ヒット商品を支えた知的財産権 知財 平成26年 改訂版 「はっぴょん」よもやま話 私「はっぴょん」は、2000年に日本弁理士会の マスコットとして誕生しました。 弁理士制度100周年に当たる1999年に、当時の広報 委員会においてマスコットを作製することが発案されました。 最初にデザインのオーディションが行われ、ハーズ実験デザイン研 究所が提案した私がマスコットに採用されました。 ?マークが帽子をかぶっているようで面白いでしょう。 私の命名作業においては、小中学生に名前募集のアンケートを 行い、当時小学校5年生の平井裕香さんが応募した「はっぴょん」 が約200通の中から採用されました。 実は、私の名前の由来は『アイディアが「はっ」と湧いたら「ぴょ ん」と弁理士に相談してね』です。 私のデザインと名称は、共に日本弁理士会所有の登録商標と なっております。 (登録番号:第4586464号、第4586465号参照) 7月1日は「弁理士の日」 平成9年(1997)、弁理士法の前身で ある「特許代理業者登録規則」施行日 を記念し、7月1日を「弁理士の日」に 制定しました。 ●名前:はっぴょん ●名前の由来:アイディアが「はっ」と湧いたら 「ぴょん」と弁理士に相談してね ●誕生日:2000年7月1日●性別:不明 ●デザインの由来:「かしこくて可愛い、パワー のある」という全体のイメージから ◎特許や意匠、商標に関する「?」を「!」に変え るプロフェッショナルである弁理士をイメージ ◎疑問に思ったこと「?」、ひらめいたこと「!」、 これらを具体化し、形にしていく手助けをす る弁理士をイメージ ◎その手助けの力強さをイメージする握りこぶ しをイメージ ◎かしこさ(CLEVER)、公平さ(JUSTICE)を イメージした、帽子部分 これらのシンボルである「?」「!」「握りこぶし」を モチーフにして、親しみやすいキャラクターが 生まれました。 ヒット商品を支えた知的財産権 知財 ◎発刊にあたって 平成26年 改訂版 ヒット商品のかげに知的財産あり。ヒット商品が生まれる 要因には様々なものがありますが、その一つに知的財産 があります。そのようなヒット商品と知的財産との関わり合 いを、私共広報センターでは季刊誌「パテント・アトーニー」 (英語で弁理士のことです。)に連載しております。今回、 読者の皆様方からのご要望に応え、1冊にまとめたものを 発刊することができましたことは、大いなる喜びです。この 本には実に多くものドラマが詰まっています。この本を読ん でいただき、知的財産、更には弁理士というものに対する 理解を深めていただければ幸いです。 最後になりましたが、この本を手にとり読んでくださった 読者の皆様方に心から感謝いたします。 日本弁理士会広報センター 雪見だいふく………………………………1・2 (株)ロッテ モンカフェ…………………………………3・4 片岡物産(株) クイックルワイパー………………………5・6 花王(株) Xスタンパー………………………………7・8 シヤチハタ(株) ドッチファイル (株)キングジム ……………………………9・10 アルバ・スプーン…………………………11・12 セイコーインスツルメンツ(株) エンゲルス…………………………………13・14 (株)ハシ・コーポレーション プルトップ缶………………………………15・16 (有)谷啓製作所 糸ようじ……………………………………17・18 小林製薬(株) 電柱支持ワイヤーの蔦止め……………19・20 ミツギロン工業(株) ペコちゃん…………………………………21・22 (株)不二家 シャトルシェフ……………………………23・24 サーモス(株) フライフイッシング・リール……………25・26 (株)マシンエンジニアリング(MEG) FNテープ…………………………………27・28 東京日進ジャバラ(株) モノグラム…………………………………29・30 ルイヴィトンマルティエ〈LVJグループ(株)〉 タタミジョーズ……………………………31・32 (株)ネピア プリーツ・プリーズ………………………… 33・34 イッセイ・ミヤケ・ブランド〈三宅デザイン事務所〉 熱さまシート………………………………35・36 小林製薬(株) リンガマスター……………………………37・38 リンガマスター(株) ファイナルファンタジー…………………39・40 (株)スクウェア エアサイクルクリーナーVC-J21V…41・42 (株)東芝・東芝テック(株) 対震丁番……………………………………43・44 美和ロック(株) 寿司職人助人……………………………45・46 鈴茂器工(株) チョークレスボード………………………47・48 (株)パイロット チルドマン…………………………………49・50 オリオン機械(株) 傘ぽん………………………………………51・52 新倉計量器(株) プラヒート…………………………………53・54 ミサト(株) LOGOS……………………………………55・56 (株)ロゴスコーポレーション ループタイ…………………………………57・58 石崎資材(株) サンアクティブFe………………………59・60 太陽化学(株) ローパークリーニング…………………61・62 オーエイケアーシステム(株) 破れんゾウ…………………………………63・64 (株)ミツギロン ぬちマース…………………………………65・66 ベンチャー高安(有) CW-X………………………………………67・68 (株)ワコール 関さば関あじ……………………………69・70 大分県漁業協同組合 白い恋人……………………………………71・72 石屋製菓(株) ヘップリング………………………………73・74 (株)イノウエ ヘアコンタクト……………………………75・76 (株)プロピア 山崎…………………………………………77・78 サントリー(株) 超立体マスク………………………………79・80 ユニ・チャーム(株) コエンザイムQ10………………………81・82 日清ファルマ(株) アニマルラバーバンド…………………83・84 アッシュコンセプト タイムズ…………………………………85・86 パーク24(株) ZOー3ゾーサン………………………87・88 フェルナンデス 消臭力……………………………………89・90 エステー(株) ハイブリッドファン………………………91・92 (株)潮 キュキュット………………………………93・94 花王(株) AIT………………………………………95・96 (株)アルファ ゆワイター………………………………97・98 矢崎総業(株) CLEANTRACK®……………………99・100 LITHIUSPro®-i 東京エレクトロン(株) きき湯……………………………………101・102 ツムラライフサイエンス(株) フリクションボール……………………103・104 パイロットインキ(株) …………………………105・106 久光製薬(株) デンターシステマ………………………107・108 ライオン(株) グッスリン2-V…………………………109・110 (株)クレイ沖縄 ココセコム………………………………111・112 セコム(株) 「すっく」の傘…………………………113・114 (株)ベネッセコーポレーション ブレスサーモ…………………………115・116 ミズノ(株) ® うま味調味料味の素……………………117・118 味の素(株) フランスパン工房……………………119・120 (株)おやつカンパニー 野菜生活100…………………………121・122 カゴメ(株) ハイドロテクトカラーコート…………123・124 ECO-EX TOTO(株) XYLITOL………………………………125・126 (株)ロッテ 貯犬箱…………………………………127・128 (株)ウィズ/(株)ハピネット ポストフレックス………………………129・130 保安道路企画(株) カップヌードルごはん…………………131・132 日清食品(株) アミノコラーゲン……………………133・134 (株)明治 MOTOMAN-SIA……………………135・136 MOTOMAN-SDA (株)安川電機 ※ハリナックス…………………………137・138 コクヨS&T(株) ※VOCALOID………………………139・140 ヤマハ(株) ※.e-sharp…………………………141・142 ぺんてる(株) ※モノMAXフィルター………………143・144 (株)モノベエンジニアリング ※GOPANSD-RBM1001…………145・146 パナソニック(株) ※ネジザウルスGT……………………147・148 (株)エンジニア ◎取材協力各社/季刊誌「パテント・アトーニー」掲載順 ◎なお、本文中の年月日、数字、社名、役職、特許制度等の 表記は「パテント・アトーニー」掲載当時のものです。 ※印はH26年度版追加分です。 付録 ●知的財産権の種類 ●特許・実用新案・ 意匠・商標登録の流れ ●こんなときは、 弁理士にご相談ください ●日本弁理士会のプロフィール 1・2 3・4・5・6 7・8 9・10 CONTENTS 真冬にアイスクリーム!? 逆転の発想で開発された。 雪見だいふく 特許第1537351号 ●代理人/浜田治雄弁理士 「アイスクリームは夏だけのものではない。コタツに当りな がら大福餅をパクつく感覚のアイスクリームがあれば、きっと 人気商品になるはずだ。」そんな逆転の発想で開発されたの が、このロッテの「雪見だいふく」である。発売以来、若い女 性を中心に変わらぬ人気を保っている。さらに高品質化など のイメージアップ戦略で、新たな購買層の掘り起こしを図り、 年間売上高10%増の80億円達成を目指すという。 1 雪見だいふく ロッテはアイスクリーム業界では後発メーカーであり、参入当時は先発の 乳業各社が高いシェアを持っていた。加えて2年続きの冷夏の影響で販売 が落ち込み、気候に左右されないユニークな商品の開発が急務となってい た。こうした中、四季を通じての人気商品である大福餅にヒントを得て、中身 のあんの代わりにアイスクリームを入れることを思いついたのだという。しか し、商品化には色々な問題が待ちかまえていた。アイスクリームを包む餅は 冷凍すると固くなってしまい、食感が著しく悪い。餅が柔らかくなるよう暖め て食べたのでは、アイスクリームが溶けてしまう。ロッテは、餅の成分の改良 などによってこれらの問題をクリアしていった。同社はこれらの製品・製法を 昭和56年5月に特許出願し、同年10月には全国一斉に発売を開始した。 狙い通り、女子中・高校生の間で評判になり、瞬く間にヒット商品となった。 一方、特許取得作戦は必ずしも順風満帆だったわけではない。思わぬ つまずきもあった。昭和59年2月に出願公告が行なわれるが、これに対して 7件もの特許異議申し立てが出る。翌60年7月にこの異議が認められ、拒 絶査定が下された。ここで諦めてはそれまでの苦労が水の泡、直ちに拒絶 査定不服の審判を請求する。4年にわたる審理の結果、拒絶査定は覆さ れ、平成元年12月に特許を勝ち取る。発売直後から他社の類似品が多く 市場に出回っていたが、特許を境にして水が引いたように消えていった。そ の後、「雪見だいふく」はロッテの独占商品として長くヒットを続けることに なったのである。 このような「雪見だいふく」の成功は、商品差別化戦略による後発メー カーの市場参入事例として典型的なものであろう。しかしその成功の裏に は、「特許」という公権力のお墨付きが無限の圧力となってライバルメー カーを駆逐していったことも、また忘れてはならない事実であろう。 雪 見 だ い ふ く ※注・「雪見だいふく」は(株)ロッテの登録商標です。 取材協力/株式会社ロッテ 2 輸入商社から国内トップクラスの レギュラーコーヒーパックメーカーへ。 モンカフェ 特許第1504901号 ●代理人/中山伸治弁理士 「レギュラーコーヒーをティーバックの手軽さで」そんなコン セプトで発売されたモンカフェは、発売以来10年以上経った 今でも、相変わらぬヒットを続けている。年を追うごとに販売 数が伸び、現在では年間1億袋を越えるという。 3 モンカフェ 片岡物産は、社名に示す通り元来商社であり、英国トワイニング社の総 代理店になるなど、紅茶などの嗜好品に高いシェアを持つ輸入商社であっ た。しかし、自社商品の開発という商社の枠を越えた新たな課題に挑戦す る。この背景には、年間を通して安定して売れる独自の商品が欲しいという 事情もあったし、第2の柱であるインスタントコーヒーの販売を何とか伸ばした いという気持ちもあった。 同社は「インスタントコーヒーは手軽さの反面、風味や香りの点でレギュ ラーコーヒーに劣ることが消費伸び悩みの原因である」と読んでいたから、イ ンスタントコーヒーの手軽さでレギュラーコーヒーがいれられるようにすれば、 爆発的なヒットになると考えた。そしてその読みは、正に正しかった。 モンカフェは、明らかにティーバックの発想を利用している。一杯分のコー ヒーの粉末を袋に詰めて濾すようにすれば、手軽にレギュラーコーヒーが楽 しめるという訳だ。ただ、それだけでは本物の味は出せない。ポイントは、お 湯を上から注ぐドリップ方式をコーヒーカップの上でいかに再現するかという ことであった。同社の研究員は、これを達成するフィルターやホルダーの構 造を多く考案し、実用新案や特許を申請、取得していった。こうして大ヒット 商品、モンカフェが誕生したのである。 こうしたモンカフェの成功は、メーカー志向を強める中小の商社にとって は大変参考になるであろう。しかし、その裏には多くの地道な研究開発努 力があったことを忘れてはならない。モンカフェに適したコーヒー豆の選定、 フィルター素材の改良等を始めとして、パッケージ機などの生産機械を独自 に開発するというハイテクメーカー顔負けのことまでしている。 そして、そのような研究開発の成果について、一つ一つ周到に実用新 案や特許を取得していった。その甲斐あって、発売以来、物まね品など全く なく超ヒットを続けることができたのである。 モ ン カ フ ェ ※注・「モンカフェ」は片岡物産(株)の登録商標です。 取材協力/片岡物産株式会社 4 お年寄りや子供でも簡単に扱える掃除具。 クイックルワイパー 実用新案登録第2055025号 花王(社長・常磐文克氏)のフローリング用掃除具「クイッ クルワイパー」は、1994年秋の発売以来、2年間で200億円 以上の売り上げを記録したというヒット商品。しかし、人気商 品ゆえに、好調な売れ行きと同時に、模倣品の横行という悩 みも抱えた。これに対して同社では、実用新案権や商標権、 不正競争防止法に基づく権利を行使して、市場からの排除 に成功する。望月牧郎特許部長(弁理士)は「損害額は微々 たるものだが、会社の信用や消費者の保護を第一に考えて、 積極的に手を打ってきた」と振り返る。 5 クイックルワイパー クイックルワイパーは、生活環境の変化や人口の高齢化を視野に入れ て開発した商品。アルミと合成樹脂不織布を主な原料としているため軽量 で、力のないお年寄りや子供でも簡単に使える。ゴミを吸い取る部分には 独自に開発した不織布(特許出願中)を使い、繊維でゴミを絡め取る仕組 み。不織布は保持具の穴に挟み込むだけで固定でき、取り替えも簡単だ。 そのうえ騒音とも無関係なので、病人の寝ている部屋の掃除にも向く。 こうした点が消費者に受け入れられ、たちまち市場に浸透するが、その 人気が模倣者に狙われることになった。酷似品からコンセプト(考え方)が 似たものまで合わせると、一時は十数種類の模倣品が出回った。中には包 装のデザインがソックリで、中身は粗悪品という悪質なものもあり、真正品と 間違えて購入した消費者から苦情が舞い込むほど。こうした事態に同社 は、販売店などに警告を出すと同時に新聞広告で消費者の注意を喚起 するなど素早く手を打った。