農水知財の活用Q&A

知財ミックス

育成者権と特許権や商標権を組み合わせるとどのような保護の相乗効果を図ることができるのか、身近な事例で教えてください。

栃木県産のイチゴ(🍓)を例にして、種苗法による育成者権の保護と特許権や商標権の相乗効果についてみてみましょう。
種苗法は種苗の区別性等を栽培試験するなどしてイチゴの実物審査をします。登録品種には育成者権が与えられ、登録日から25年のあいだイチゴの実物販売などを独占することができます。それでも、市場価値の高い種苗は、盗難や海外流出の事例があとを絶ちません。2000年にイチゴ品種「とちおとめ(登録番号:5248号)」が海外から国内へ違法に輸入販売されるという事件がありました。このような事件などを踏まえまして、2006年に栃木県はDNA配列によるイチゴ品種の識別方法を特許出願しました。この発明は、2010年に特許(特許番号:4469955号、発明の名称:イチゴ品種のDNA配列差異を利用したマルチプレックス法に基づく識別方法)を取得しました。DNA情報は登録品種の特性にありませんが、特許請求の範囲にDNA情報を記載することができます。このイチゴ品種の識別法は客観的な審査を経て登録されていますので、特許発明のDNA識別法は基本的に信頼できます。育成者権侵害の裁判では現物主義の観点から海外産「とちおとめ」(🍓)と栃木県産「とちおとめ」の比較栽培試験をおこなうことがあります。特許発明の識別方法によって両種苗のDNA型を調べますと、特性表の栽培試験の結果を補強することができるかもしれません。このように育成者権に特許権が加わりますと、違法なイチゴ(🍓)の販売や逆輸入などを思いとどまらせるという精神的な抑止力がより強く働くものと思われます。

スカイベリー

左の写真のイチゴはかなり大粒のイチゴです。このイチゴは2014年に品種登録されたイチゴ品種「栃木i27号」(登録番号:第23749号)です。育成者権の存続期間は、品種登録の日から25年で、2039年まであります。令和2年の種苗法改正では品種登録の番号や登録品種などを種苗に表示しなければならなくなりました(令和3年4月1日施行)。この義務化によって店頭販売されているイチゴ種苗が登録品種に該当するのかどうかはすぐにわかるようになりました。
また、栃木県は、平成24(2012)年にイチゴなどの野菜類を指定商品とした「スカイベリー」を商標登録出願し、同年に商標登録(登録番号:第5519463号)されました。商標権者には登録商標「スカイベリー」をイチゴなどの野菜類に独占的に使用する権利が与えられます。商標権者でない人は、無断で、イチゴ(🍓)に「スカイベリー」を使用することができませんし、イチゴ(🍓)の種や苗にも「スカイベリー」をつけることができません。商標権の存続期間は2022年までですが、商標権の場合は10年単位の更新登録を何度でもすることができます。育成者権と異なって商標権は永続的な権利といえます。更新登録を繰り返していきますと、育成者権の消滅後(2039年)でも、登録商標「スカイベリー」を継続して使用することができ、「スカイベリー」ブランドの価値を日本国内に定着させることができます。

当社はゲノム編集によるバラの遺伝子を改変して食用バラの苗木を開発しました。一般消費者にモニターになってもらって来春から園芸店でこの食用バラの苗木を販売しようと考えています。知財の保護はどのようにすればよいのでしょうか?

