知的財産権の事例

CASE

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特許事例

VOCALOID

自然な歌唱音声の合成ソフト

ヤマハ株式会社が2003年に発表した「VOCALOID(ボーカロイド)は、楽曲のボーカルパートを制作できる歌声合成技術と、その応用ソフトウェアだ。さまざまな楽器がデジタル化されてきた中で、歌声の合成も研究されてきた。同社では研究実績を踏まえ、2000年からスペインのポンペウ・ファブラ大学と共同で実用化に取り組んだ。

VOCALOID

開発の経緯

歌唱音声のデジタル化は、歌詞が聞き取れることが必要条件だ。ボーカロイドでは、実際の歌声から取り出した音声の素片を周波数領域で接続し、加工している。「最初の難関は声の素片の単位を決めることだった」と、ボーカロイドプロジェクトのリーダー(当時)・剣持秀紀さんは振り返る。音素の変化する部分で切った素片を、どう接続したら滑らかになるか、試行錯誤を繰り返し、最終的に、音素が変化する部分ではなく、伸ばし音の部分を加工することで、聞き取りやすさと、自然な歌声に近づけることに成功した。
ボーカロイドは、音程や歌詞などを入力する「エディタ」、歌声の合成エンジン、歌声ごとのデータベースである歌声ライブラリ(現・ボイスバンク)で構成されている。当初想定された用途は楽曲にコーラスを入れる、ボーカルを仮に入れる、などであった。ビジネスとしてスタートする際には、歌声のバリエーションを増やすために、他社がボイスバンクを開発できるようにすることを考えた。そのため、ボーカロイドのボイスバンク制作の技術を他社にライセンスする枠組みをつくる必要があり、この枠組みを考えるのも苦労した点の一つであった。また、ライセンス先は国内に限らなかったので、ボイスバンク制作を教えるためにイギリスの会社をはじめ欧州にも出張した。
ブロードバンドが普及した2007年に、より自然な歌声の合成が可能となるなどの進化を遂げたボーカロイド2を出した。「初音ミク」(クリプトン・フューチャー・メディア)に代表されるシンボルキャラクターが設定されたボーカロイドのソフトが次々に出て、動画サイトでバーチャルなボーカリストとして注目されたのはこの頃である。ニコニコ動画のボーカロイドで作られた曲(ボカロ曲)の投稿サイトがクリエイターの作品発表の場となり、爆発的なヒットにつながった。

特許出願するには

知的財産権の活用

カラオケ人気曲には、さまざまなクリエイターが生み出したボカロ曲が多数入っている。ボーカロイドは楽曲制作のハードルをぐっと低くし、たくさんの人気曲を世に送り出したのである。「ボーカロイドは楽器として位置づけています。ほかの電気・電子楽器と同じように曲づくり、音楽の創作活動に対する敷居を下げ、新たな手段を提供することで、新たな音楽の可能性を広げられると思います」と剣持さんは展望する。2022年には合成エンジンにAI技術を搭載したボーカロイド6を発売し、よりナチュラルで豊かな表現力のある歌声を実現するなど、新しい楽曲づくりのツールとして、ボーカロイドは世界の音楽文化の発展に貢献している。