また販売店の協力を求めて、模倣品の流通経 路を探った。その結果、模倣品は近隣諸国からの流入品であることが分 かった。 現地で製造元を押さえ込むのは難しい。そこで税関で差し押さえるという 水際作戦に出た。望月部長はこう語る。「東京税関に申し立てたのです が、WTO(世界貿易機関=ガットの後続機関)条約の発効という背景も あって迅速に動いてもらえた」。 差し押さえは、大阪などの税関でも行なわれ、模倣品の流入はほぼ阻止 できた。ただ、コンセプトが似通った競合品はいぜん市場に出回っている。 望月部長は「コンセプトの類似まで特許で押さえるのは困難。開発に当たっ ては、基本的な考え方についても権利を押さえられるよう工夫する必要が ある」と知的財産権を念頭に置いた開発の重要性を強調している。 ※注・「クイックル」は花王(株)の登録商標です。 ク イ ッ ク ル ワ イ パ ー 取材協力/花王株式会社 6 ハンコ社会の必需品 Xスタンパー 実用新案登録第1120473号 ●代理人/綿貫達雄弁理士 日本は“ハンコ社会”である。役所に対する申請書から会社 の残業届、書留郵便や宅配便の受け取り、果ては町内会の 回覧板までハンコが要る。こんな社会ニーズに応えて、職場 や家庭で“必需品”扱いされているのが、シヤチハタ(本社名 古屋市、社長・舟橋紳吉郎氏)のスタンプ台や朱肉の要らな い浸透印「Xスタンパー」である。 7 Xスタンパー その種類の中でも特に「ネーム印」においては昭和40年の発売以来、累 計1億2千万本の販売実績を誇る。国民1人ひとりが1本ずつ使った勘定 だ。これほどのヒット商品にもかかわらず、模倣品がほとんど出回らないとい う。その秘密は特許権をはじめとする工業所有権によってガードされている ことで模倣品につけ込むすきを見せない綿密な特許管理と、製法と品質 管理の難しさ、多品種の品揃えには大変な投資がいることにある。 その基礎を築いたのが創業者の故会長・舟橋高次氏である。同社は戦 前、スタンプ台の専門メーカーだった。昭和20年代後半、日本は戦争の痛 手もようやく癒えて、産業界には事務能率向上の機運が高まった。高次氏 は多様化の時代の変化をいち早くくみ取り、新製品の開発を日夜模索し た。そこでひらめいたのが、ゴム印自体にインキを含浸させてなつ印できるス タンパーの開発だ。しかし、同社にはゴムを扱った経験がなく、試行錯誤の 連続。当時、売り出されたばかりのウレタンフォームを苦心して入手、印字体 を試作したが、なつ印できるのはせいぜいセメント袋や米袋。ハンコのように 書類に押せる代物ではなかった。 同氏は大学、公設研究機関、ゴムメーカーなどに日参し、教えを乞い、技 術の蓄積に努めた。その間、テストにテストを重ね、失敗の連続であり、研究 開発に携わった全員の努力の結果誕生したのが、体積中の60~70%に 微細な連続気孔を持つ印字体だ。この構造によってインキの量が抑制さ れて、なつ印時ににじんだり、垂れ落ちたりせず、書類にきれいななつ印が できるようになった。これは、Xスタンパーの基本特許でもある。さらに売り上 げを伸ばしたもう1つの開発成果に、スプリング式の”スライド“がある。スライド はスプリングによって上下動し、なつ印しないときには印面より下方に出て いる。このため、印面キャップをとっていても机や書類、着衣が汚れにくい。 研究開発の成果は特許権だけでなく、実用新案権、意匠権、商標権 で”多重防護“するのが同社の戦略で、デザインやネーミングの保護も決し ておろそかにしない。 林良男法務部部長は「当社はスタンプ台が営業の中心だったころから 類似品の市場流入を厳しくチェックしてきた。そうした伝統が あって、業界にもシヤチハタ商品は模倣しにくいという認識が 浸透したのではないか」と話している。 ※注・「Xスタンパー」はシヤチハタ(株)の登録商標です。 X ス タ ン パ ー 取材協力/シヤチハタ株式会社 8 切れ目のない権利取得で 競合品封じ! ドッチファイル 実用新案登録第1247414号 ●代理人/砂川昭男弁理士 ビジネス文具大手のキングジム(東京/社長・宮本彰氏) は、主力商品のラベルライター「テプラ」のテレビCMにアイド ルタレントを起用するなど積極的な宣伝活動を通じて、知名 度を高めているが、その地歩を固めた商品の一つが、パイプ 式とじ具を使用した「ドッチ(ファイル)」( ® 登録商標)である。 9 ドッチファイル 書類のヤマと悪戦苦闘するビジネスマンにとって、手放すことのできない 優れものだ。二穴パンチ穴を開けた書類をとじる簡単な構造だが、長年に わたってほぼ独占状態を保ってきた秘訣は、新製品を開発するたびに、実 用新案権などを途切れることなく取得し、アイデアの保護を図ってきたこと にある。 このドッチファイルの出発点は、昭和39年に発売された「Gファイル」。優 れた機能やデザインの製品に送られるGマーク商品に選定されたことにち なんで名づけたものだ。従来、書類をとじる方法といえば、千枚通しで穴を 開けた書類を紐でとじ込むというのが一般的で、書類が厚くなると紐を通 すだけでも一苦労だった。これに対してGファイルは真っ直ぐな金属製のパ イプに差し込むだけで簡単にとじることができることから人気を呼び、現在 でも60%以上のシェアを獲得している。 ただ、Gファイルは書類を一方向にしかはずせない方式だったため、先に とじこんだ資料を取り出そうとする場合、新しい資料も一緒に取り出さなけ ればならないと言う難点があった。そこで考え出されたのが左右どちらから でも開閉できるドッチファイル。従来金具の一方だけだった開閉部を両側に 設けた構造だ。ネーミングはその機能をもとにしている。昭和50年に発売し たが、開発本部特許課の金森春樹課長によれば、社内には「Gファイルの 売れ行きが良いのに、その足を引っ張るような製品を出すべきでない」との 意見もあったと言う。しかし、「少しでも不便を感じるユーザーがいたら、その ニーズに応える必要がある」と言う意見が通って発売したことが成功につな がった。「消費者の満足」は同社が真っ先に挙げる経営理念で、現在で は、とじ具の操作部分を改良して使い易くしたニュードッチファイルや材料を 合成樹脂化したカラードッチファイル、さらには表紙ととじ具を容易に分別処 理できると言う環境問題に配慮したスーパードッチファイルなども開発し、企 業の事務合理化に寄与している。金森課長は「厚型のファイルといえば、 当社の商品と言う認識が市場に浸透している」と言い切るが、 それも「工業所有権の取得をつねに念頭に置いて新製品 開発に取り組む」と言う裏付があっての発言で、これが他の 追随を許さない理由にもなっている。 ド ッ チ フ ァ イ ル ※注・「ドッチ」は(株)キングジムの登録商標です。 取材協力/株式会社キングジム 10 セイコーインスツルメンツ(株) 空前のヒット商品の デザインを守る意匠権。 アルバ・スプーン 意匠登録第970795号 これまで、腕時計のヒット商品といえば、1カ月に1万個売れ たモデルだった。セイコーの「アルバ・スプーン」(販売・セイ コー/製造・セイコーインスツルメンツ)は1995年11月末の 発売から1年で100万個を売って業界の常識を覆し、その後 も人気が衰える気配はない。その名の通り、スプーンをひっく り返したようなデザインがユニークだ。 11 アルバ・スプーン セイコーインスツルメンツが、オリジナル・ヒット商品の開発に熱意を燃やし た結果生まれたのが、この「アルバ・スプーン」である。普及型ブランドである アルバの最新シリーズとして企画され、久米寿明氏、所村吉将氏がデザイ ンした。成功のカギは、ターゲットを明確にして、行動様式や価値観などを徹 底的に研究したことにある。ターゲットとなったのは「ボーダー」と呼ばれるス ノーボードやスケートボードなどフリー・スタイル・スポーツを楽しむ若者層だ。時 代の最先端を行くボーダーは、マス・ターゲットのリーダーでもある。 デザイン部門の担当者は、実際にこうした若者たちが集まる場所に出か け、その場の雰囲気をつかみ、また彼らの生の声も聞いて歩いたという。そ こで出てきたイメージは「ぷっくりしていてあたたかい感じ」だった。 最終的なモデルができた段階で、ヒットの予感はあったようだ。95年11月 初旬に意匠登録出願し類似品出現直後に早期審査制度を申請、96年9 月に意匠権を取得した。日本のほかに外国でも多数、意匠権を取得してい る。 空前のヒット商品とあって、類似品は早くも96年2月に出回り始めた。96 年秋以降、流通業者などに警告文書を出したが、一向に類似品が減らな いことから、同社は97年2月、税関に対して類似品の輸入差し止めを申請 した。 「類似品の実物を買い集めて、差し止めの申請書にも写真などを添付し ました」と同社知的財産部特許管理課の渡辺京子さん。その数は40種に のぼる。申請から5日後、横浜税関で8千2百個の”スプーンもどき“が差し止 められた。 「意匠登録の重要性を実感するケースでした。社内でも知的財産権に 対する認識が高まっています」と特許管理課長の仲村典恭さんは言う。同 社は香港での差し止め訴訟、意匠登録の告知などを展開、意匠権によっ てスプーンのアイデンティティを守っている。 ア ル バ ・ ス プ ー ン 取材協力/セイコーインスツルメンツ株式会社 12 コンビニ店の店長が考案した コイン・カウンター。 エンゲルス 実用新案登録第1966971号 ●代理人/鈴木均弁理士 「必要は発明の母」といわれるが、ハシ・コーポレーション (社長橋義晴氏)のコイン・カウンター(硬貨収納・計算器) りげん は、この俚諺がぴったりのアイデア商品である。社長の橋さ んはコンビニエンス・ストアの元店長で、そのときの体験から 「エンゲルス」は生れた。 13 エンゲルス コンビニ店は24時間営業。1日数回売り上げを計算するが、接客の合間 を縫って行うため、小銭(硬貨)の処理に苦労する。橋さんは硬貨の残高 が簡単に分かるような装置を求めて、文具店などを巡った。しかしコンビニ 店で使えるような安価で使い易い製品は見つけることができなかった。「そ れならば…」と自ら商品化したのが、このコイン・カウンター(商品名=エンゲ ルス)である。 プラスチック・ケースに硬貨を入れる溝を設け、溝の中に数字を表示して いる。その表示の仕方がミソで、合計金額や枚数を一目で読みとることがで きる。それが新製品情報誌で紹介されると、「売らせて欲しい」との申し込 みが殺到。橋さんはその対応に追われ、店長業との両立が困難になった。 このため1989年(平成元年)2月に新会社を作って、独立した。その2カ月 後に消費税が導入されるという幸運(?)にも恵まれ、売り上げは順調な伸 びをみせる。しかし、人気商品のつねで、たちまち模倣品攻勢に悩まされる ようになった。実用新案登録出願中だったが、未登録のためやむを得ず不 正競争防止法(不競法)による模倣品の製造・販売差し止めの仮処分を 裁判所に申し立てた。不競法による保護には、商品の周知性の立証が必 要で、これに苦労したが、何とか91年3月に認められた。この決定は、不競 法が小企業の信用保護にも有力な武器になることを示した画期的な出来 事だった。その後、より広範囲な保護が受けられる実用新案登録(第 1966971号)も取得し、完全な防御態勢が整った。 橋さんが知的財産権を重視する陰には、若いころの苦い経験がある。自 転車やスキー用キーのアイデアを考え、ある雑誌のコンクールに応募した。 選には洩れたが、やがて全く同じアイデアの商品が、大手企業から売り出さ れた。「当時、知的財産権法に詳しかったら手の打ちようがあった」と今で も悔やむ。こうした経験から「弁理士さんら知的財産権関係者は、一般の 人たちに対する啓発活動を強めて欲しい」と話している。 エ ン ゲ ル ス 取材協力/株式会社ハシ・コーポレーション 14 缶きり不用。 世界を駆けるプルトップ缶 プルトップ缶 特許第1762945号 ●代理人/永井利和弁理士 最近の缶はプルトップを引いて缶の上面全体を開けるプ ルトップ缶が主流だ。缶切りを使わなくてもよいので便利だ が、切り口で指を切りそうになったことはないだろうか。何とか 指を切らないようにできないものか。谷内啓二氏(谷啓製作 所、社長)はそんなことを思った一人である。 1 2 缶のフタ 缶 胴 体 缶の中 15 プルトップ缶 谷内氏は若い頃から発明が好きで、現在までに60件ほどの特許を取得 したほどの実力の持ち主である。谷内氏は考えた。切り口が危ないのであ れば指が切り口に触れないように隠せばいい。 原理はこうだ。図に示すように、ふたになる円板を全周にわたってジャバ ラのように折り曲げ、切り口になる部分が折り曲げた湾曲部分で隠れるよ うにする。原理は簡単だが実際に作ってみるとなかなかうまくいかない。少 しでも寸法が狂うと堅くて開けることができない。逆に緩くすると切り口が隠 れない。最適な寸法を決めるにはどうすればいいか。某研究所に相談した ところ、コンピュータを駆使しても開発は無理だろうというのが回答だった。 しかし谷内氏は諦めることなく、工場にこもり試行錯誤の日々を重ねた。 もともと金型の職人である。長年培った自分の勘を頼りに、手作業で千分 の一ミリとの戦いを始めたのである。環境への配慮からアルミニウムではなく 鉄を材料に選んだことも作業を困難にした。食品の缶詰にも使用できる満 足のいくものが完成したとき、研究を始めてから5年が過ぎていた。 苦労して完成したプルトップ缶の発明は弁理士に依頼して特許を取得 することができた。また、その後も改良発明をするたびに出願し、途切れるこ となく自分のアイデアを保護している。日本では大手の製缶業者がシェアを 抑えており、このプルトップ缶が採用されるには多くの経済的な問題はある ものの、口コミなどにより徐々に市場に出回りつつある。 また、弁理士の勧めによりアメリカやヨーロッパでも権利化した。日本より も製造物責任について厳しいアメリカの缶詰メーカーがこの権利に目を付 けた。長年にわたる交渉の結果、アメリカでの権利をそのメーカーに譲り渡 し、近く実施されることとなった。そのメーカーの製品は日本のみならず世界 数10カ国に輸出されており、谷内氏の発明したプルトップ缶が世界を駆け めぐるのもそう遠い先の話ではないだろう。 プ ル ト ッ プ 缶 取材協力/有限会社谷啓製作所 16 苦労の末の価値ある 知的財産権 糸ようじ 意匠登録第764355号 商標登録第2711488号 ●代理人/辻本一義弁理士 歯や歯茎の健康に対する関心が高まり、歯ブラシと歯磨粉 だけでなく、さまざまな歯周病予防のための製品が市場に登 場している。その代表的な製品の一つで、こうした口腔ケア の市場を拡大するのに寄与したのが、小林製薬の「糸ようじ」 である。 17 糸ようじ 「糸ようじ」は1987年11月18日の発売から、順調に売り上げを伸ばして きた。小林製薬は続いて歯間ブラシも発売し、歯のケアに関する製品の市 場育成にも力を注いだ。歯間清掃具の市場は1987年には30億円弱の規 模だったが、97年には70億円を越すまでに成長した。この分野で小林製 薬のシェアは4分の1と、トップクラスである。 開発に着手したのは1987年初頭。事前の周到な市場調査結果をもと に使いやすさを第一に考えて開発が進められ、糸の強度と、ようじ部分の 曲り具合をポイントに改良が重ねられた。発売の直前まで続いた試作品づ くりを経て、「糸ようじ」は発売された。 発売に先立って、「糸ようじ」の名称の商標を出願し、その形状について は、最終候補品を含め数種の意匠を同時に出願したという。 歯間清掃用のデンタルフロスとようじを組み合わせた製品が出始めた時 期だが、先行商品の権利に十分配慮して開発が進められており、意匠登 録はすんなり通った。が、商標登録はそうはいかなかったようだ。同社では 商品のネーミングについて、消費者に製品内容が的確に伝わること、をコン セプトにしているそうだ。