食用バラの苗木を開発なさったということですので、知財の保護については以下のことをお薦めします。複数の知財(品種登録(育成者権)、特許権、商標権など)が利用できるため、どのような活用が適しているか知財全体に通じている弁理士にご相談ください。

(1)品種登録(育成者権)
農林水産省に対して品種登録の申請ができます。登録要件は、比較栽培試験などの現物比較です。重要な形質で区別される品種が登録されますので、食用という形質だけでなく、他の重要な形質も特定することが大切です。ゲノム編集をしたとのことですので、バラエティに富んだ複数の品種ができると思いますが、品種登録は品種ごとです。このため、複数の出願をすることが必要です。
また、品種名称が登録されると、登録された品種の名称を使うこと及び「PVP」マークの表示が義務となります。名称は、登録商標があった場合、変更が必要になります。登録まで2年以上かかっており、権利期間は最長30年です。

(2)特許出願
弁理士に依頼して特許出願を行うことができます。特許法では、このようなバラそのもの(「・・特定のDNA配列を含む食用バラ」)、バラの作出方法、バラの加工品(食品)、加工方法、エッセンスオイルなどの多方面から権利化することができます。現在は、苗を売るということですが、このバラの将来的な活用を考えて、複数の特許出願を行って権利を取得しておくと、ビジネス上も有用です。

(3)商標登録出願
商標は保護を求める商品を指定して出願します。例えば、苗だけではなく、食用バラを原料とするジャム、食品用香料、トッピング用の冷凍の花弁等の他、香料その他の商品を指定できるため、主な利用分野を検討する必要があります。仮に、他人が食品用香料について商標権を取得すると、あなたのバラの苗を買った人は、食品用香料を販売することができなくなります。
また、ある商品について商標権を取得すると、その商品に類似する商品に類似する名称を、他人が使用することも禁止することができるようになります。このため、商標登録出願をすることをお薦めします。例えば、品種名として「サマーイブニング」を使用した場合、この名称が品種登録されていないこと、他に類似の名称がないこと等の要件を満たせば、指定商品を「バラの苗木」として商標登録を受けることができるからです。食品のネーミング等も商標登録を受けることができます。

(4)モニターに苗木を渡す場合の注意事項
栽培試験やマーケット調査のためにモニターを利用する場合は注意が必要です。
公知になると登録の障害になるので、守秘義務を課すことが第一です。さらに、特許出願や新品種出願を先に済ませておくと安全です。「モニターの感触が良ければ権利化する」という考えは、秘密管理が難しいので、リスキーです。モニターとなる一般消費者の方に対しては、特許出願後に苗木を渡すことが重要です。守秘義務と増殖禁止も約束条項にしてください。

私の研究室では培養液を使ってイカの筋肉細胞を培養しました。寿司ネタにちょうど良い大きさに培養しました。回転ずしチェーンに販売しようとしています。知財の保護はどのようにすればよいのでしょうか?

寿司ネタにちょうどよい大きさのイカの筋肉細胞についての知財は、以下のような保護が考えられます。人工イカ肉(人工イカネタ)、その生産方法(ネタ形状の組織培養方法)、生産設備、加工方法、加工食品(人工イカ寿司)などが保護の対象になり得ると考えられます。

(1)特許出願
弁理士に依頼して特許出願を行うことができます。特許法で保護される対象としては、その作製方法に特徴があれば「小型のイカの筋肉の産生方法」、「その方法によって産生された小型のイカの筋肉」、培養液に特徴がある場合には、「食用イカの筋肉を生育させるための培地」、また、工場で使用する「小型イカの筋肉用自動製造装置」等が考えられます。

(2)商標登録出願
類似品の販売を阻止するために、商標登録出願をすることをお薦めします。例えば、商品名として「×××イカの加工品」を使用した場合、他に類似の名称がないこと等の要件を満たせば、指定商品を「食用小型イカの加工品」として商標登録を受けることができるからです。
特許、商標については、国内のみならず、外国でも権利を取得することが可能です。地理的表示については、経済連携協定等を結んでいる国との間では、日本の登録を受けていると相互に保護されることとなっています。

(3)生産体制の整備と流通の確保
回転ずしチェーンに販売しようとするのであれば、一定の量を定期的に供給できる体制を作る必要があります。鮮度を維持したまま輸送できる方法、容器、輸送方法等、地元の漁業協同組合その他のこうしたノウハウを持っている会社等に相談することをお薦めします。

