農水知財の活用Q&A

ノウハウ

私は、最近スマート農業への取り組みを開始し、スマート農機や水田の水管理システムを導入しましたが、当地の気象条件や圃場の土質に合わせ、独自の調整を行ったうえでこれらを運用しています。
このような調整には、試行錯誤や創意工夫が必要で結構な労力を費やしているのですが、このような工夫から得た知見はどのように扱うのが適切でしょうか。

農業や林業、水産業に携わる皆さんが普段行っている独自の調整や、ちょっとした工夫や顧客リスト,地域のネットワーク等も「ノウハウ(営業秘密)」と呼ばれる立派な知的財産です。その調整のための労力によって得られた知識が他の人に伝わると、労力を費やした人が損をし、労力を費やさずに知識を得た人が得をします。そのようなことはあってはなりません。農業を続けていくやる気も失われてしまうことでしょう。そのために、その知見を守らなければなりません。

ここで、ノウハウにはいろいろなものがあります。

技術上の情報としては、スマート農機や水田の水管理システムの調整方法の他にも、

  • ・代々引き継がれてきた栽培方法
  • ・施肥のタイミング
  • ・効率的な耕耘方法・土づくりの工夫
  • ・植物の品種
  • ・蓄積された栽培データ
  • ・自分で編み出した肥料の量とバランス
  • ・授粉の方法、餌の調合などがあり、

営業上の情報としては、
  • ・顧客リスト,取引先情報
  • ・地域の人的ネットワークなどがあります。

このようなノウハウは、一定の条件の下、不正競争防止法という法律で保護されます。
保護を受ける条件としては、秘密として管理されていること(秘密管理性)、有用な営業上又は技術上の情報であること(有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)です。

まずは、何がノウハウに該当するかを見直し、その工夫を紙媒体のメモではなく電子データ化し、きちんと秘密の状態に管理することが大事です。

そして、他人に教える際は、どんな相手であっても、きちんと契約を結ぶことです。契約書や覚書等で書面化することが大切です。
秘密保持契約という契約を結んで、第三者に情報を開示しないこと、契約期間中に同種若しくは類似の事業を行わないこと、などの条項を盛り込みます。これらの条項に違反した場合に損害賠償の責任が生じることもしっかりと記載しておきます。

また、いわゆる「地理的表示保護制度」という制度があり、その制度で地理的表示(「GI」)の登録を求めることができます。その場合に、申請書に産品の特性というものを書きますが、そこに上記の技術上の情報(例えば、受粉の方法、餌の調合等)が含まれるような場合は、それは具体的に示さず、例えば、「独自の方法で交配」する等と抽象的に表現しましょう。

これらの点について難しいと思われる際は弁理士に相談してください。

農林水産省のウェブサイトにも例えば下記ガイドラインをはじめとしてノウハウ管理に有用な情報が掲載されています。
農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン
~農業分野のノウハウの保護とデータ利活用促進のために~
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/tizai/brand/keiyaku.html

ノウハウをうまく管理できれば、農林水産業で事業を継続するのに十分な利益を上げて後継者を探すことも容易になるでしょう。

温泉水を活用した陸上養殖業を営む法人ですが、このたび地域の商工会が企画する視察会の候補に挙がり、商工会の会員が施設内を視察することになりそうです。
養殖に用いている設備、機具、水槽の一部については、秘密にしたいと考えています。どのように対応すべきでしょうか?

原則として知得されたくないノウハウが含まれる施設内への第三者の立ち入りは、禁止することが重要です。
もちろん施設内を管理する装置のパラメータや、水温計などの数値が表示されるモニタなどを覆うなどして重要な技術情報が漏洩することを防ぐことも考えられますが、視察会に参加される一部のメンバーは、表面的な情報を秘匿したとしても養殖に有益な情報を把握できるかも知れません。
有益なノウハウについて、知的財産として事前に保護を受けることができないかを検討してください。仮に知的財産権としての保護が受けられる場合には、第三者へ開示する前までに出願手続などを行うことが重要です。
このような事前の対策を採ることで、仮に養殖に対して有益な情報、技術が視察によって漏洩したとしても事後的に法律上の救済を受けることができます。

具体的な保護の方法は、以下のようなものが想定できます。
(1)技術的アイデアとしての保護(特許権、実用新案権による保護)
どちらも、技術的なアイデアを保護対象とする点で共通します。
特許法は、物(養殖用水槽の循環機構など)のアイデアに加えて、方法(給餌方法、水質、照明の管理方法、稚魚の育成方法)のアイデアも保護の対象となります。実用新案権に比べ、特許庁の審査官による審査を受けた後に登録されるので法的な安定性が高く、強力な権利と言えます。
実用新案法では、物のアイデアのみを対象として、特許庁の審査官による審査を受けることなく、一定の条件を満たすことで早期に登録されます。権利行使する際は、特許庁に対して権利の有効性を確認した後に行う必要があります。