「糸ようじ」はそのよい例だが、審査で普通名称と判 断されたことから審判に持ち込まれ、「かなり苦労しました」同社製造開発 事業本部研究グループで知的財産権を担当する石塚孝幸さんは言う。 「糸ようじ」に限らず、同社では新製品を市場に出すに際し知的財産権の 取得を重視している。石塚さんによれば「新製品はほとんどの場合、発売前 に意匠登録出願をします。商標登録出願も原則的に行います」とのことだ。 今や一般名称とすら思われる「糸ようじ」という、わかりやすいネーミング は、この製品がヒットした一因であると石塚さんは言う。 その知的財産権としての価値は、商標登録の苦労を補って余りあるもの だろう。また、使いやすさを追求した結果、出来上がった製品だからこそ、10 年を経ても消費者に支持され、市場に残っている、とも石塚さんは語る。試 行錯誤を繰り返して生み出された形状は、意匠登録によって 守られている。 糸 よ う じ 取材協力/小林製薬株式会社 18 草深い山野で電線を守る。 電柱支持ワイヤーの 蔦止め 実用新案登録第2091114号 ●代理人/杉本勝徳弁理士 ヒット商品は私達が日常あまり目に触れることのない所でも 活躍している。 都会生活者には馴染みがないが、ゴルフ等で一歩郊外に 出るとすぐに目に付く商品である。電柱は全国に2千万本ある と言われているが、特に山野に立設されている電柱には2~3 本の支持ワイヤーが斜めに取り付けてある。この支持ワイ ヤーに蔦が巻き付きどんどん上に登る。そしてついには電柱 を伝って電線に達しショートさせ停電事故を引き起こす。山奥 でこのような事故が起こるとショートした場所の特定や修理が 容易ではない。 支持ワイヤー 蔦止め 19 電柱支持ワイヤーの蔦止め そこで登場したのが今回の商品である。この商品の開発のきっかけは、 蔦公害に泣かされ続けてきた電力会社からの依頼による。開発を担当した ミツギロン工業株式会社の森本重男社長は、「耐久性と完璧性と経済性 を同時に満たさなければならない難しい注文だったけれども、当社のブロー 成形技術がヒントになった」という。 実は従来からこの種の蔦止め具はあったが、何しろ設置場所の年間温 度差が70度に達する上に、強烈な紫外線と風雪にさらされ、設置後3~4 年で役に立たなくなっていた。 今回の商品は、長さが1m強で、直径約20cm程度の表面が滑らかな合 成樹脂製の筒体である。全体が中空の二重構造になっており、軸方向に 半割りにしてヒンジでつなぎ、支持ワイヤーを挟むようにして取り付ける。な お、本商品と支持ワイヤーとの間に隙間があると蔦はその隙間から更によじ 登ろうとして商品を破損させることがある。そこで筒体の上下を光が入らな いように閉めている。この商品の特徴は全体が二重構造であるため、紫外 線や風雪の影響が表面にとどまり、内部にまで達しにくいことにある。また 魔法瓶の構造と似ており、ブロー成形された中空部分が70度の温度差を 吸収している。その結果、商品自体の膨張収縮係数が小さくなり安定して 支持ワイヤーに固定し続けることができる。森本社長によれば、「耐用年数 が10年以上に跳ね上がったことが嬉しい。類似商品が出始めているが実 用新案登録のおかげでそれらを排除できる。」とのことである。 この商品がどのようにして蔦を止められるか。蔦は直径20cmの本商品に 斜めに巻きつくことが出来ず、たとえ巻き付こうとしてもずり落ちる。また蔦全 体が支持根なしで自力で立ち上がれる高さは70cm程度である。そのため蔦 は本商品が取り付けられている位置まで支持ワイヤーをよじ登ってくると、 本商品に巻き付くことも出来ず本商品を飛び越えて上の支持ワイヤーに巻 き付くこともできない。蔦は本商品を前にしてそれ以上よじ登れずやがて枯 れることになる。 本商品は蔦を完全に遮断することができるため真冬には蔦が自然に枯 死する北海道を除く全国の支持ワイヤーに採用され始めている。 最後に森本社長から一言、「郊外に出られたら 電柱の支持ワイヤーを注目して下さい。」 電 柱 支 持 ワ イ ヤ ー の 蔦 止 め 取材協力/ミツギロン工業株式会社 20 世紀を超えて愛され続ける かわいいアイドルキャラクター ペコちゃん 立体商標登録 商標登録第4157614号 同第4157615号 ●代理人/加藤恒久弁理士 不二家の洋菓子店やレストランの入り口に立つと、ちょっ と舌を出したユーモラスな表情の女の子が出迎えてくれる。 ご存知!キャラクター人形の「ペコちゃん」である。「ポコちゃ ん」人形と一緒に、立体商標登録となり、特許の世界でも話 題を呼んだ。 21 ペコちゃん 「ペコちゃん」が誕生したのは、今からほぼ半世紀前の昭和25年 (1950)のことで、生みの親は2代目社長の故藤井誠司さん。当時の日本 人のアメリカに対する強い憧れを背景に、活発なアメリカ人少女をイメージ して創作した。その愛らしい姿は、お客の評判を呼び、翌26年には水飴・練 乳のソフトキャンデー「ミルキー」の商標にも採用され、大成功を収めた。「ペ コ」のネーミングはウシを表す東北地方の方言「べこ」にちなんだもので、「ミ ルキー」の発売を機会に商標登録された。さらに、昭和27年にはペコちゃん のボーイフレンドの「ポコちゃん」(幼児を表す古語の「ぽこ」にちなむ)もお目 見えし、子供たちの人気を一層高めることになった。 「ペコちゃん」、「ポコちゃん」は、数多い「販促キャラクター」の中でも知名 度は抜群。総務部法務・商標担当の柳寺匡さんは「当社の取扱い商品で 模倣品が出ることはほとんどありません」と話す。その陰には徹底した商標 管理があり、同社の営業と直接関係のない分野での不正使用にも厳しく 目を光らせている。また、社内向けにマニュアルを作って、イメージを損なう ような使い方を戒めている。立体商標登録もそうした商標管理の一環だ。 ただ、この人気者を玩具やTシャツなどの商品のキャラクターとして使い たいと希望する業者が多く、商談が相次ぎ舞い込む。しかし、使用許諾は 一切していない。同社以外の商品に使われると、「不二家のペコちゃん」 のイメージが損なわれるからだ。総務部広報担当の上田博子さんは「ペコ ちゃんはうちの箱入り娘。交通安全運動の際、貸し出したことがあるぐらい です」と語る。そんな姿勢が子供たちから変わらぬアイドルとして可愛がられ る原因となっている。 ペ コ ち ゃ ん ※注・「ペコちゃん」、「ポコちゃん」、「ミルキー」は(株)不二家の登録商標です。 取材協力/株式会社不二家 22 安全性が高く、 高齢者でも取り扱いが簡単。 真空保温調理器 シャトルシェフ 特許第2502254号 ●代理人/志賀正武弁理士 サーモス(株)の真空保温調理器「シャトルシェフ」は、多様 な使い方があるにもかかわらず、取り扱いが簡単で高齢者に 優しい製品である。発明者の一人、樋田章司専務取締役は 「高齢者は若い人と比較して料理に対する姿勢が違う。美味 しい物を作るのに労をいとわない。火を使う時間が短く、安全 性が高いことも喜んでいただいている理由でしょう」と話す。 23 真空保温調理器 シャトルシェフ 同社は工業用ガスのトップメーカー。素材産業であるため、景気に左右さ れやすい。そこで20年ほど前から低温利用技術などを活かして生活関連 分野に積極展開してきたが、シャトルシェフもその一つ。ステンレス製魔法び んの技術を応用したことがポイントで、真空断熱構造のステンレス製保温容 器に取っ手付きの調理鍋(内鍋)をスッポリはめ込んで密封保温する仕組 み。素材を調理鍋で煮たのち、鍋ごと保温容器に入れると、とろ火にかけ てじっくり煮込んだのと同じ効果がある。当初、煮炊きと保温を同じ容器で 行うことを考えたが巧くいかず、保温容器と調理鍋を分けて考えたことが、 成功した理由という。 製品の発売は9年前で、特許も24件が登録済みだ。初めは基本技術を 実用新案として出願したが、弁理士のアドバイスで特許に出願変更した。そ れにより幅広く、強い権利を取得でき、ほかの追随を許さない製品が生ま れた。販売形態は自社ブランドとOEM(相手先ブランド製品)となっている。 「国内では特許にからむトラブルに巻き込まれたことはほとんどない」(樋 田さん)。営業部員に模倣品を見分けるチェックリストを渡して監視させてい ることもトラブルの芽を早い段階で摘み取ることに貢献してきた。 現在、11カ国で特許を取得するなど海外市場にも目を配っている。輸出 も好調で、特に中国圏向けが伸びている。樋田さんは「漢方やスープなど 長時間かけて煮込む料理に使われているようです」と説明している。 真 空 保 温 調 理 器 シ ャ ト ル シ ェ フ ※注・「シャトルシェフ」はサーモス(株)の登録商標です。 取材協力/サーモス株式会社 24 世界の釣り人を魅了する渓流の精密機械。 フライフィッシング・ リール 特許第1252621号 実用新案登録第1551711号 米国特許第4515325号 ●代理人/櫛渕昌之弁理士 あざやかな弧を描いて宙に舞うライン(釣り糸)。フライ フィッシングは、マニアに言わせるとアート。疑似餌をいかに 本物の昆虫に似せて魚をおびき寄せるか、それが釣り人の 腕の見せどころだ。 そのテクニックを支える釣り具の中で、最も技術的に複雑 なのがリール(糸巻き)で、一種の精密機械だ。 25 フライフィッシング・リール (株)マシンエンジニアリング(略称=MEG、長野県、代表取締役井口七 郎氏)のフライフィッシング・リール「マリエット」(登録商標)は、釣りの愛好者 にとって、釣果よりもその所有者であることを自慢したくなるような世界の一 級品だ。獲物がかかったときの糸切れ、いわゆるバレを少なくしたディスクブ レーキ方式のドラッグ(ブレーキホイールを押さえ付ける機構)の採用やリール の回転音、右利き左利きに関係ない構造など、技術的な完成度が高く、 擬った作りがユーザを満足させている。 釣り人たちの注目を集めるようになったきっかけは、18年ほど前の米国 の釣り具ショー出展。フライ競技のチャンピオンの目に留まり、テレビで紹介 される幸運に恵まれた。その一方で、地元の釣り師に勝手に米国特許を 取得されるという“災難”にも見舞われる。 しかし、発明者の伊藤武士さん(MEG顧問)によると、「笑い話のような 落ち」で、事なきを得る。相手の釣り師がリールを分解したあと、元通りに組 み立てられなくなり、MEGの日本代理店に問い合わせてきた。本当の発明 者なら元通り復元できないはずがない。結局、伊藤さんが真の発明者とし きすう て認められ、米国特許の権利はMEGに帰趨することとなった。 このちょぴり苦い体験が同社を特許に強い企業に変える。同社はもとも と自動車や家電、文房具の生産ライン用自動組立機械のメーカー。規模は 小さいが独立独歩で、部品製造を外注することも多い。技術支援を伴う外 注契約には特許の裏付けが欠かせない。「特許は銀行との取引でも経営 力を判断する重要な材料とみなされます。」と伊藤さんは話す。 フ ラ イ フ ィ ッ シ ン グ ・ リ ー ル 取材協力/株式会社マシンエンジニアリング(MEG) 26 船舶火災を防ぐ秘密兵器。 FNテープ 日本特許第2630555号 米国特許第5487799号 欧州特許第0626183号 台湾特許第081650号 ●代理人/丸山英一弁理士 東京日進ジャバラ(東京都・社長青木昭子氏)の「油飛散 防止テープ《FNテープ》」は、船火事防止のちょっとした秘密 兵器である。 日本海事協会によると、船火事の多くが機関室火災(年平 均6~7件)で、その主な原因の一つが燃料油、或いは潤滑 油管継手部分のピンホールや亀裂。ここから噴き出した霧状 の可燃油が機関室内の高温部位に接触して出火する。FN テープは事前に危険箇所に巻き付けるだけで可燃油の飛散 を簡単に予防でき、誰にでも扱えることが特徴だ。 27 FNテープ 東京日進ジャバラは工場配管用伸縮継ぎ手の専業メーカー。畑違いの FNテープを開発したきっかけは、国際海事機関(IMO)の海上人命安全 条約が改正されることに対する対応を迫られた海事協会が、東京日進ジャ バラの漏液防止用バーに着目、可燃油の飛散防止にも使用できるのでは と相談をもちかけたことにある。その依頼に応じてFNテープを発明したのが 塚田賢会長だ。「その時、初めて船の機関室というものを見ましたよ」。船 の機関室といっても船の種類により油供給管の配管は千差万別。可燃油 の飛散防止が必要な個所を数え出すと切りがない。その一つ一つの場所 に合うカバーを作ることなど到底不可能だ。塚田会長が考え抜いた最終結 論が「不燃テープやシール以外にない。」 FNテープはアルミ箔、アラミド繊維、特殊接着剤などの多層構造で、1平 方センチメートルあたり30~50キロの突出圧力に耐え、耐熱性、耐油性、耐 摩耗性、耐候性などに優れる。日本海事協会を初め、世界の主要認証機 関の認証を受けており、1999年5月には海のノーベル賞と言われている シートレード賞のうち“海上安全賞”を受賞した。 “類似品封じ”に我が国はもとより米国、欧州(EU)、台湾、韓国等の特 許も取得済みだ。生産は大手テープ専業メーカーに外注しているが、塚田 会長は「特許が無ければ生産を引き受けてもらえなかったでしょう。現在、 日本では国内の新造船の約7割、在来船の約3割に採用されていますが、 IMOの新条約が海運業界に浸透する2003年頃には世界中の国連加盟 国の船舶は、このような船舶機関室火災防止法につき処置を講ずる義務 を負っているので、売り上げはさらに伸びますよ」と話している。 F N テ ー プ 取材協力/東京日進ジャバラ株式会社 28 世界初ブランドネームデザインの優れた製品。 ルイヴィトンマルティエ モノグラム 商標登録第1446773号ほか 世界で最も名の通った高級ブランドの一つ、ルイ・ヴィトン 社の製品は、日本でも多くのファンを持つ。ルイ・ヴィトン社 は、代表的なモノグラム・キャンバスをはじめ、エピ、タイガ、ダ ミエ、ヴェルニなどの鞄や衣料を次々と発表し、優れたデザイ ンとクオリティの高さで人々を魅了してきた。 29 ルイヴィトンマルティエ モノグラム 貴婦人たちのお気に入りの荷造り用木箱職人として高く評価されてい た創業者ルイ・ヴィトンは、19世紀半ば当時旅の主流であった鉄道や船の 荷積みに適した画期的なトランクを発明した。従来の馬車の旅に用いられ た丸い蓋のトランクを、平らな蓋を採用して積み重ねられる形に変え、「グリ・ トリアノン」と名付けられた防水性のあるキャンバス地で覆ったものである。そ の独自性と高い品質が大評判になる一方で、模造品に悩まされることに なった。模造品によるブランドイメージや信頼の喪失、消費者の利益の喪失 を危惧したルイ・ヴィトン社は、その後、2種類の「レイエ・キャンバス」「ダミエ・ キャンバス」とデザインを変更し、いずれも大成功を収めるが、さらなる模造 品が出回る皮肉な結果となった。そこで考案されたのが、より複雑なデザイ ン「モノグラム・キャンバス」である。これは登録商標の『LV』のイニシャル に、ジャポニズムとアール・ヌーボーの影響を受けた花のモチーフを組み合わ せた独創的なもので、世界で初めてのブランドネームを冠した製品の誕生と なる。 「当社はいつの時代も多大な時間と労力を注ぎ込んで、時代背景や ニーズにあったデザインや素材を開発してきました。そのオリジナリティと品質 の保証として、またそれらを守るものとして登録商標は重要です。」ルイヴィ トンマルティエの日本法人であるLVJグループの知的財産権担当ディレク ターの光岡肇さんは、こう語る。 製品の商標登録は、パリの本社が管理している。それらを守るべくルイ・ ヴィトンでは、世界各地域で権利執行活動を行うと同時に、多くの人に知 的財産の意義や重要性を訴える啓発活動も行っている。 商標権を取得することにより、模造品に登録商標が使用された場合に は、商標法により有効な保護を得ることができ、また、海外から持ち込まれる 模造品には、輸入差し止めなどの水際措置を税関で取ることができ、ブラン ドを有効に保護できる。