(4)GI登録
他人との差別化のために、このイカの筋肉細胞の産地等を表示することも検討してみてください。例えば、地元産のイカを使っているのであれば、地理的表示登録の申請を農林水産省に対して行うことも検討してみてください。

(5)回転ずしチェーンに販売する場合の注意事項
一定の量を定期的に供給できる能力のある会社と契約を結ぶ必要があります。特許権又は商標権がある場合には、製造、販売等についてのライセンスを設定し、ライセンス料を受け取ることができます。なお、登録商標を意味する®を付けること、断りなく商標を変更使用しないこと等の制限を付けておくことをお薦めします。

(6)その他
このイカの筋肉細胞、培地の分譲と、産生方法等についてのノウハウ等の開示には注意が必要です。他の研究室等から研究用の名目で、ノウハウの開示を求められても、開示は義務ではありません。開示する場合には、守秘義務契約を締結しておき、他人への開示や販売等の禁止事項も明記し、契約解除をしやすくしておくことをお薦めします。

国内の一地方で新たな品種の農作物を栽培し品種登録の手続きを検討している他、農協と地理的表示について協議している者ですが、この農作物の海外への輸出を考えています。輸出する際において、知財による保護は可能でしょうか?

農作物の保護と言えばすぐに品種登録による育成者権や地理的表示が思いつきますが、これらについて海外での保護が可能か否か及び、その他の保護手段による海外での保護が可能かを以下に説明します。

(1)育成者権による海外での保護
国内で品種登録することにより日本国内にて育成者権が発生しますが、海外での品種保護に際しては、植物の新品種の保護に関する国際条約であって、品種の開発と流通を促進することが目的のUPOV条約が存在しています。国内での品種登録とは別に、このUPOV条約により海外で品種登録されれば、その品種が外国で保護されることになります。
但し、全ての国がこのUPOV条約に加盟しているわけではないので、詳しくは弁理士にご相談ください。

(2)地理的表示による海外での保護
地理的表示とは、農林水産物・食品等の名称で、その名称から当該産品の産地を特定でき、産品の品質等の確立した特性が当該産地と結び付いていることを特定できる名称の表示をいい、「GIマーク」というものを地理的表示と併せて表示することで、その農林水産物等がより確実に保護されます。
そして、海外でも、国家間の国際約束によって日本の地理的表示の保護が可能です。例えば欧州連合(EU)や英国との間では、地理的表示の日本との相互保護を現在行っております。
但し、全ての国で保護されているわけではないので、育成者権による海外での保護と同様に、詳しくは弁理士にご相談ください。

(3)その他の保護手段による海外での保護
新しい技術を用いた農作物であれば特許権取得による保護を受けられる可能性があります。特許による海外での保護のためには各国毎に早期に特許出願し、特許権を取得しなければなりませんが、特許協力条約による国際出願を日本の特許庁に行えば、時間的余裕が得られつつ、特許権取得が可能となります。
他方、農作物を海外にてブランド化を図り、より高収益が得られるようにするためには、商標登録による保護が考えられます。商標権を海外にて取得するためには、各国毎に商標登録出願をしなければなりませんが、商標の分野においても、マドリッド協定議定書による国際登録出願を日本の特許庁に行えば、日本での商標登録を前提に各国での商標登録が容易となります。
いずれにおいても全ての国がこれらの条約や議定書に加盟しているわけではないので、詳しくは弁理士にご相談ください。

近年、畜産業者の規模が拡大する傾向にあり、規模拡大に伴い家畜に対する伝染病対策が重要となっています。対策を具体的に種々考えていますが、この伝染病対策の知財による保護は可能でしょうか?

