイムスタンプの取得などを教えてくれるかもしれません。

 今回は「それパク」をきっかけにして、アイディアを「営業秘密」として隠すときの注意点についてごく簡単に紹介しましたが、いかがでしたでしょうか? 他の「営業秘密」コラムについても力作が揃っていますので目を通していただけると嬉しいです。最後まで読んでくださいましてありがとうございました。
                                                             以上