ルイ・ヴィトンでは、今後も積極的な 知的財産保護活動を展開していくそうだ。 ル イ ヴ ィ ト ン マ ル テ ィ エ モ ノ グ ラ ム 取材協力/LVJグループ株式会社 30 ケースに新しいアイディア 環境問題も配慮した優しい工夫。 タタミジョーズ 商標登録第1019643号 実用新案登録第1699106号 同第1834033号 同第1502693~5号 ●代理人/岩瀬眞治弁理士 日本で初めてティッシュペーパーが生産されたのは1953 年のことだ。60年代の半ばに大手メーカーが生産販売を開 始してから、ティッシュペーパーは次第に日本人の生活に定 着していった。株式会社ネピアの前身である王子テイッシュ 販売株式会社が、ティッシュペーパーの生産販売に参入した のは71年である。後発ながら品質の高さによって「ネピア」 (登録商標第1019643号)のブランド名は広く知られる存在 となり、今日まで多くの消費者に愛されている。 31 タタミジョーズ 競争の激しいティッシュペーパー業界の中で、「ネピア」を特に印象づけ たのが「タタミジョーズ」というニックネームで呼ばれる、箱の仕組みだった。 箱の両サイドに指を押し入れる切り込みを設け、使用後の箱をスムースに 畳めるようにしたのである。箱の底には、図入りで上手な畳み方の説明を 刷り込んだ。「タタミジョーズは消費者サービスのアイディアとして、箱の印刷 会社と共同で考案したものです。箱の形のままでは捨てる時にがさばるの で、平らに畳みやすいものにするとよいのではないか、という発想でした。」 と、同社マーケティング本部の飯塚正之さんは箱改良の経緯を振り返る。 ティッシュペーパーは求められる品質をすでにクリアした成熟商品であ る。ブランド名が定着しているにもかかわらず、消費者の商品選択が価格に 大きく影響されることから、付加価値を出す一方でコストを押さえることも求 められるという難しさがある。タタミジョーズが優れているのは、生産工程を変 えることなく、新しいアイディアを盛り込める点だった。箱のサイドの切り込み は裁断の際に入れられるので、従来の設備で対応できた。 タタミジョーズは87年2月に公告され、その後実用新案権登録(第 1699106号)が成立した。97年にこの権利が消滅するやいなや、他メー カーが同様の切り込みを箱に入れたのは、このアイディアが消費者にアピー ルするものだったことを証明している。 株式会社ネピアでは90年2月、箱を開きやすくするミシン目を入れた改良 版タタミジョーズでも実用新案権登録(第1834033号)を取得した。つぶし た箱は、ティッシュペーパーの取り出し口のビニールフィルムをはずせば、資 源回収にも出しやすい。地球環境問題への対応においても、先駆的なアイ ディアだったといえよう。同社は、箱を底あげできる仕組み(登録実用新案 第1502693~5号)、5個パックによる販売、同じ枚数でも箱の高さを低くし 容積を減らすといった技術的な面でも他社をリードして、ティッシュペーパー のトレンドを作ってきた。 「いかに消費者の目を引き付けるか、より良い商品化を図り、その付加価 値を認めてもらうために試行錯誤を続けてきました。実用新案によって、そう した工夫、努力の成果を守っています。」とマーケティング 本部の飯塚さんは知的財産権の意義を語る。 タ タ ミ ジ ョ ー ズ 取材協力/株式会社ネピア 32 世界のファッション界が注目した。 プリーツ・プリーズ 商標登録第4058474号 同第4058475号 ●代理人/藁科孝雄弁理士 常に革新的なデザインで世界のファッション界に旋風を巻 き起こしてきたイッセイ・ミヤケ・ブランド。中でも1989年にパ リ・コレクションで発表されたプリーツ加工素材の服は、大き な反響をよんだ。古くからあるプリーツの概念を壊し、立体的 な洋服を2次元で表現したデザインに到達するまでには、糸 から加工に至る全行程で5年間の開発期間を要したという。 その後、現在に至るまでプリーツ加工素材による服は、イッセ イ・ミヤケの「顔」ともいえるシリーズに成長し、毎年新しいデ ザインが発表されている。 33 プリーツ・プリーズ 「89年のパリ・コレで世界の注目を集めただけに、日本だけでなく世界中で 偽物が出ました。形だけを真似た劣悪な商品に対処するため、93年に知 的財産部を設けて“プリーツ・プリーズ”の名称で商標権を取得しました。」 三宅デザイン事務所知的財産部の本橋繁さんは、同部の発足時から イッセイ・ミヤケ・グループの知的財産権に関する業務を統括している。欧米 ではデザインに著作権が認められるが、日本では認められていない。 「デザインをどうやって守るか、というのはずっと重要なテーマでしたが、 “プリーツ・プリーズ”をきっかけに具体化しました。“プリーツ・プリーズ”に関し ても、日本の知的財産権の考え方だとズバリこれで守れる、というものがあり ません。結果的に商標のほかに、特許などを取得しました。特許で技術を 独占するためではなく、デザインのオリジナリティとその複製権を主張して、 偽物を作る業者に警告・交渉するためです」 コピー商品であることを認めない業者に対する訴訟では、1999年7月に 日本で初めて服のデザインに知的財産権を認める判決が下された。“プリー ツ・プリーズ”は「新しいものをプラスするのではなく、余分なものを取り去る マイナスのデザイン」であることから、知的財産権で守られるべき対象が争 点になったという。こうした点だけでなく、取得に1年半程度かかる意匠権な ど現在の知的財産権は、デザイン生命が最長2か月というアパレルの実情 にまったく対応できない、とも本橋さんは言う。ファッション業界団体も、特許 庁の要請で意匠権についての意見をまとめた。 「知的財産権について社内で勉強するようになって、デザイナーの認識 も変わりました。既存の権利を侵害しないという意識がデザインの幅を狭め る可能性もありますが、知的財産権を主張できるアイディアを出そうという意 欲にもつながっています」 そうした知的財産権に対する意識が“プリーツ・プリーズ”に 続く、斬新なデザインを生み出している。 プ リ ー ツ ・ プ リ ー ズ 取材協力/三宅デザイン事務所 34 使用用途と方法が一目で分かる ネーミングとパッケージ。 熱さまシート 商標登録第3201859号 同第3268969号 ●代理人/大島泰甫弁理士 風邪などの発熱の対処法といえば、冷たい枕をするか、濡 れタオル等で額を冷やすのが一般的であった。小林製薬が 1994年に発売した「熱さまシート」が画期的だったのは、額に ひょうのう 「貼りつける」点である。氷嚢や濡れタオルがずれてしまうこと に不満があるという消費者のアンケート結果から生まれた製 品だ。 35 熱さまシート 「熱さまシート」は水分を含んだジェル状の高分子ポリマーを塗布した不 織布で、寝返りを打っても、起きあがっても額から落ちない。そのため発熱す る頻度の高い子どもをターゲットに発売された直後から、予想を上回る反響 を呼び、生産が間に合わないほどのヒット商品になった。当然ながら、競合 製品が次々に発売され、現在では中小メーカーまで入れれば約40社が参 入しているという。 「熱さまシート」については、製品名の「熱さまシート」は当然の事ながら商 標登録されており、その他にもパッケージに描かれているキャラクターである 通称「熱さま坊や」と、「ピタッ!」という部分や、その他の部分についても商 標登録されている。ネーミングも「熱さま坊や」のキャラクターも、商品の持つ 特性をストレートに消費者にアピールする。また、「ピタッ!」は、消費者のニー ズに応えた開発努力を印象づける。 「当社では、パッケージは物言わぬ営業社員、と考えています。店頭でお 客様に語りかけるのがパッケージの商標なのです。」というのは、同社経営 企画部企画広報グループ主任の岩田和子さんだ。また研究開発本部研 究企画部部長の矢田英樹さんは、「世に出した製品を長く育て、ブランドを 大事にするという考えから、知的財産権全般について権利化できるものは 全て権利化する方針で取り組んでいます。」と語る。消費者のニーズを丹 念に拾い出し、既存の製品にはない新製品の開発に向けた試行錯誤を重 ね、そうして生まれた製品を守るだけでなく、知的財産権によってブランドとし ての信頼を高められるという認識が、小林製薬では浸透しているという。 また、同社では、今までにない製品の開発・提供をしているため、既存の ジャンルに収まらない新製品が多く、商標の調査時も、多岐のジャンルにわ たる調査を行い、また出願においても複合商品的な対応を行っているとの ことだ。この点で、代理人である弁理士の専門知識が生かされている。「熱 さまシート」もその例に漏れない。 「熱さまシート」のヒットから、赤ちゃん用等のアイテムや、アンメルツ足爽快 シートという関連製品なども販売されている。「熱さまシート」そのものも、冷却 効果時間を長くするリニューアルを重ねている。開発努力、絶妙のネーミン グ、消費者へのストレートなアピールという小林製薬の姿勢により、知的財産 権に守られた「熱さま」ブランドも大きく成長している。 熱 さ ま シ ー ト 取材協力/小林製薬株式会社 36 特許権で守られた新しい英語学習機器。 英語学習用ポータブルCDプレーヤー リンガマスター 特許第2581700号 商標登録第2391843号 同第3197273号 ●代理人/長谷川芳樹弁理士 「特許がなければ、会社もあり得なかった」。 社名と同じ名前の英語学習用ポータブルCDプレーヤー 「リンガマスター」(登録商標)は、同社の関口博司社長の 体験から生まれた製品である。 37 英語学習用ポータブルCDプレーヤー リンガマスター リモコンのボタンを押すだけで、自然な英語・ゆっくりした発音の英語・日 本語訳・日本語解説の4通りの音声情報に瞬時に切り替えられることが特 徴。そして、この特徴を有する再生装置、再生方法、及び記録媒体につい ての特許を同社は取得している。特に、「記録データに特徴を有する記録 媒体の特許としては日本国内のリーディングケース」(弁理士)でもある。 同社長は新製品開発を請け負う技術開発会社も経営する。今から16 年ほど前、得意先が米企業との特許トラブルに巻き込まれ、ITC(米国際 貿易委員会)の証言台に立った。相手方弁護士の尋問は苛烈で、十分な 英語力や特許などの法律知識がなければ米国企業と渡り合えないことを 思い知らされた。帰国後、昔買った教材を引っぱり出したり、更に新たな自 習教材を買ったりして、ヒヤリング力を強化しようとした。その頃、英語の自 習機器といえば、カセットテープ式が一般的だった。カセット式は巻き戻し操 作が煩わしく、聞きたい個所をただちに引き出せるわけではない。関口社長 はもともと電子技術者。操作に時間を取られることなく、ヒアリングに専念で きる装置の開発を思い立ち、その知識と技術を生かして完成させたのがリ ンガマスター。1986年秋、最初の特許出願を行った。 当時、日本では、まだ媒体特許が認められたケースはなかった。関口社 長は、ITCで証言した体験などから米国の特許事情に詳しいことや、代理 した弁理士の予測により、「米国で認められたものは5~10年後には必ず 日本でも認められる」と確信を持った。しかし、すぐには企業化せず、じっと 権利化を待った。功をあせってコピー商品の攻勢に見舞われたら、それま での苦労が水の泡になると考えたからである。曲折はあったが結局、出願 から10年目の96年11月に特許権が成立し、翌97年5月に満を持して新会 社を立ち上げた。 特許でカバーされた同社の製品は新しい英語の学習方式を確立するも のと反響を呼び、英語教育出版のアルクや三省堂、ジャパンタイムズなどと 同方式に基づく英語教材ソフトの制作で相次ぎ提携、普及に 勢いがついている。 英 語 学 習 用 ポ ー タ ブ ル C D プ レ ー ヤ ー リ ン ガ マ ス タ ー 取材協力/リンガマスター株式会社 38 最後の開発に夢を託した、そして夢は現実になった。 ゲームソフト ファイナルファンタジー 特許第2794230号 商標登録第2218951号 家庭用ゲームをはじめ色々なジャンルのゲームソフトを開 発してきた株式会社スクウェア。 スクウェアのファイナルファンタジー(以下「FF」)という名 前を聞くだけで、映像、キャラクター、BGMが脳裏に蘇る人は 少なくないであろう。FFとは、シリーズ化されたロールプレイン グゲーム(以下「RPG」)の名称である。現在、10作目を開発 中。さらに、ネットワークエンターテイメントを視野に入れた戦 略を展開中である。 39 ゲームソフト ファイナルファンタジー FFという名前の由来は有名である。現エグゼクティブ・プロデューサーの 坂口氏はこう語る。「大学生の頃、色々なゲームを開発しました。しかし、何 をやっても売れなかったんです。これが最後の夢だ。そう決め込んで世に 送り出したのが、ファイナルファンタジーです。」と。さて、FFに採用されてい るアクティブタイムバトルというシステムをご存じであろうか。第4作から採用さ れた戦闘シーンでの新システムの名称である。 坂口氏に解説頂く。「従来のRPGでは、時間が止まっていました。これは ボードゲームでのRPGからの伝統です。FFでは、これをコンピュータならでは のものに進化させるにあたって、時間の概念を導入したわけです。ただ、単純 に時間を流すだけでは、リアルタイムゲーム(アクションゲーム)になってしまい、 RPGの面白さを損ないます。そこで、時間の流れが戦闘の流れに沿って流 れたり止まったりするシステムを発明したわけです。従来止まっていた時間を アクティベート(活性化)したということから“アクティブタイムバトル”としました。」 と。実際にプレイすると、今までと臨場感が全然違うという感覚を持つだろう。 このシステムを開発した当時、特許業界にも変化があった。ソフトウェア関 連発明の保護が重要視されつつあったのである。 株式会社スクウェアは、これにアクティブに対応した。その昔、特許の対 象外とされており、無断で利用されることが多かったシステムについて特許 出願を行った。アクティブタイムバトルという名称こそ使っていないが、このシ ステムが特許になったのである。 当時の日経エレクトロニクスには、センセーショナルな事件として取り上げ られた。株式会社スクウェアは、この特許によって、独占的にアクティブタイ ムバトルというシステムをゲームに搭載できるようになった。他のメーカーは、 特許があるために真似ができないのである。「どうして、他のゲームにアクティ ブタイムバトルがないの?」と不思議に思う人も納得できるだろう。 取材に協力頂いた特許室の永島室長と広報室の村川室長に将来の 方向性を伺った。「株式会社スクウェアは、FF等のパッケージ ソフトだけでなく、今後、ネットワークを利用したプレイオンライン によって、総合的なエンターテイメントを提供しようと考えてい ます。アクティブに対応しますよ。」と。 ※社名、組織名及び役職は平成13年3月当時のものです。 取材協力/株式会社スクウェア 40 ゲ ー ム ソ フ ト フ ァ イ ナ ル フ ァ ン タ ジ ー 10年間の開発努力で排気ゼロを完成させた。 エアサイクルクリーナー VCーJ21V 特許第3163287号 同第3160239号 2000年3月に発売された東芝のエアサイクルクリーナー (掃除機)VCーJ21Vは、100%排気ゼロの驚異的新製品とし てマスコミで大々的に取り上げられた。市場の反応も大きく、 発売当初の出荷量は予想の倍を超えたという。その背景に は、開発・製品化の要因ともなった住環境への関心の高まり がある。 41 エアサイクルクリーナー VCーJ21V 従来のクリーナーが吸込み口から取り込んだ空気を排気として本体の外 に出すものであるのに対して、排気ゼロのクリーナーは空気を循環させる方 式を取っている。