家畜が感染しないためには伝染病のウィルスが外部から侵入しないようにする必要があります。このため、従業員の衛生管理は当然のことですが、まず鶏舎や畜舎をウィルスが侵入しにくい構造とすることが考えられます。また、大規模な畜産業者は大量の飼料が必要となり、この大量の飼料の衛生管理も重要となります。さらに、衛生管理を厳密に行って出荷した製品である食肉を他の生産者のものと差別化してより高い価格で販売することを考えても良いかと思います。
以上より、以下のような知財による保護を検討できます。

(1)特許出願
鶏舎や畜舎をウィルスが侵入しにくい斬新で特殊な構造とした場合、鶏舎や畜舎の新たな構造を発明と捉えて特許出願し、特許権を取得することが考えられます。
特に鶏舎や畜舎の構造であれば外部からも容易に判別でき、他人に模倣される可能性が高いと言えます。他方、他人が同様の構造を採用した場合も、模倣の判別が簡単にできることから、侵害事実の把握も容易といえます。このため、可能であれば特許出願することをお勧めします。

(2)ノウハウ化
種々の機材や飼料が畜産業には必要となりますが、衛生管理のためにこれら機材や飼料に放射線や紫外線を照射することが考えられます。特に大量に消費する飼料への殺菌のための放射線等の照射は重要と言えます。但し、単に放射線等と言っても、十分な殺菌効果を得るには波長、強度、照射時間等の検討が必要で有り、また、大量の飼料に効率よく放射線等を照射できるか否かの観点も必要になります。このため、最適な照射条件が具体的に得られているのであれば、波長、強度、照射時間等の照射条件を他人に模倣されないようにノウハウとして、管理することが考えられます。

(3)商標登録出願
衛生管理を厳密に行って出荷した製品である食肉を他の生産者のものと差別化したい場合には、商標登録出願して食肉をブランド化することが考えられます。
具体的には、「○○鶏」や「○○豚」等の衛生管理と関係が窺えるような名称あるいはデザイン等を考える他、保護を求めたい商品やサービスを指定して商標登録出願します。ご質問の場合「食肉」や「肉製品」等が指定すべき商品として考えられますが、他の商品や関連のサービスを指定することも考えられますので、主な利用分野を詳細に検討する必要があります。
そして、ある商品やサービスについて商標権を取得すると、その商品に類似する商品等に類似する商標を、他人が使用することも禁止できるようになります。このように競合商品名防止の観点からも、商標登録出願をすることをお勧めします。 

登録品種名称をブランドにも利用しようとするときにどのような点に留意すべきでしょうか?

登録品種名称は、種苗の流通時には表示が強制される点、品種登録を受けた品種の名称を特定人に独占させないという観点から、種苗法も商標法もそれぞれ登録が規制されていますが、それぞれ法目的が異なり、それぞれの法目的に相応した、商品の類似範囲が存在するものとされています。したがって、種苗法における商品の類否と、商標法における商品の類否の判断は異なるものとなり、慎重に品種名称を決める必要があります。
従来は、〇〇県XX号等の連番付名称が採用されることが多く、登録商標と品種名称の棲み分けが自然とされることが多かったのですが、近年品種名称を流通名(ブランド化)とする方が多くなってきました。
この点、〇〇県XX号等の命名方式は、品種系統の派生時にも特段の問題も発生しないのですが、流通ブランド名を品種名称とするとき、改良品種の品種名称もどう予定するのかも含め検討されるべき点、今後留意すべきこととなるでしょう。
例えば、収穫物と種苗の出願商標が登録品種の名称と認識される場合に、「当該登録品種に関する収穫物」又は「収穫物全般(果実、野菜等)」を指定商品とする場合は、商標法第3条第1項第3号に該当し、また、商品の品質について誤認を生ずるおそれがあると認められるときは、商標法4条第1項第16号に該当するものとされます。仮に米の品種登録名称と「麦穀」の登録商標が市場で混同を生ずる可能性もあるのです。したがって、将来の改良品種名称や加工品名称への利用等の商品展開も含め、それぞれの検討を計画的に遂行することが望まれます。