(2)物品のデザインとしての保護(意匠法による保護)
意匠法は、物品の美的外観を保護対象としています。例えば、養殖用水槽の内壁に描かれた模様なども保護の対象となる場合があります。また施設内での水槽や設備の配置態様なども保護の対象となりえます。

(3)その他の保護手段による保護(不正競争防止法による保護)
上述した特許法などの産業財産権は、新規な技術、デザインを開示する代償として独占権が付与される制度となっています。
これに対して、技術やデザインなどの有益な情報を開示せずに秘密状態で管理している場合には、不正競争防止法に基づいて保護を受けることができます。
最近の法律改正により、AIを用いた養殖方法の開発に欠かせない蓄積されたデータ(例えば養殖に関わる種々のパラメータの数値)であっても保護を受けられることになりました。

まずは第三者の目に触れる前に、日本弁理士会あるいは最寄りの日本弁理士会の関係機関にご連絡ください。知的財産権の専門家である弁理士が、貴重な財産を適切に保護するための助言を致します。

農業のノウハウとはどのようなものですか?

農業のノウハウには様々なものがあります。例えば、土作りの方法や、施肥の方法、栽培の方法などそれが自分の農業の強みになっていること、それが簡単なものでも皆が容易に真似できないと思われる情報は、ノウハウと言えるものです。
ご承知のように、特許の場合は、20年間独占実施できる権利期間があります。この20年を過ぎると皆が使える技術となります。ずっと独占できる権利ではありません。しかし、他者が考え付き容易にまねができるものは、ノウハウとして秘匿し続けることができませんので、特許で保護する必要があるでしょう。例えば、栽培技術や、土作りの方法や、施肥の方法の中でも外から見て直ぐに分かるものであり、他者が真似をしたら困るものは特許を検討する必要があるでしょう。
特許権により保護するか、ノウハウとして秘匿し続けるか、技術により使い分けるのがよいといえるでしょう。

国内の一地方で従業員を雇用してブドウ栽培をしている農家ですが、複数の肥料の配合及び、複数の消毒剤の配合や散布時期等の独自の栽培方法をこれまで研究し、使用しています。このため、他の農家のものより糖度の高いブドウを生産できますが、このような栽培方法を適切に保護できる手段はないでしょうか?

ブドウ等の農作物の栽培方法自体は、種苗法では保護されません。しかしながら多くの農家では栽培方法に関し独自のノウハウを実際にはそれぞれ持っていると思います。
栽培方法は営業秘密として保護することも可能ですが、全ての栽培方法をノウハウとして秘匿するのではなく、場合によっては積極的に開示することを考えてください。

1.ノウハウとして秘匿する場合の注意点
営業秘密は、民事や刑事の責任も問える不正競争防止法により法的に保護されています。そして、栽培方法などのノウハウは営業秘密に含められると考えられますが、実際に保護されるためには一定の要件が必要となります。以下にその要件を説明します。
第1に、「秘密管理性」が要求されます。
秘密管理性とは、栽培方法が秘密として管理されていることですが、具体的には、ブドウの栽培方法をノウハウとして秘密管理の意思が従業員に対して明確に示され、従業員がその意思を認識している必要があります。
第2に、「有用性」が要求されます。
有用性とは、ノウハウとされる栽培方法自体が有用な営業上又は技術上の情報であることですが、具体的には、これらの情報自体が客観的に農家の事業活動に利用され、また利用されることによって、経費の節約、経営効率の改善等に役立つものであることが必要です。
第3に、「非公知性」が要求されます。
非公知性とは、公然と知られていないことですが、具体的には保有者である農家の管理下以外ではその栽培方法を入手できないことをいいます。

2.秘密保持契約について
例えば協力関係にある農協等の関係者に栽培方法を公開する場合には、事前に秘密保持契約を締結すべきです。ただし、契約を締結する際の契約書はいろいろなケースに応じて作成する必要がありますので、専門家に相談することを考えてください。

3.一部をノウハウとせずに公開することの検討について
ノウハウとしてクローズ化するだけでなく、農場を視察等の目的で外部の者が入った場合に容易に理解されるような栽培方法の一部内容は、発明として特許出願することを考えても良いでしょう。特許権を取得することで、第三者に実施許諾して、ライセンス料を得ることも可能となります。