ゴミを吸取っている間は、クリーナーの吸込み口が畳や絨 毯に吸い付かず、吸込み口を畳等から離すと吸込み口から空気が出てく るため、消費者からは「どうなっているのか」という問い合わせもあったとい う。このクリーナーがいかに画期的なものかを物語るエピソードといえよう。 実は、本体から排気を出さないというアイディアそのものは、40年ほど前 からあったそうだ。しかし、製品化されたものは一つもなかった。東芝のクリー ナーの設計、開発に当たる東芝テックでは、10年前から排気ゼロに向けた 試行錯誤が繰り返されてきた。消費者の排気ゼロへのニーズが明確に なった'97年から本格的に取り組み、試作をつくる度に特許を出願し、独自 の技術を蓄積した。循環路が短く製作が比較的容易なハンディタイプのク リーナーを先行して発売した。この段階では本体から外に出される排気を 70%までカットできた。「70%排気をカット」と「排気ゼロ」では、全く別の技術 が必要でしたと開発担当者の東芝テッククリーナー部の技術者は振り返 る。その後の研究により、モーター部を何回も通る空気の温度が上昇しない ようにし、ゴミの吸込み性能を上げた吸込み口やホースなどが開発された。 排気ゼロのクリーナーは複雑な構造を持ちながら、既存の製品並のコンパ クトさも求められる。クリーナーは通常、試作から1年ほどで発売になるとこ ろ、排気ゼロのタイプは3年かかったそうだ。 「排気がゼロTM」というフレーズがあまりにインパクトがあったため、他社 でも同様のうたい文句で新製品を次々に出しているが、実際に100%排気 をカットしているのは東芝製品だけだという。ハンディタイプも含め、空気循 環式クリーナーについては吸込み口、本体、制御などさまざまな技術につい て100件以上の特許が出願されている。 特許は事業の優位性を創り出すためのもので事業 戦略の一部であり、製品開発から完成までの色々な 段階で特許出願をしているという。 エ ア サ イ ク ル ク リ ー ナ ー V C J 2 1 V 取材協力/株式会社東芝・東芝テック株式会社 42 小さな力でも扉が開けられる 小さな地震対策商品。 たいしんちょうばん 対震丁番 特許第1606244号 美和ロックと言えば「鍵」の最大手メーカー。その鍵メー カーで、鍵にも劣らないヒット商品となっているのが「対震丁 番(たいしんちょうばん)」だ。丁番は開き扉などが一方の端 を軸として開閉できるように扉枠に取り付ける金具のことで、 「ちょうつがい」と発音した方が一般にはなじみ深い。 扉枠 扉 丁番 変形の方向 43 対震丁番 「地震になったらすぐに扉を開けて」とは、誰でも耳にしたことがある防災 フレーズである。これは、図に示すように地震によって扉枠が変形し、扉の左 上が枠に当たり、開かなくなってしまうからだ。こんなときでも、この対震丁番 なら女の人の力でも楽に扉を開放することができるという。その原理は至っ て簡単である。それは、丁番の軸の部分に埋め込まれたバネが縮んでドア が下がるため、変形した扉枠に扉が当たっていても、小さな力で扉を開ける ことができるようになる(写真はバネが見えるように外筒をカットした見本)。こ の対震丁番については、「基本特許の他に数件の周辺特許を取得して他 社の参入を防いでいる」(製品計画部技術情報課の宮口聡弁理士) 昭和58年に発売された対震丁番であるが、その売り上げは阪神大震災 を境に倍増したという。地震に対する意識の高まりの現れと言えよう。さら に、通常の丁番の代わりにこの対震丁番を取り付けるだけで、簡単に扉の 地震対策を行うことができ、扉周りを通常と異なる設計にする必要がない 点も、対震丁番の大きな特徴だ。ロングセラーとなっている背景には、このよ うな簡便さも評価されているのではないだろうか。 「この発明は個人発明家の売り込みがきっかけだったんですよ」と商品 開発本部I・L技術部の加藤義明さんは振り返る。耐震扉に関するアイディ アは多く、それは丁番に限らない。売り込みがあった発明も、丁番に関する ものではなく、さらに実用に耐えないものだったそうだ。しかし、その発明の検 証のために実験を繰り返すうちに、丁番で扉枠の変形に対応できることに 気づいたそうだ。 商品名の「対震丁番」について、「対震」は「耐震」の間違いではない か?思われた読者も多いだろう。この疑問には加藤さんにお答えいただこう。 「『耐震』では地震にあっても壊れないように耐えるという意味になる。しか し、この丁番は地震に『耐える』構造ではない。この丁番は地震による変形 を受け入れ、『地震に対して有効な丁番』であるとの想いで『対震』にしま した。」 美和ロックでは、主力の鍵製品の分野でも 特許、意匠、商標の権利化に努めている。 対 震 丁 番 取材協力/美和ロック株式会社 44 10年修業をつんだ職人の技を持つ 職人ロボット。 寿司職人助人 特許第3088715号 商標登録第4386556号 ひつ 一見、普通のお櫃にしか見えない「寿司職人助人」、実は 握り寿司のシャリ玉をつくるロボットである。直径約45cm、高 さ36cmで容量は2升。コンパクトな機械だが、最大1時間に 1200個を「握る」能力を持つ。熟練した寿司職人でも1時間 に握れるのは300個ほどだそうだ。一定の重量、大きさのシャ リ玉ができるだけでなく、その握り具合は10年の経験を積ん だ寿司職人に匹敵するというから、まさに「助人」というにふさ わしい。 45 寿司職人助人 握り具合の秘密は、独自の構造にある。寿司飯を、スクリューコンベアで 下部から上部へ押上ながら圧縮し、そのコンベアの終端に設けた成形孔よ り断面が小判形の棒状に押し出し、これを所定の厚さで横方向に次々と カットしてシャリ玉を連続的に製造するものである。 この構造は型で成形するものとは全く違い、コンベアで移送される間に 空気を抱き込んだやわらかな食感を実現している。1個の重量は16gから 30gまで調節でき、握りのやわらかさも10段階の設定ができる。また、握り寿 司に最適の温度と湿度を保ち、分解洗浄も簡単、家庭用電源でも使える など、さまざまな工夫が盛り込まれており、寿司職人がすぐにでも使用できる すぐれ物だ。そして、なんといってもユニークなのは、お櫃型である点だ。 スズモ(鈴茂器工)は米飯加工ロボット、食品加工機械、自動包装機械 などを手がけるメーカーで、特に寿司の製造機械では20年にわたる実績が ある。のり巻、いなり寿司、握り寿司、手巻き寿司、軍艦巻きと、スズモの機 械はあらゆるタイプの寿司の大量生産を可能にしてきた。従来の製品の外 観はいかにも機械で、場所もとるために、低価格で人気の回転寿司店で も、お客の目に触れる場所に設置することを避けてきた。ましてや、寿司職 人がお客の注文に応じて握る「立ち寿司」では、機械への抵抗感は強い。 しかし、その一方では、後継者や職人の確保が困難な状況もあった。寿司 店のほうにも、店内に置いて違和感がなく、納得のいく握り寿司のできる機 械へのニーズは高まっていた。そうした要望に応えたのが「寿司職人助 人」だ。企画から、機械の小型化を実現し、デザインを決め、試作品をモニ ターに出し、改良を加えて発売するまでに、足かけ5年かかった。「当社の長 年にわたる技術的蓄積をすべて凝縮したものです。これまでの機械より1ラ ンクも2ランクも上の寿司が握れます」と自信をもって勧めるのは、営業本部 取締役の石坂英雄さん。1台126万円、リースならば1日840円という価格も 魅力のようだ。1999年秋の発売以来、順調な売れ行きをみせ、立ち寿司 店でも導入が進んでいるという。まだお客に機械への抵抗があるため、導 入を公表するところは少ないが、隠れたヒットとなっている。 スズモの製品はすべて自社で開発されたものだ。それだけに、特許をは じめとする知的財産権によって、オリジナル製品を守る意 識は高い。「寿司職人助人」についても特許を取得し、 また「寿司職人助っ人」として登録商標も得ている。 寿 司 職 人 助 人 取材協力/鈴茂器工株式会社 46 人と職場環境に配慮 半永久的に使用可能。 チョークレスボード 特許第1135945号 一見すると、ただの緑色の「黒板」だ。近づくと、細かい蜂 の巣状の模様が見える。「磁石ペン」で書くと白い線が現れ る。「イレーザー」でこすると、たちまち元の緑に変わる。別の 長い「イレーザー」を端から滑らせていくと全面が白く変わっ た。「磁石ペン」で書くと、今度は白地に緑色の字が浮かび上 がってくる。 この不思議な商品は、パイロットが販売している「チョーク レスボード」である。 書く 専用ペン 白文字(緑面用) S N N 磁石粒子 消す 専用 イレーザー N S 47 S 磁石粒子 チョークレスボード この商品の母体となる「磁気泳動表示方式」パネルが発表されたのは、 4半世紀を遡る。 まず、この基本原理を説明しよう。2枚のシートの間のハニカムに、微細な 磁性粒子を含んだ少し粘性のある特殊なミルク状の液を封入して、パネル をつくる。この上を磁石ペンでなぞると、白い液の中から磁性粒子が引き寄 せられ、字や絵が描けるのだ。この字や絵は、粘性のある液に浮かんでい るので、いつまでも消えることはない。字や絵を消す時は、パネルの裏側の 磁石を移動させる。磁性粒子が裏側に引き寄せられ、ミルク状の液に飲み 込まれて、表面は元通り白くなる。パイロットは、この基本原理について特許 を取得した(特許第1135945号)。 この特許を利用したパネルは、おもちゃの筆記板に採用され、今もベスト セラー商品になっている。 この方式ではミルク状の液と黒い磁性粒子が主役だが、「チョークレスボー ド」にはさらに進んだ技術が使われている。 磁石には、「N極」と「S極」とがあるが、磁石粒子の磁極を別々に色染 めして、同じ磁極での反発を利用して磁石粒子を回転させると、表面側か らの書き消しが可能になる。 ところがこのコントロールは難しい。磁石粒子がダンゴになってしまうと、明 瞭な線は書けない。そこで磁石粒子とこれを支持する液体との関係の研 究を重ねて、この商品が完成した。 図に示すように、磁石粒子のN極を緑色に、S極が白色に着色されている ボードの上をN極の「磁石ペン」でなぞれば、磁石粒子が回転して、白い筆跡 が残る仕組みだ。イレーザーを使って、部分的な消去もできる。訂正も可能だ。 この商品は、特許・意匠・商標等を出願し、万全の体制を整えて、昨年の 夏に発売された。 ホワイトボード用の色マーカーにより磁石ペンで書いた図面の上に注釈な どを書き入れることもできる。 注目すべき点は、「チョークレスボード」が「人間と環境に優しい商品」と いうことだ。粉やカスが出ないから、こすれて衣服を汚すこともない。インキ切 れの心配もいらない。インキ溶剤の匂いもない。専用の磁気ペン、イレーザー は半永久的に使用できる。 学校やオフィス、病院やクリーン環境を要求される職場で、 いま注目を浴びている商品である。 チ ョ ー ク レ ス ボ ー ド 取材協力/株式会社パイロット 48 商品開発試験で、 蕎麦屋まで開店してしまった。 業務用冷蔵庫 チルドマン 特許第2042869号 家庭用冷蔵庫の新機能として、「乾燥しない」あるいは「エ チレン吸着」が話題になっているが、これらの機能を最初に 実現したのが、長野県須坂市に拠点を置くオリオン機械の業 務用冷蔵庫チルドマンであったことは、一般には知られてい ない。 49 業務用冷蔵庫 チルドマン 民間研究機関から、秋に収穫したイチゴをクリスマスケーキ用に鮮度維 持できる冷蔵庫の開発を依頼されたことから、チルドマンは生まれた。 乾燥を防ぐ第一条件は庫内を無風状態にすることである。そこで従来 のような冷却ファンは使えないことから採用されたのが、ドア以外の壁面5面 を熱交換器とする方式だった。無風で高湿を維持する業務用冷蔵庫は、 すでに大手メーカーから出ていたが、壁面につく霜の除去、強度、温度の 変動幅などに問題があった。そこで先行する製品からニーズを読み取り、 「エチレン吸着」、「望ましい低温環境」、「霜取りと水滴の落下防止」とい う課題をクリアし、庫内の相対湿度90%、温度幅±0.5度を実現した。 チルドマンから思わぬ副産物も生まれた。試作段階で、乾燥を嫌うそば の保存にも、同様の機能を持つ冷蔵庫が求められているという情報を得 た。そば処で知られる戸隠に近い須坂のこと、試験材料を入手の難しいイ チゴからそばに変えたところ、「そば通」の役員の提案で試験用のそばを自 分たちで打つようになり、ついには別会社を設立して高山亭という蕎麦屋 を開店してしまったという。 チルドマンの発売は1987年。2年後にキャリータイプなどを加えてシリーズ 化し、従来製品より2~3割価格が高いにもかかわらず、毎年売れ行きが倍 増する大ヒットとなり、NHKの新技術紹介番組でも取り上げられた。この動 きに、大手メーカーが即座に追随、同様の製品を出したが、チルドマンは現 在でも蕎麦屋では80%のシェアを持つ。 同社技術管理部特許・法務グループの久保順一さんは「知的財産は 会社の将来を決めるもの」という。新たな分野に進出し、関連特許、実用新 案、商標も含めこれまで50件以上を出願したチルドマンによって、全社的に その認識が高まったそうだ。 業 務 用 冷 蔵 庫 チ ル ド マ ン 取材協力/オリオン機械株式会社 50 町工場で生まれた ユニークな発明品! 傘ぽん 特許第2562806号 商標登録第3196611号 傘をシュッと差し込んで手前にポンッ。瞬時に濡れた傘に ポリエチレンの傘袋が取付けられる。このユニークな装置は 新倉計量器・自慢のヒット商品である。この装置は、発明品 好きな新倉社長と町工場の一人のプレス職人の出会いから 日の目を見たのである。 51 傘ぽん 1991年、ある雨の日のこと、病院に入ろうとしている老婦人がビニールの 傘袋に傘を入れようとしていたが、傘の先がうまく袋の中に入らない。その 時一人の男が近寄り、手際よく袋に入れてあげた。この男が発明者の村 上稔幸である。彼は思った。「案外入れにくいな、荷物を持っていたら大変 だ」と。彼は発明好きなプレス職人で、仕事が終わると夜12時頃までテレビ を見ることもなく金属加工に専念するのが常だった。 村上は装置の試作にとりかかった。しかし静電気で閉じている傘袋の口 を簡単に開くことができない。ある日、彼は靴をはこうとして靴ベラを持ったと きだ。このヘラを袋の端に引っ掛ければ、口を開いて傘の石突きを袋の中 に案内できるのではないかと閃いた。このヒントをもとにして数種類の機構 を設計・試作した。 村上は試作品の売り込みにも苦労した。しかし、新倉計量器の営業担 当が会社に持ち込んだものの、倉庫の片隅に放置された試作品がしばらく して新倉社長の目に留まった。「これはイケる」と直感した新倉社長は即座 に製品化を決定し、村上にすべてのアイデアを特許出願するように進言し た。村上は約20件を出願した。 最初に発売した製品はペダルを踏んで傘袋の口を開くタイプであったた め使用方法が十分に理解されず普及しなかったが、ペダルを廃止した「傘 ぽん」1号機が1994年に発売されると多数の類似品が市場に出回った。 1996年に2号機が発売される頃にはその数は30近くにもなった。 新倉計量器は、傘ぽんの早期権利化を図ると共に、市場の監視を強化 し、類似品を注意深く市場から駆逐していった。現在では製品を見かけた 人からの電話注文やインターネットを通じた海外からの引き合いもある。新倉 社長はこの成功をきっかけに、次のヒット商品探しに余念がない。 傘 ぽ ん 取材協力/新倉計量器株式会社 52 冬季オリンピック会長が 称賛した。 プラスチック製帯状ヒーター プラヒート 特許第1232463号 同第2571595号 同第2929418号 1972年にわが国で初めて札幌で冬季オリンピックが開催 された時、その聖火台へ続く絨毯には雪が積もらず、鮮明な 赤地の中央に白線がくっきりと浮かんだ様子を記憶されてい る人もおられることだろう。その会場の天皇・皇后ご臨席のロ イヤル・ボックスの絨毯は温かく快適だった。 