私は、虹色の大輪の花を咲かせる新品種のユリを開発しました。この新品種を知的財産権として保護したいと考えています。植物に関する技術を保護するための知的財産権としては、特許権と育成者権があると聞き及んでいますが、どう使い分ければよろしいでしょうか。特許出願と新品種出願のどちらか一方を行えばよいのでしょうか、それとも、両方の出願をした方がよいのでしょうか。コストパフォーマンスの観点からアドバイスをお願いします。

1. 新品種のユリの開発の新規な技術は何か?保護されるべき対象は何か?
一口に、新品種ユリの開発と言っても、その中身は多彩です。すなわち、ユリ自体が新規植物又は新規技術であることに加えて、当該ユリを作出するための手法や栽培方法も新規技術であることが、一般的に、多いです。
ユリの新品種開発においては、F1品種である場合は、交配する親ユリとして何を選択するのか、遺伝子組換技術や遺伝子編集技術を使う場合は、その具体的操作技術、栽培方法が特殊である場合は、その具体的栽培方法が、新品種ユリの開発に大きく関与しています。
そうすると、新品種ユリ自体は、新品種登録と特許の両者の対象となり得ますし、栽培方法等の手法は、新品種登録の対象にならずとも、特許出願の対象となります。

2. 植物特許権の保護範囲と新品種登録による育成者権の保護範囲は?
植物特許の保護対象は、他の特許と同様に、「技術的思想」であるのに対して、新品種登録の保護対象は「植物体」それ自体です。新品種出願の説明書には、特許出願で必要な「クレーム」(保護を求める範囲)を記載する欄が存在しません。特許出願の「クレーム」では、品種「ユリ」よりも上位の科属、すなわち、ユリ属全域やその上位のユリ科全域の植物に及ばせることや、品種よりも下位の遺伝子まで及ばせることができます。よって、一般論としては、特許による保護の方が広い権利を得ることができると言えます。

3. 出願手続きと登録要件
出願⇒審査⇒登録という大まかな手続きの流れは、両者同じか、又は、類似していますが、登録要件は、全く異なっています。特許法では、特許要件中には、新規性や進歩性という重要な要件があります。種苗法では、それらの特許要件に対置する要件として、①公然知られた他の品種と区別できる「区別性」、②同一の繁殖段階に属する植物体の全てが特性の全部において十分に類似しているという「均一性」、③繰り返し繁殖させた後においても特性の全部が変化しないという「安定性」、④出願品種の種苗又は収穫物が、日本国内において品種登録出願の日から一年さかのぼった日前に、外国において当該品種登録出願の日から四年(永年性植物として農林水産省令で定める農林水産植物の種類に属する品種にあっては、六年)さかのぼった日前に、それぞれ業として譲渡されていないこと、が要求されています。
審査は、特許出願は、基本、書面審査ですが、新品種登録出願は、種苗管理センターによる栽培試験、或いは現地調査という特許審査にはない審査方法が採用されています。

4. 特許権と育成者権の相違
特許権の存続期間は、出願日から20年ですが、育成者権の存続期間は、品種登録日から25年(永年植物は30年)とされており、育成者権の存続期間の方が特許権よりも数年長くなっています。

5. 権利行使
特許権の場合は、特許侵害製品の製造業者だけでなく、その製品の販売者や利用者にも権利が及びますが、育成者権の場合は、カスケイド原則という原則が採用されています。この原則によりますと、品種利用には、種苗段階、収穫物段階、加工物段階における品種の利用の各段階がありますが、種苗を用いた収穫物の生産や、その加工品の生産について育成者権者が許諾権を行使する機会があった以上は、収穫物段階や加工物段階の利用者に対して権利行使をすることが許されません。これば、両者の権利行使の大きな相違になります。
また、侵害局面においては、育成者権の行使には、行政機関の所謂品種保護Gメンの支援を受けることができますので、育成者権者は大変心強いです。特許権侵害においては、このような支援は全くありません。

