知的財産権の事例

CASE

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特許事例

フリクションボール

何度でも書き直せる筆記具

1本のボールペンで書いて、消して、また書けるのが、パイロットの「フリクションボール」である。消すといっても、筆跡を消しゴムで削り取るのとは別のメカニズムで、消しカスがでない。その秘密はフリクションインキにある。

フリクションボールペン

開発者の発想

一般的なゲルインキは水に顔料を混入する。フリクションインキは顔料の代わりに、発色剤、顕色剤、変色温度調整剤を封じ込めたマイクロカプセルが使われている。常温では発色剤と顕色剤が結合して筆跡を残す。この筆跡を、ペンのボディ後部のラバーでこすると、摩擦熱によって変色温度調整剤が働いて発色剤と顕色剤の結合が解かれ、インキの色が無色透明になる。インキ消去液など化学式の消去方法とも異なり、フリクションインキは何度でも書き直せる。
1975年に開発した、温度によって色が変化するメタモインキの改良を重ねて得たのがフリクションインキである。メタモインキは、変色温度の幅が狭く、マイクロカプセルもかなり大きかった。「インキとしての用途を広げるために、さまざまなニーズに対応した目標をたて、独自の材料や成分の開発も行い、らせん階段を登るように技術を蓄積してきました」と開発担当者は語る。
筆記具に用いるための改良では、マイクロカプセルを微小かつ均一にし、同時にカプセル膜の耐久性を高め、顔料の発色性を濃くするのが難しかったという。変色温度の幅を決める温度調整剤は、約20年にわたり多くの研究員によって、1000以上の化合物が評価されてきた。フリクションインキは、消えた状態を保つ変色温度の幅を約80度に広げることに成功した。
インキの改良にめどがつき、2004年前半にボールペンの開発が正式にスタート。ボール径0.7mmのフリクションボールは05年末にフランスで先行発売され、爆発的なヒットとなった。日本でも07年3月に発売するや、ビジネスシーンから勢いがつき、予想を上回る売れ行きに東京の大手有力店では品切れが1ヵ月続いたという。日本発売から1年間で4000万本(世界)を売り上げた。
07年9月に0.5mmの極細タイプを発売するに当たり、筆跡をより濃くするインキの改良もあった。さらに蛍光ペン、24色のカラーボールペンなど、フリクションシリーズが続々と登場している。

特許出願するには

パイロットの商品保護の取組み

知的財産権について、同社知的財産部門長は「営業活動を優位にするための権利取得と、営業活動に支障をきたさないよう他社権利の侵害防止を行うことが基本的な役割と考えます」と述べる。長年の研究成果がつまったフリクションボールも知的財産権でしっかり守られている。