53 プラスチック製帯状ヒーター プラヒート 当時のIOC会長のブランデージ氏は「私が出席した冬季五輪のなかで、 もっとも快適なロイヤル・ボックス」と称賛した。この絨毯の下には、埼玉県の ミサトが開発してまもないプラスチック製帯状ヒーター(商品名:プラヒート)が 敷かれていたのである。 このプラヒートは、ミサトの清川社長の学生時代からの仲間の会話から生 まれたものである。1961年、呑兵衛ばかり集まった碁会で、「いつでも一定 の温度で酒の燗ができる装置はないかねえ」という仲間のつぶやきからヒ ントを得た。 翌年、清川は仲間3人で会社を設立した。化学系出身である清川は金 属の扱いは不得手だったのでプラスチックに着目し、これにカーボン粉末な どを加えて導電性にできないかと検討した。友人達のわずかな出資金を使 用して実験したが、狙った特性のものが得られず、資金は2年で底をつい た。その時のことである。清川は最後の手段として友人の父の工場にあっ た材料を無断借用して実験したところ、幸運にもヒーターに使用できる特性 を持つサンプルを得ることができた。 早速、友人達は製品化を提案したが、頑固な清川は更に8年も慎重に 実験を繰り返した。その間に試作した大量のサンプルで工場の中は廃品 の山となったが、これがオイルショックの時に全て売れて開発資金は勿論、 工場建設資金となった。人生は何が幸いするか分からないものである。 そして1971年のことである。通電すると温度が均一に上昇すると共に電気 抵抗が増加して電流を自動的に抑制する特性を持つ導電性プラスチック の帯状発熱体を完成した。この発熱体を絶縁皮膜などと組合せて、プラ ヒートとして売り出したのである。 プラヒートは後に科学技術庁長官賞を得ており、床暖房装置、窓際暖房 装置、養豚・養鶏装置、鮭等の養殖装置など多くの用途に適用され、その間 に約300件の特許出願をして技術を保護している。清川の頭の中は何時も 遠赤外線の利用で一杯だ。低温使用のプラヒートに飽きたらず、セラミックス を利用した高温のヒーターを開発し、病院や老人ホームでも使用できるサウ ナ装置を開発し、更に米籾、野菜、果物などの乾燥 機や、焼鳥器などの調理装置へと発展している。 プ ラ ス チ ッ ク 製 帯 状 ヒ ー タ ー プ ラ ヒ ー ト 取材協力/ミサト株式会社 54 ヒット商品の商標がそのまま社名に。 LOGOS 商標登録第1679350号の1 ●代理人/大西正夫弁理士 大きなグッドウイル(業務上の信用を含む顧客吸引力)を 獲得した商標は、社名をも変更させる。アウトドア用品の老 舗ブランド「LOGOS(ロゴス)」は、このような商標の典型で ある。 55 LOGOS 現在の「ロゴスコーポレーション」は、1997年まで「大三商事」という社名で あった。そのことを知っているアウトドア愛好者はほとんどいない。「大三商 事」は、1920年代に船舶用品の問屋として創業され、1950年代には、水 産業従事者や建設業従事者が屋外作業で着用する業務用の合羽(カッ パ)を製造販売する会社として知られるようになった。そして、いまだにその 合羽を製造販売しているそうである。すなわち、文字通りの「アウトドア用 品」を、50年も前から製造販売し続けている老舗である。 商標「ロゴス」は、1985年頃から、合羽の技術を用いて開発したゴムボー トに使用され始めた。当時は、商標「ロゴス」にあまり期待していなかったそう である。ところが、アウトドアブームに乗って、あれよあれよという間にグッドウイ ルを獲得し、社名まで「ロゴスコーポレーション」に変更せざるをえなくなって しまった。商標「ロゴス」が社名であると誤解されるほど浸透した後に社名を 変更したため、社名変更に伴う費用がほとんどかからなかったそうである。 商標は、商品に反復使用されることによってグッドウイルを獲得する。す なわち、その商標が付された商品が信頼に値する商品であった場合、顧客 は満足して、再びその商標が付された商品を購買する。この繰り返しによっ てグッドウイルが商標に蓄積されていく。そして、社名まで変更させる大きな 力をつけるのである。 グッドウイルを蓄積するには、商標が商標法等によって保護される必要 がある。もし、商標が保護されない場合、グッドウイルを獲得した商標を無断 で使用する者が現れて商品が混同し、それまでに獲得したグッドウイルが消 滅してしまう。 一方、商標権者は、信頼に値する商品を提供し続けなければならない。 もし、問題のある商品でも販売しようものなら、グッドウイルは一瞬のうちに消 え去り、業務上の信用も地に落ちる。昨今、問題のある商品を販売すること により、有名ブランドのグッドウイルが消え去ることも多い。 商標「ロゴス」が、社名を変更させるほどの大きなグッドウイルを獲得でき た裏には、商標権による保護はもちろんのこと、信頼に値する商品を 提供し続けたロゴスコーポレーション(大三商事)の たゆまぬ努力があったものと考えるべきである。 L O G O S 取材協力/株式会社ロゴスコーポレーション 56 小が大を兼ねる、画期的包装資材。 ループタイ 特許第2138543号 商標登録第2554675号 最近、コンビニやスーパーでは、商品を平面展示ではなく、 吊り下げ展示が主流である。消費者の心理として、商品が平 面的に並べられているよりも、吊り下げられているほうが、商 品が目の高さにあり、また手に取りやすいからだ。実際、販売 効率は平面展示よりも吊り下げ展示のほうが約4倍だそうで ある。 コマ巻のミシン糸も例外ではなく、大手繊維メーカではスー パーから吊り下げ展示を求められ立ち往生していた。そこで、 包装資材に実績があり、種々の発明考案で新製品をものに してきた石崎昭氏(石崎資材株式会社社長)に話が持ち込ま れたのである。 ▲写真⑴試作品▲写真⑵試作品▲写真⑶試作品 57 ループタイ まず、考えられるのは、写真⑴にあるように、吊り下げ用のタグのついた 袋に糸を入れることである。しかし、これでは両脇に「つの」が出っ張り、不 格好である。そこで、石崎氏は、スマートに見えるよう「つの」を切っていった (写真⑵、⑶)。切っていくうちに袋の両脇が破れてコマがはみ出してしまっ た。破れたところで終わってしまうのが人情であるが、石崎氏は、破れても 落ちないで止まっているのを見て、「これはおもしろいものができたぞ」と納 得する。こうしてできたのが、写真⑷のループタイである。 このループタイは、単一の幅のもので色々な大きさの商品に巻き付け、タ グに商品名や製造者、説明文などを印刷して表示帯として使用できる。こ の特許に関しては、旧制度での特許異議申立てを受けて審査に長期間 を要したが、公告されたままの権利範囲で登録された。現在では石崎資材 株式会社の主力製品であり、特許権に護られて他社の参入を許さず、独 占状態が続いている。また、「ループタイ」は登録商標でもある。袋を音読み すると「タイ」であり、石崎氏によると、「ループ状の袋」の意味を込めての 命名だそうである。 ル ー プ タ イ ▲写真⑷完成品 取材協力/石崎資材株式会社 58 健康な食生活に アプローチする新技術 サンアクティブFe 特許第3088715号 商標登録第4386556号 豊かな食生活の裏で、ミネラル、ビタミンなど特定の栄養 素が足りない人が少なくない。これらを無理なく自然なかたち で摂取することができたら……。そんな願いに応えるのが、太 陽化学(株)の開発した技術「ニュートリションデリバリーシス テム(NDS)」。 サンアクティブFe (Fe:12mg/g) SunActiveFe ピロリン酸第二鉄 (Fe:12mg/g) Ferricpyrophosphate DistributionDensity(Q3/g) 40 35 30 25 20 15 10 5 0 SunActiveFe Ferricpyrophosphate 0.10.50.91.62.43.244.8830 ParticleSize(μm) 59 サンアクティブFe NDS技術とは、ミネラル、ビタミンなど健康のために摂取が望まれる栄養 素を、安定した状態で美味しく、体への吸収性が高くかつ体に負担をかけ ない状態で体内に運搬するシステム。ナノテクノロジーと乳化を制御する界 面活性技術の組み合わせにより生まれた、これまでになかった全く新しい 技術だ。 そのNDSを使ったヒット商品が平成8年に世に出た「サンアクティブFe」。 商品そのものを一般消費者が直接目にすることはないが、各大手メーカー の乳飲料や乳製品に、鉄分補強剤として使用されている。世界の権威あ る賞を受賞するなど、世界各国でもその技術力が認められ需要を伸ばして いる。鉄分強化製剤の分野では後発だった太陽化学を、発売5年でトップ シェアに飛躍させた革新的商品なのだ。また、WHO等の報告によれば、鉄 分は世界で最も不足している栄養素で、世界人口の約70%が鉄不足の 状況にあるという。これはまさに時代の求める商品でもあったわけだ。 「サンアクティブFe」の大きな特長は3つ。比重が高く水に溶けない鉄分 を、乳飲料などの中であたかも溶けているような状態に保つこと。胃酸の影 響も受けず腸で効率よく吸収されること。そして鉄の味を感じさせず食品自 体の美味しさを損なわないこと。実は採用製品が市場に出た当初、ユー ザーの消費者センターに電話が殺到した。「鉄分補強と書いてあるのに鉄 の味がしないじゃないか」という声に、太陽化学の開発者たちは「してやっ たり!」と嬉しい驚きを得たとか。 太陽化学は全社員に占める研究員比率が25%という研究開発型企業 だ。「サンアクティブFe」と同様、他のミネラルやビタミンもNDS技術により商 品化を積極的に進めている。地球環境の変化により天然食材に含まれる 栄養分が年々減少するなど、ミネラルやビタミンを充分に摂取することが容 易でない今、サプリメントに頼らず、日々の食事で栄養素を満たすことができ ればそれがベストだ。NDSがオペレーションシステムとして 機能し、世界の食品業界の共通項となる日を夢見て、 太陽化学の挑戦は続く。 サ ン ア ク テ ィ ブ F e 取材協力/太陽化学株式会社 60 オフィスの椅子や家具をぴかぴかに リフレッシュする特許第2917075号 ローパークリーニング 同第3141287号 米国特許第5607516号 商標登録第3029975号 ほこりやチリ、タバコの煙、手垢、落書きなどで見る影もな くなったオフィスの椅子やテーブル、パーティションがピカピカ によみがえる。布張りの椅子も繊維が毛羽立つことなくフワ フワとなり、5年や10年前のものと思えない。「経年変化や物 理的ないたみは回復することができませんが、汚れは全て取 り去ることができます」 クリーニング前▶ ◀クリーニング後 61 ローパークリーニング ローパークリーニング技術は米国特許を取得している什器専用のクリー ニング技術。床掃除を併用させた従来のクリーニング手法とは全く違い、 ウォーターダメージや繊維が剥離することもない。「オフィスの引越し時に捨 てようと思うほど汚れた什器を私どもの技術を使いクリーニングすると什器 がよみがえり、備品経費・引越し経費が助かった」といまや引く手あまた。 オフィスの室内をクリーニングする発想は昔からあり、米国の技術を導入 したベンチャーをはじめ、乱立状態。今、この勢いが什器分野にも広がりは じめた。だが、1999年から2000年にかけて取得(登録)し、1997年に米国 特許も得ている什器クリーニング技術「ローパークリーニング」は知的財産 権に守られ、他社の追随を許さない。佐久間社長が、この分野で仕事がで きるとひらめいた時期はオフィスクリーニングという概念もなかった。オフィスを 移るときには全てを購入することができる経済成長期でもあり、汚くなったら 新品と交換した。家具メーカー、什器メーカーもクリーニングするよりも交換 することを勧めた。さらに「クリーニングでは什器をいためるだけだ」(佐久間 社長)とする技術の不備を強調した販売戦略を展開する事もしばしばで あった。什器クリーニングは、こうしたメーカーの反発をかいながら、進めるこ とも必要であった。 佐久間社長らはクリーニングの本場である米国を飛びまわり、技術と市 場を調査し市場規模が1兆円になると見込む一方で、特殊なクリーニング 技術が必要と痛感した。技術があれば商売になると独自のクリーニング剤 の開発を米国に依頼するとともに洗浄装置を独自に開発し特許を取得し た。さらに洗浄のノウハウ獲得、什器クリーニングで先鞭をつけた。「人の肌 が触れる什器のクリーニングは、ほかの技術で代用することはできない」 (佐久間社長)と自信を深めているが、この技術の信頼を高め、激烈な競 争を制しているのは知的財産権。「什器のクリーニングで特許を持っている のですか」(佐久間社長)とユーザーから驚異の目で見られ、安心を得てい る。 ロ ー パ ー ク リ ー ニ ン グ 取材協力/オーエイケアーシステム株式会社 62 激辛の味付けでカラスを撃退する ゴミ袋 破れんゾウ 特許公開番号 特開2003ー206002 商標登録第4684067号 近年、カラスの増加によるさまざまな被害が社会問題と なっている。カラスは有害鳥獣として狩猟鳥に指定されてい るが、罠を見破るほど賢い鳥で、捕獲は難しい。都市のカラ ス対策で最も有効なのは、餌である生ごみを食べられないよ うにすることだ。 63 破れんゾウ プラスチック樹脂メーカーのミツギロンが開発したごみ袋「破れんゾウ」 は、カラスが嫌う天然唐辛子濃縮液カプサイシンをラミコートした、強度に優 れた製品である。一般のごみ袋は筒状にフイルムをつくりながら、熱着して カットするのに対し、「破れんゾウ」はポリエチレン樹脂の極薄フイルムをカッ トした延伸ヤーンを筒状に編み、カプサイシンをラミコート、底を縫製して袋に する。さらにカプサイシンが利用者の肌に触れないように、裏返してラミコート 面を内側にする。カラスは嗅覚が鈍い反面、視覚と味覚は人間の3倍鋭い という。「破れんゾウ」は、カラスが懸命につついても小さな穴しか開けられ ない上に、カプサイシンで激辛の味付けが施されているため、中の生ごみを 食べられない。その効果は、カラス博士として知られる宇都宮大学農学部・ 杉田昭栄教授の実験でも認められ、多くのマスコミで取りあげられた。カラ ス撃退の決定打として、対策に頭を悩ます自治体からの問い合わせも殺 到したという。 この製品は「動物忌避機能付きごみ袋」として特許が出願されている。 カラスだけでなくネズミや猫の被害にも有効で、種籾などの保存用の袋とし て、農業関係者にも注目されている。またその技術とアイディアに着目した自 治体から、在宅介護用ゴミ袋の開発の引き合いもあった。 「破れんゾウ」の開発は「新しい技術というより、知恵です」と言う同社 社長の森本重男氏は「物づくりは遊び心でやるほうが面白い。発明者は みんな、特許を申請した時は爆発的に売れるという夢も抱いています」と 発明の醍醐味を語る。ミツギロンでは、樹脂加工のさまざまな技術を利用し て、風呂清掃ブーツなどユニークなヒット商品を生みだしてきた。こうした開 発・成果のほとんどについて、特許をはじめとする知的財産権を申請・取得 している。「中小企業にとって、知的財産権は会社を守るために非常に重 要なもの」と森本氏が知財を重視する背景には、製造コストの低い海外製 品による価格破壊の脅威もある。複雑な製造工程で、一般のゴミ袋より単 価の高い「破れんゾウ」は、知的財産権によって市場での優位性を確保し ている。 破 れ ん ゾ ウ 取材協力/株式会社ミツギロン 64 常識をくつがえす製塩法が生んだ 自然海塩 ぬちマース 特許第3250738号 商標登録第4475327号 近年は健康と味の両面から塩にこだわる人が増えている。 そんな中、従来とはまったく異なる製塩法によって海から生ま れた塩が、沖縄の言葉で「命の塩」を意味する「ぬちマース」 である。 