【特許出願/新品種登録出願選択のキーポイント】
両者の出願を行うと、当然、出願費用や維持費用が倍増することになります。品種登録と特許の上記相違点を考慮して、一方のみの出願を行うか、両方の出願を行うか、コストパフォーマンスの観点から最終決定をすることになります。その場合の留意点を挙げますと、次の通りです。

(1) 新品種の栽培方法に関する技術は、特許出願で保護することを忘れてはなりません。品種登録出願では保護できません。
(2) 新品種のキーポイントが遺伝子レベルで把握することができ、そのキーポイントが新品種の現物のユリ以外のユリ属やユリ科全域に適用できる可能性があるなら、新品種登録出願と平行して特許出願もすることをお勧めします。広い権利保護範囲で特許を取得できるからです。
(3) 新品種のキーポイントが、特許又は新品種登録の何れか一方で十分保護できるかの技術的判断は慎重にする必要があります。その判断の結果、何れか一方のみの出願に限定すれば、コスト低減が達成されます。この場合、権利の存続期間を考慮することは重要です。特許の場合、審査期間が長引けば、特に、拒絶査定不服審判や審決取消訴訟の手続きを余儀なくされた結果、登録が大幅に遅れた場合は、実質的な権利存続期間は極端に短くなります。新品種登録の場合は、登録日が存続期間の起算日となりますので、このような事態は発生しません。
(4) 新品種登録出願と特許出願では、登録要件が大きく異なっていることに留意しなければなりません。新品種が農園で誰でも見学することができる状態であれば、それは、公知と言うことになりますので、特許要件の新規性を喪失していることになりますが、その場合でも、譲渡されていなければ、新品種登録要件は充足しています。このような登録要件の違いがありますので、各出願の登録要件充足性を吟味した上で、出願をする必要があります。

農水分野でも知財ミックスの重要性を聞くことがありますが、知財ミックスの意義はどのようなものでしょうか?

知財ミックスは、複数の異なる制度を活用して、技術や商品等における知的財産を保護するものです。そして、その意義の一つには、互いの制度の保護内容を補完することが挙げられます。
たとえば、地域名を付した農産物の名称を保護する場合、
・地域団体商標・・・登録には一定以上の周知性が必要で、原則として、権利は国ごとに有効である
・地理的表示・・・登録には、生産の背景となる気候や伝統などの地域的特性と品質との関連性が必要で、内容に応じて、一つの登録で外国も含めた保護が可能の場合もある
といった違いが双方の制度の間にはあり、それぞれの使いやすさや効力に相違があります。
また、農業機具において技術的特徴が外観に表れている場合、特許と意匠の双方の対象となる場合があります。その時、特許は細かな実施態様にとらわれずにコンセプト的に権利を押さえることが可能なことが多いのに対して、意匠は具体的構成を特定して権利を取得するため、他人による容易な形状改変によって権利から逃れられる場合があります。逆に係争時に、特許については無効や権利の減縮のリスクがあって、権利行使が難しい場合でも、意匠は一見把握性や無効のなりにくさ、類似範囲にまで及ぶ効力によって、使い勝手に優れているケースもあります。

また、知財ミックスのもう一つの意義として、複数の権利がそれぞれ独占権として働くことで、市場での優位性において相乗効果を上げることも期待できます。
たとえば、ハウスの骨組みに蔓を這わせて着果させるカボチャについて、その栽培技術を特許(特許第2509148号)で守りながら、「空飛ぶパンプキン」の商標を登録して(商標登録第2597162号)消費者に訴求することで、市場での浸透効果を高めている例もあります。

このように、知的財産の活用においては、それぞれの制度や権利の特性を理解して、その技術や商品に適した保護の連携を図ることで効果を高めることが期待できます。