日本弁理士会の活動

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先生のための(知財の)ひきだし!数学編

大人でも思わず引き込まれるおもしろ知財エピソード集です。 小学生から高校生までを対象に幅広くご利用ください。

テーマ:コンパスの補助具

Keywords コンパス、補助具、実用新案
法域 特許法、実用新案法
教科 数学、算数

コンパスは、円を描くときなどに使う2本足の道具で、足先についた針を中心に回し、もう片方の先につけた鉛筆で円を描きます。小学校3年生の算数で使い方を勉強します。
小学校3年生の男子児童が、3年生になって5月に初めてコンパスを使った際、1つの円を描くのに1時間もかかってショックを受けました。片手で持つと針が紙から外れてしまうし、指で一気に回すこともできませんでした。
そこで、そのコンパスを簡単に使うことができる「補助ハンドルつきラクラクコンパス」を発明(考案)し、第76回全日本学生児童発明くふう展で上位の「入選」に選ばれ、実用新案登録されました。(実用新案登録第3215557号)
仕組みはシンプルで、ペットボトルのキャップの中央に穴を開け、コンパスの細い持ち手にかぶせ、その上に鉛筆けずり器から取ったハンドルをつけました。ペットボトルのキャップの部分を片手でしっかり持って支え、反対の手でハンドルを回すと、うまく円を描くことができます。「おさえて回す」というコンパスのコツが身につくようになっています。



1  コンパス用補助具
2  ハンドル
21 装着部
23 ハンドルつまみ
3  把持部
6  コンパス

※  図は実用新案登録公報より引用したものです


(履歴情報)2020/09/14 掲載

テーマ:フラクタル日除け

Keywords フラクタル構造、シェルピンスキーのガスケット、幾何学
法域 特許法、意匠法
教科 数学

 自然界には、一見すると複雑でランダムに見えて、規則性が隠れていることがあります。そのような規則性として、例えば、海岸線、雲の形や人体の血管の枝分かれ構造などに現れるフラクタルが有名です。
 そんな、自然の中で見出される数学的な神秘に着想を得た、「フラクタル日除け」という発明があります。先に行われた東京2020オリンピック・パラリンピックにおいても暑さ対策として使われました。
 フラクタルとは、図形の部分を拡大すると元の図形が現れる性質、自己相似性を有することを特徴とした構造をいいます。例えば、下図にあるシェルピンスキーのガスケットは、正三角形から各辺の中点を結んでできた三角形を切り取るという操作を延々と繰り返すことで作成することができます。



 森の樹木の葉の分布は、シェルピンスキーのガスケットを四面体に拡張したシェルピンスキー四面体というフラクタル構造を有すると言われています。
 このシェルピンスキー四面体の形に小さな葉っぱを模した小片を並べて、人工的に木陰を作る発明について特許権が与えられています(特許5315514(※1):左図)。
 この発明は、「多数の小さな葉が一定の空間中にフラクタル構造をなすように分布するという植物の構造が、太陽光を遮りつつ、太陽光に由来する熱を効率よく大気へと放出するのに適しているのではないかとの着想」を得て生まれたそうです。                       
 上記のような「図形」は、数学の分野である幾何学の対象となるものですが、特許権による保護の対象となる発明は、”自然法則”を”利用したもの”である必要があり、実は、数学上の公式それ自体は、発明に該当すると言えず、特許を受けることができません。一方で、今回紹介した「フラクタル日除け」のように、自然法則を利用したアイディアとして落とし込むことにより、特許を取得することができる場合があります。また、特許のほか、物品の形状について、美観の観点から意匠登録受けることができる場合もあります(例えば、意匠登録1398775)。

(※1) https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-5315514/199076F1B5CE24A28C94C05968EC44CBD6DF69DA0239BA24E76AF94C69AC773A/15/ja

(履歴情報)2023/03/23 掲載

テーマ:折り紙から生まれた革新技術

Keywords 幾何学、ミウラ折り、折り紙
法域 特許法
教科 数学

 一瞬で紙を展開、収納できる地図やパンフレットを見たことはありますか?一度使ったことがある方の中には、その便利さとすごさに驚いた方もいるのではないでしょうか。地図などをぱっと開いてさっと閉じることができる秘密は、三浦公亮博士が考案した「ミウラ折り」という特殊な折り方にあります。
 「ミウラ折り」は、下図のようにタテ・ヨコの折り目を直交させず、どちらか一方をジグザグにすることで、折り目で囲まれた図形が長方形ではなく平行四辺形となる折り方です。

 

 

 「ミウラ折り」は、元々は、宇宙構造物の研究において考案されたアイデアです。宇宙空間で大きな構造物を作るためには、運ぶときには小さく、宇宙空間では大きくする仕組みが必要です。小さい力で、しかも一方向の力で大きく開閉できる「ミウラ折り」は、世界的にも高く評価され、実際に、1995年に打ち上げられた「宇宙実験・観測フリーフライヤ」において「ミウラ折り」による太陽光パネルの開閉実験が行われました。

 この「ミウラ折り」はコンパクトにたためるメリットを活かし、冒頭でも紹介した地図をはじめ、商品カタログ、ハザードマップなど多くのものに応用されており、地図は、実用新案登録(実用新案登録第1419989号)もされています。さらに、「ミウラ折り」は商標登録もされています。
 別の例として、缶の表面にダイヤモンド型のパターンで凹凸が施された「ダイヤカット缶」も、「ミウラ折り」を活かして作られたものです。このダイヤカット缶は、デザイン的に美しいだけではなく、「ミウラ折り」の技術により、薄い缶でも高い強度を持つ缶を実現させています。

 このように、幾何学的なアイデアが世界的に評価される技術の基礎となっています。

(履歴情報)2025/03/12 掲載

テーマ:「素因数分解」があなたの個人情報を守っている!

Keywords 素因数分解、素数、暗号
法域 特許
教科 数学

 インターネットでやり取りする情報の暗号化に「素因数分解」が使われているのを知っていますか?
 「素因数分解」はある自然数を素数のみの掛け算で表すことを言います。
 例えば、「6」を素因数分解すると「6=2✕3」、「105」を素因数分解すると「105=3✕5✕7」のように、桁数が小さい自然数については比較的容易に素因数分解をすることができます。一方、600桁の桁数の大きい自然数については、現代のコンピュータでも素因数分解は困難です。
 このように桁数の大きい自然数は素因数分解が困難であるという特性を活かした「公開鍵暗号技術」が電子メールの送信やデータの保管などに使われています。
 1978年にマサチューセッツ工科大学に在籍していたRonald Rivest氏、Adi Shamir氏、Leonard Adleman氏という3人の研究者によって発明された公開鍵暗号技術(RSA暗号)は、当初特許権(US patent 4,405,829)で保護されていましたが、2000年に特許権が放棄され、無償で利用できるようになり、現在広く普及しています。
 他方、コンピュータ技術も進んでおり、現在研究されている「量子コンピュータ」が実用化されると、大きな素数同士を掛け合わせた数の素因数分解が瞬時に解くことができるようになるため、RSA暗号が簡単に解読されてしまう可能性があります。
 情報化が進展し、暗号技術の重要性が高まる現代において、楕円曲線暗号と呼ばれる暗号方式なども提案されており、新しい暗号方式の開発も進められています。

 

 

 

 

 

 

 


 (履歴情報)2025/03/12 掲載