登録番号 ニュージーランド336401 オーストラリア736603 韓国352820米国6500216 カナダ2279884中国144089 出願番号 ブラジル9807411ー3 EU98・902261・1 65 ※沖縄では、命を「ぬち」、塩を「マース」といいます。 ぬちマース 一般的な自然海塩の塩分含有量が85%程度であるのに対して、「ぬち マース」は73.3%しか塩分を含まない。残りは全てミネラルで、その種類も世界 一多いとギネスに認定された。まろやかな味わいだけでなく、さまざまなミネラル の働きで塩分を体内から排出することでも「ぬちマース」は注目されている。 「ぬちマース」をつくる「常温瞬間空中結晶製塩法」は、霧状の海水を空中に 飛ばして水分を気化させ、塩分と共にミネラルを全て取り出すことを可能にし た。工場には真っ白な塩が雪のように降り積もり、その光景はテレビなどでもし ばしば紹介されてきた。 2003年度の中小企業長官奨励賞を受賞したこの製塩法のポイントは、海 水を微細な霧状にする技術である。この部分は、開発者の高安正勝氏がラ ン栽培で生みだした技術の転用だった。気化熱を利用して温室の温度を下 げる装置として開発したものだ。水の粒が大きいと、常温下では完全に気化 する前に落下してしまう。ノズルから放出する方法では水の粒が十分に小さく ならない。試行錯誤の末に、遠心力を利用して水を微細な霧状にすることに 成功した。 高安氏が塩の製造・販売の自由化を新聞で知ったのは1997年1月。水を 海水に換えれば、水分が気化してミネラルの豊富な塩ができるという確信は、 すぐさま実証できたという。海水の濾過、濃縮、塩の回収方法など全部で21 項目から成る製塩法の特許を出願するまでに要したのは、わずか1か月半ほ ど。その翌月に製塩業・ベンチャー高安有限会社を設立した。技術ができたこ とによって起業したのだ。「ぬちマースは人類に必要なものだという自信はあり ましたが、最初はそんな方法で塩ができるはずはないと、誰にも相手にされま せんでした」と高安氏は当時を振り返る。国内に続き、98年にはアメリカをは じめ海外でも特許を出願し、審査中のEUとブラジルを除く全ての国ですでに 特許を取得した。海外からも注文が増え、韓国では合弁会社を設立して現 地生産を始めた。「事業拡大は特許のおかげ」と高安氏はいう。ベンチャー 高安の売上は倍増している。 ぬ ち マ ー ス 取材協力/ベンチャー高安有限会社 66 テーピング効果を備えた 高機能ウェア特許第1919040号 CWーX ●HZOー579(メンズ) ●HZYー179(レディス) 同第3012819号 意匠登録第1021887号 商標登録第4640682号 ワコールのCWーXは、スポーツ時のコンディションを整え るために開発された高機能ウェアのブランドである。1991年 に最初のモデルを発売し、コンディショニングウェアという新 しい商品ジャンルを確立した。米大リーグで活躍するイチロー 選手をはじめとする、さまざまなジャンルのトップアスリートを ユーザーとしていることでも知られる。 67 CWーX 最初のアイテムの一つであるHZO-579は、このブランドの核を成すロン グセラーとなっている。その特徴は、膝関節の動きをサポートすることに重点 をおいた機能だ。開発のきっかけは、一人の女性社員がスキーで膝を痛 め、テーピングの効果を知ったことだった。関節の負担を軽減するテーピン グには専門知識が必要なことから、誰でもテーピングの効果を得られるウェ アをつくれないか、という発想のもと商品が生まれた。 テーピングは、粘着性のあるテープをポイントに貼り付ける。衣料でこの効 果を出すためには、着用した際にテーピング効果を得るサポート部分にテー プに相当する素材が確実にフィットし、適切な圧をかけ、動いても着崩れな いことが条件となる。商品の構成には、当然ながら、テーピング効果を出す ラインのカッティング位置と適切な圧条件は何なのか、更にはストレッチ素材 の縫製には苦労したという。ここで活かされたのが、ガードルのパターン設計 技術と縫製技術だった。 ワコールにはこれら技術に加えて、身体に関するデータの蓄積もあった。 1964年に設立した人間科学研究所には独自で計測収集した女性 35,000人(男性5,000人程度)の身体データがあり、これを基に各部位の 高さと周径をサイズごとに最適な寸法基準を確定し、機能の確保に役立て ている。「テーピング効果を確認するには試作品を着用した実験を行い、 データを分析し、機能をデータで実証するというくり返しで開発は大変でし た。」とワコール・ウエルネス事業部の小山由朗CW-Xチームマネージャー は語る。CW-Xは、下着メーカーだからこそ開発できた新しい機能を備えた 商品ジャンルだったのである。 ワコールは技術とデータの蓄積を基に新たなる発想から生まれた製品を 知的財産権で守るために、特許、意匠、商標を駆使している。発売当初か らCW-Xは世界に通用する商材であるという認識を持ち、欧米をはじめと する各国で知的財産権を取得し、他社の追随を許さぬ体制も固めた。 CW-Xブランドの売上は91年度下期の約3,600万円に対し、 04年度上期は約24億円に伸びている。 C W ー X 取材協力/株式会社ワコール 68 水産品として初めての登録商標 関さば関あじ 商標登録第4696358号 同第3256907号 同第3256908号 鮮魚のブランドとして広く知られる「関さば」「関あじ」は、豊 後水道に面した大分県佐賀関町で一本釣りで獲られる。佐 賀関沖は瀬戸内海と太平洋の接点になっており、潮流が速 く、餌となる生物も豊富で、マダイやブリの回遊路にもあた る。この豊かな漁場で獲れる「関もの」は、以前から味のよさ で定評があったが、全国的な知名度は低かった。 69 関さば関あじ ブランド化の第一歩は、1988年に佐賀関漁業協同組合(現・大分県漁 業協同組合佐賀関支店)が買い取販売事業を始めたことだった。既存の 仲卸4社に漁協が加わり、漁師から直接買い付けることで競争原理を働か せ、組合員の収入安定をはかるのが目的だった。買った魚は売らなければ ならない。一村一品運動を展開する大分県の後押しもあり、漁協は県、町 と一体になって販促キャンペーンを県外で展開した。並行して「関さば」 「関あじ」の特色を科学的に分析した結果、いずれも佐賀関沖だけに住む 独立した群とみられ、漁場の地形などから年間を通じて脂肪量の変化が 少ないなどがわかった。特に「関さば」は鮮度が落ちにくく、刺身がもっとも おいしいという、ほかに例のないサバだ。 漁協のキャンペーンはバブル期のグルメブームに乗り、マスコミでもしばし ば取りあげられて「関さば」「関あじ」は高級ブランドとして認知されるように なった。同時に、偽物も登場する。店頭で見分けがつかないという声が聞 かれ、中には「関さば」かどうか鑑定してほしいと、冷蔵宅配便が送られて きたこともあったそうだ。消費者の信用を得るためにマークをつけ、水産品と して初めて、1996年に登録となった。 「大分県発明協会で商標登録について教えてもらって、出願しました。 初めてのことで、特許庁とのやりとりに手間どったのですが、登録できた後 に特許庁の方がわざわざ見えて、漁業関係者の意識改革を促したと褒め ていただきました」と漁協佐賀関支店長の岡本喜七郎さんは言う。 ブランドを維持するためには、品質の確保が重要である。「関さば」「関あ じ」の要件には一本釣り、活けじめなどがあり、身を傷めずに鮮度を保つた めに細心の注意が払われている。尾につける商標タグも、身を傷つけない ように考案されたものだ。ブランドが確立したことで、サバの浜値は十倍に、 以前から高値で取り引きされていたアジも倍になった。漁協では、このブラ ンド力を活かして、注文販売にも力を入れている。 関 さ ば 関 あ じ 取材協力/大分県漁業協同組合 70 北海道を代表する銘菓 白い恋人 商標登録第1435156号 同第1656297号 同第1656298号 同第1709421号 「白い恋人」は、北海道の代表的なおみやげとして日本全 国はもとより、東南アジアでもその名を知られている。洋生菓 子やチョコレートのメーカーである石屋製菓で「白い恋人」が 生まれたのは、1976年のことだ。ホワイトチョコレートが注目さ れ始めた頃で、さくさくしたクッキー(ラングドシャー)でホワイト チョコレートをはさむアイディアは、画期的なものだった。 71 白い恋人 このお菓子にふさわしい、雪や北海道を連想させるネーミングに、スタッフ は頭を悩ませたという。北国、冬将軍、ツンドラ、ブリザードといった名前も提 案されたそうだ。創業者であり先代の社長である石水幸安氏が、雪の降り 始めた外から帰ってきてふと口にした「白い恋人たちが降ってきたよ」という 一言が決め手となった。『白い恋人たち』は1968年に開催されたグルノー ブル冬季オリンピックの記録映画の邦題である。そのテーマソングもヒットし たことから、石水氏もこのタイトルを記憶していたのだろうという。 「白い恋人」は、それまでに例のないタイプのおしゃれなお菓子で、ロマン チックなネーミングも手伝って、瞬く間に人気商品となった。発売した1976 年に500万枚が売れ、知名度が高くなるにつれて売上も伸び、2003年の 年間販売数は2億枚に達している。またチョコレートドリンクなど「白い恋人」 シリーズの商品も展開しており、石屋製菓の中心を成す商品群のひとつで ある。 1986年にはスイス・モンドセレクションのゴールドメダルを受賞するなど、品 質の点でも高く評価されていることから、さまざまな類似商品が出ている。ま た「白い恋人」に似たネーミングも続々と登場した。現社長の石水勲氏は 「あまりにもまぎらわしいネーミングは、使用をとりやめていただきました。登録 商標が製品を守ってくれます」という。同社はすべての製品について商標 を登録しており、「白い恋人」については台湾、香港などでも登録済みだ。 北海道旅行の人気が高い東南アジアで、コピー商品を日本製として販売さ れるのを防ぐためである。 石屋製菓の製品は、北海道を誇りとし、北海道の旅情とともに楽しんで いただきたいとのことから、北海道限定販売である。ところが最近、「白い恋 人」が香港などで売られていることがわかった。北海道で購入したものを、 高い値段で売っているらしい。「上代で買われるの には文句のつけようがなくて」と、石水社長は対応 に苦慮している。ヒット商品を巡る攻防は、終わりが ないのだろうか。 白 い 恋 人 取材協力/石屋製菓株式会社 72 使いやすさ、美しさを追究した 髪ゴム特許第2936091号 ヘップリング 同第2936092号 商標登録第4392841号 意匠登録第1057274号 髪を束ねるのに便利かつおしゃれなアイテムが、カラフル な髪ゴムだ。そのトップメーカーのイノウエが開発した「ヘップ リング」は、一見つなぎ目のない、リング状の製品である。それ まで市販されていた髪ゴムは、1m程のひも状のもの、あるい は金具で両端を留めてリング状にしたものだった。 73 ヘップリング ひも状のものは、利用者が好みの長さに切って使える利点がある反面、 結び目がほどけたり、きれいにできないことがある。リング状のものならば、そ うした心配はないが、金具とゴムの間に髪がはさまるという欠点があった。こ の課題を解決するためにイノウエが取り組んだのは、ゴムの両端を接着し てリング状にする技術である。髪ゴムは、ゴムの芯を組紐が覆っていること から、素材の異なるゴムと組紐を同時に接着しなければならない。しかも、 接着面にはゴムの引っぱる力がかかる。 「発想してから満足のいくものができるまで、約五年かかりました。途中で 断念しかけたこともあります。一番難しかったのは接着剤です。メーカーさん と試行錯誤を繰り返しました。」と同社社長の井上旭さんは振り返る。接着 できても、つなぎ目が盛り上がってしまっては、美しさや使用感を損ねる。こ の点を改良するのも大変だった。ゴムの断面はまん丸ではないので、接着 は目で見て力を加減する手作業でなければできないそうだ。 ヘップリングのつなぎ目は、注意して触らないとわからない。その売り上げ は、従来品とは比べ物にならないほど飛躍的に伸びたという。この画期的 な技術で、同社にとって初めての特許も取得した。井上さんは「うちの真似 をした製品がずいぶん出てきたことから、知財強化を図る必要を感じてい た。」と出願の背景を語る。接合部に関する特許では、構造や方法に加 え、つなぎ目の美しさを実現した点を発明と認められるよう、工夫したという。 ファッションに関わる企業ならではのこだわりだろう。ヘップリングについては 2件の特許のほか、商標、意匠を登録している。 日本の伝統を継承する組紐メーカーを前身とする同社の製品は、髪ゴム を中心とするゴム芯入り組紐が7割を占める。パッケージ用の装飾ゴムは、 丸い品物の包装に使われることが多い。「結びの文化が失われ、紐を結べ なくなった」ためだと井上さんは指摘する。組紐のノウハウを持つイノウエ は、知的財産権を事業戦略の柱として、「結べない」現代のニーズに応え るとともに、紫外線カットなどの機能を備えた 製品開発を進めている。 ヘ ッ プ リ ン グ 取材協力/株式会社イノウエ 74 あらゆる毛髪の悩みを解消できる特許第3484565号 ヘアコンタクト 米国特許第6446634号 商標登録第4716039号 ●代理人/浅野勝美弁理士 従来のカツラとも、育毛・増毛法とも全く異なるヘアコンタ クトは、2003年の発売当初から大きな反響をよび、生産が追 いつかない状態が続いている。人工毛髪を植え付けた特殊な フィルムを、皮膚に張り付けるという発想が画期的であるだけ でなく、機械生産を実現した点も、この業界の常識を破るも のだった。 75 ヘアコンタクト 開発したプロピアの保知宏社長はカツラ・育毛業界に入って以来、消費 者の側に立った商品がないと感じていた。かつて、眼鏡の不便さや不格好 さをコンタクトレンズが変えたように、カツラに代わる商品をつくりたいという保 知さんの夢はベルやエジソンといった大発明家たちが発明の原動力とした 人々への「愛」であった。開発に着手したのは1997年。まず製造機械の開 発を既知の新科学開発研究所に依頼した。さらにフィルムと張り付けるた めの吸着剤は日東電工が、人工毛髪は帝人が引き受けることに決まった。 ベンチャー企業であるプロピアの、ゼロから取り組む商品開発に大手企業 や弁理士が参画したのは、保知さんの熱い「思い」に共感したからだ。薄毛 で悩んでいる人だけでなく、病気や怪我で頭髪を失った人たちに、使い勝 手のよい、安価な商品を提供したいという、強い思い。しかし、開発は困難 を極めた。直径0.08mmのポリエステル製人工毛髪を機械で植毛するため には、染色後の絡み合った状態をほぐして、ボビンに巻き付けなければなら ない。一方、透湿性を備えた多孔質の医療用フィルムを改良して、皮膚の 角質層と同じ0.03mmまで薄くするのに成功したが、機械植毛で破けてしま う。針一本から特殊な技術で開発した製造装置は、フィルムと人工毛髪の 開発と併行して、改良を重ねる必要があった。0.03mmのフイルムで試作品 ができるまでに、4年の歳月を要した。さらに従来製品のユーザーの協力で テストを重ねて吸着剤、専用の剥離剤を完成させ、2年後、発売にこぎつけ た。テレビCMを打った翌日から、電話がパンクするほどの問い合わせが あったそうだ。ユーザーのさまざまな要望に対応できるヘアコンタクトの特性 が広く知られるようになった。これによって、異業種分野からも注文が来る ほか、用途も広がっている。「知的財産権は技術を守ると同時に、企業コン セプトを守るもの。知的財産権を得たお返しとして、社会貢献したい」と保 知さんはいう。ヘアコンタクトは日々進化し、製品改良が続いている。現状の 製品は、数十万円のカツラと同じサイズが1万5千円ほどで、約二週間使え る。さらに量産体制を整えることで、低価格化を図るという。 ヘ ア コ ン タ ク ト ※「ヘアコンタクト」は株式会社プロピアの登録商標です。 取材協力/株式会社プロピア 76 蒸溜所の名を冠するのが 一流の証明 山崎 商標登録第4312545号 ●代理人/柳生征男弁理士 「山崎」は、サントリー山崎蒸溜所竣工60周年を記念して 1984年に発売された。京都郊外の山崎は、サントリーのウイ スキー誕生の地であると同時に、国産ウイスキー発祥の地で もある。その地で、日本で初めてのピュアモルトウイスキー 「山崎」が生まれた。 77 山崎 ウイスキーには、世界共通の決まりがある。一般的なウイスキーは、複数の 蒸溜所でつくられた数種の原酒をブレンドしたものだ。原酒は原料や蒸溜 方法の違いによって、モルトウイスキーとグレーンウイスキーに分かれる。「山 崎」は、山崎蒸溜所でつくられたモルトウイスキーのみでつくられる。単一蒸 溜所生まれのモルトウイスキーは、ウイスキー先進国のスコットランドではシン グルモルトと呼ばれ、その蒸溜所の名が冠される。山崎蒸溜所のシングル モルトであれば、その名は「山崎」でなければならない。とはいえ、漢字表記 のネーミングは社内でも賛否両論だったという。サントリーでもラベルはすべ てアルファベット表記だった。だからこそ、それまでに例のない漢字表記、し かも筆文字のインパクトは大きかった。ラベルの文字は、当時の社長であり マスターブレンダーだった佐治敬三氏の筆によるものだそうだ。発売当初こ そ、シングルモルトウイスキーの認知度が低かったため、価格の高い「山崎」 がいきなり売れることはなかった。しかし、ウイスキー全般の売上が減少する 中で、「山崎」は確実にファンを獲得してきた。「山崎」をはじめとするシング ルモルトウイスキーは、今や、同社で最も勢いのある商品になっているとい う。2003年に、世界でも権威ある酒類国際コンテストのインターナショナル・ス ピリッツ・チャレンジで、「山崎12年」がウイスキー部門の金賞を受賞した。さ らに2005年には「山崎18年」がサンフランシスコワールドスピリッツコンペティ ションで、最優秀金賞を受賞し、品切れになるときもあるという。商標登録に ついては、発売当初は「山崎」が一般的な氏でもあることから、出願してい ない。販売実績を積んだ1994年に出願、当然ながら拒絶理由通知がき た。不服審判を経て、3条2項によって1999年に登録が認められた。使用 による顕著性を証明する上で、「多くのお得意様から提出いただいたご意 見が力になりました」と知的財産部の羽鳥裕子さんは振り返る。「土地の 個性がはっきり出る、地酒のようなもの」(洋酒事業部・矢ヶ崎哲也さん)で あるモルトウイスキーの個性を主張する上でも、山崎蒸溜所を 前面に出したブランドイメージを確立することが重要であり、 商標登録は大きな意味を持っている。 山 崎 取材協力/サントリー株式会社 78 機能を重視して生まれた 超立体マスク 意匠登録第0972250号 商標登録第4692567号ほか 「ユニ・チャーム超立体マスク」は、マスクの概念を一変さ せた。従来のマスクが平面であるのに対し、立体構造になっ ているのが最大の特徴だ。これにより、顔にぴったりフィットす るだけでなく、マスクと口の間に空間が生まれ、息苦しさがな い。 79 超立体マスク 「ユニ・チャーム超立体マスク」が誕生した背景には、花粉症に苦しむ人 たちが年々増えていたことがある。同社は、すでに医療向けに立体構造の マスクを製造していた。医療用マスクに求められる密閉性、快適性を実現 する形に行き着くまでに、およそ千枚の試作品がつくられたそうだ。密閉性 は花粉症対策にうってつけだが、形が消費者に受け入れられないのでは ないかという声が、社内にもあったという。しかし、花粉用マスクは機能を重 視すべきであるということで、市販に踏み切った。構造については医療用 マスクの技術を転用し、カップ部分には花粉を通さない高密度の不織布を 採用、耳かけ部分には長時間かけていても痛くならない素材を選んだ。 2003年1月に発売した当初は、社員が通勤時につけて、立体的な形の浸 透を図った。さらに花粉症に悩んできた雑誌編集者の目にとまるなど、マス コミで紹介されて機能も認知されるようになった。特に女性には、花粉の シャットアウト効果でくしゃみなどによる化粧崩れの心配がない、口紅がつか ないなどの点で、広く支持された。 同年10月には、ウィルスを通さない高いバリア性と、のどの保湿効果を持 つ、かぜ用を発売した。花粉用はカップが一層であるのに対し、かぜ用は三 層になっている。「用途が違えば、求められる機能も違います。花粉用とか ぜ用をそれぞれに開発した点も、お客様の快適な生活をお手伝いするライ フサポートインダストリーとしての当社のこだわりです」(同社広報室・服部聖 子さん)。消費者の使い勝手のよさを重視して、それぞれ3サイズを用意し、 05年には耳かけ部分の伸縮性をアップして使い心地のよさも改良してい る。発売後にはSARS、鳥インフルエンザなど新たな感染症が国際的な問 題になり、マスクの予防効果が見直されたことで、売上は大きく伸びた。「ユ ニ・チャーム超立体マスク」は日経BPデザイン賞2003のプロダクト部門銀 賞を受賞した。マスクに革命をもたらした製品だけに、類似品も次々に出て いる。国内の競合品に対してだけでなく、輸入品についても 不正競争防止法や水際措置により、この商品を守っている。 超 立 体 マ ス ク 取材協力/ユニ・チャーム株式会社 80 水溶化技術によって 用途を拡大した コエンザイムQ10 特許第3549197号 特許公開番号2004-242508 2004-242509ほか 抗酸化作用、エネルギー産生の促進作用などが注目されて いるコエンザイムQ10(CoQ10)は、心疾患の医薬品原料とし て30年近い歴史がある。1957年にウシの心臓から発見され て以来、世界中の医薬品メーカーなどがその製造技術開発 に取り組んだ中で、いち早く67年に量産化に成功したのが日 清製粉の医薬部門(現・日清ファルマ)だった。その背景に は、長年蓄積してきたビタミンB6などのビタミン研究と、ビタミ ンE、K1の製造技術がある。CoQ10はこれらのビタミンと構造 が似ているそうだ。 81 コエンザイムQ10 74年からCoQ10の供給を始めた。それが一息つくと、主にアメリカで健康 食品分野での伸びが顕著になったことから、輸出を開始。さらに、同社は用 途拡大を目的に水溶化検討の開発に着手した。脂溶性のCoQ10を水溶 化できれば、さまざまな食品に使用が可能になる。 日本では2001年にCoQ10が食品分野に利用できるようになり、同社は原 料供給だけでなく、サプリメントを製造、通信販売を始めた。この翌年に水 溶化技術を確立、食品素材としての発売を開始した。食品分野でCoQ10 はまったく無名で、しかも食品の場合は、薬事法の関係で健康効果を自ら アピールできない。一挙にブレークした契機となったのは、その健康効果を クローズアップしたテレビ番組だった。 「水溶化技術の確立まで三年ほどかかりました。お客様には、用途が広 がっただけでなく、吸収力も向上することが可能となり、いろいろな商品を提 供できることが可能となるためメリットがあると思います。」と開発者である同 社健康科学研究所の峯村剛さんは言う。 同社は04年からドラッグストアなどの店舗販売に進出し、水溶化CoQ10 の特性を活かした顆粒状パウダー、ドリンク、ゼリーなどの自社製品を展開し ている。また、素材としてもヨーグルト、菓子類、調味料などの食品から、化粧 品にも用途が拡大している。 食品分野に進出するに当たって、国内外のCoQ10に関する特許を調査 したところ、食品特許は少なかったという。この結果から、同社はCoQ10のサ プリメントなど健康食品に関して安定性・吸収性・効果改善技術のさまざま な特許を出願して、この技術による優位性を確保する万全の態勢を整え たという。水溶化CoQ10に関しては、親会社である株式会社日清製粉グ ループ本社にて「アクアQ10」の名称で商標も取得している。(第4828452 号第4880268号) 今後、知的財産権で守られた水溶化技術を強化して、世界における CoQ10のパイオニアとしての地位をさらに高めていく方針だ。 コ エ ン ザ イ ム Q 取材協力/日清ファルマ株式会社 82 使っても元のかたちに戻る 動物型の輪ゴム アニマルラバーバンド 意匠登録第1244650号 同第1244651号ほか アッシュコンセプトのアニマルラバーバンドは、輪ゴムの概 念を一変させるデザインと機能を併せ持ち、グッドデザイン賞 中小企業庁長官賞を受賞している。動物の形をしたシリコン 製の輪ゴムは、普通の輪ゴムと同じように使った後も、元の 形に戻る。哺乳瓶の乳首と同じ素材で、マイナス40度からプ ラス190度まで対応でき、冷凍や湯煎に耐えられるのも優れ た点だ。 83 アニマルラバーバンド アッシュコンセプトの代表取締役・名児耶秀美さんは、家庭用品メーカー で商品開発に手腕を発揮していたが、日本の優れたデザインを世界に発 信したいと、会社を設立した。アニマルラバーバンドは、その最初の商品と なったのだ。「動物をデフォルメしたデザインは、一筆書き、浮世絵の文化を 受け継ぐもの」で、名児耶さんの事業方針にぴったりだった。 デザイナーとともに、楽しく、安全で、長く使える商品にするために、素材、 動物の種類や色を決めた。製造を依頼した工場は最初、シリコンで輪ゴム をつくるという注文に戸惑ったが、デザインを見て、製造方法の研究に熱心 に取り組んでくれたという。シート状にして打ち抜くと膨大なロスが出るため、 動物の姿を筒状に成型して、スライスする技術が確立された。 「デザイナーに、どこで売りたいか聞いたら、MoMA(ニューヨーク近代美 術館)というんです。それで、知人を介してニューヨークのギフトショーに出展 しました」 2002年4月の会社設立からわずか4ヵ月後のことである。アニマルラバー バンドはMoMAのバイヤーの目に留まり、同年10月に発売。MoMAでデ ビューを飾ったことから注目され、瞬く間にヒット商品となった。すでに欧米、 アジアなど世界の約20ヵ国で販売され、900万匹を超すアニマルラバーバ ンドが世界各地に「生息」している。 最初に出したキリンなど6種の〈ZOO〉に続き、2年後には犬や猫など6種 の〈PET〉を出した。「まるで同じ形のコピー商品が出ることのないように、と いう考え」から、この12種の動物それぞれについて意匠登録している。「感 動する、ドキドキ、ハラハラするようなモノづくりをしたい」という名児耶さん は、商品ごとにどういう形でデザイナーの権利、会社の権利を守るかを検 討、知的財産戦略を重視している。 ア ニ マ ル ラ バ ー バ ン ド 取材協力/アッシュコンセプト 84 ロゴで認知度を高め、 信用を築いた タイムズ 商標登録第4011856号 同第4303023号 同第4303024号 駐車場関連機器を扱っていたパーク24株式会社が、無人 時間貸し駐車場の運用を開始したのは、1991年のこと。月極 駐車場か有人の時間貸し駐車場しかなかった当時、24時間 営業の駐車場は画期的なシステムだった。 85 タイムズ さらに、「タイムズ」という名称を採用、加えて周知を図るためにロゴをつくる ことになった。24時間、時間貸しという特長が一目でわかるデザインにしたい と、さまざまな案が検討された。採用されたロゴには、駐車場を示すPの文 字も、料金も入っていない。よく見ると、Tの横棒の下側は、車のボディライン を描いている。看板は個性的な平行四辺形にして、目立つ色を使った。 このロゴを入れた横180cm、縦71cmの大きな看板を設置するや、認知 度は急速に高まった。同社は広告宣伝を一切していないが、ユーザーであ るドライバーの認知度は90%を超えているという。 ドライバーの目印となるロゴは、看板と同じ平行四辺形に入ったデザイン でも商標登録された。 「タイムズ」事業は、土地のオーナーに一定額の賃貸料を支払い、設備 の設置、管理、運営は同社が行うものだ。土地オーナーの側には、経済的 負担はない。「話がうますぎると、最初は信用してもらえませんでした」という のは、同社経営企画部広報担当の斉藤智之さん。ロゴを掲げたことで、 ユーザーだけでなく、土地オーナーにも知られるようになり、信用に結びつい たという。 「タイムズ」は全国に広がり、1995年に1万台を突破して以降、加速度的 に拡大し、2006年9月末には6076件、約16万台に成長した。事業内容も、 店舗が所有する来客用駐車場の運営管理、大型駐車場ビルの開設など、 幅広い展開をみせている。さらに、2006年には韓国、台湾にも出店した。 全国の駐車場需要は1100万台であるのに対し、現在ある駐車場は半 分以下の500万台。渋滞解消、事故防止などのためにも、まだ駐車場を増 やす必要がある。近年は、再開発事業でも駐車場設置は不可欠になって いる。ここでも「タイムズ」のノウハウが求められ、同社は再開発エリアの駐車 場サービスシステムの構築も手がけている。 「駐車場事業は参入障壁が低いだけに、ロゴで認知していただき、信用 を築いてきた効果は大きい」と斉藤さんはいう。事業の拡大、成長に貢献し た「タイムズ」の商標は、いまや時間貸し駐車場の代名詞といってもよい。 社名よりよく知られているロゴは、同社社員の 名刺にも入れられている。 タ イ ム ズ 取材協力/パーク24株式会社 86 遊び心いっぱいのアンプ内蔵型ギター 商標登録第3201434号 ギターは1モデルで年間2000本出ればヒット商品といわれ る。バンドブームが最高潮だった1993年から94年にかけて、 ZO-3(ゾーサン)シリーズは1年間でざっと7万本売れた。製 造・販売するフェルナンデスは1969年にギターの卸売会社と して創設、ほどなくオリジナルギターの製造を始めた。ギター のほかアンプなどの周辺機器やアクセサリーも企画・販売し ている。 87 常に変化する音楽市場の動向に対応する製品づくりを進める中から ZO-3は生まれた。もっとも、開発のきっかけがお花見だったというのは、か なり特異なケースである。どこでも楽しめるアンプ内蔵型のエレキギターをつ くった結果、象をデフォルメしたような形になったそうだ。足に見える部分の カーブはギターを太ももにのせやすくする工夫で、スピーカーの位置も必然 性があって決められた。ギターの品番はアルファベットと数字の組み合わせ が多いこともあり、ZO-3と名付けられた。 90年3月に発売した当初は、ギターとして受け入れられる形ではないとい う空気が社内にもあった。しかし、遊び心いっぱいでありながらギターとして のクオリティが高いことにプロのミュージシャンがまず飛びついた。発売から 半年ほど経って忌野清志郎さんがトーク番組にZO-3持参で出演したこと に大きな反響があり、年末には一挙に増産した。「初動の売上にはネーミン グも貢献しています」と同社商品統括部部長の白熊裕一郎さんはいう。翌 年、ベース・ギターPIE-ZOも発売された。 ZO-3のユニークなボディを「キャンバス」にキティちゃん、ウルトラマンなど のキャラクターをペイントしたモデルも人気が高い。92年に初めて出した阪 神タイガース承認モデルは定期的にデザインを更新しているという。 少子化と趣味の多様化でギター全体の売上は90年代半ばの半分ほど に減っている。そうした中でZO-3シリーズは年間1万数千本を売るロングセ ラーだ。2台目のギターとして持つユーザーも少なくない。また欧米、アジア諸 国にも輸出している。 「権利の防衛だけでなく侵害しないためにも知的財産には早くから取り 組んできました。定期的に開く知財会議で最新動向をチェックしています」 という白熊さん。アジアでの偽物対策もさることながら、最近ではネットオーク ションなどweb上に出る類似品対策に取り組んでいる。 取材協力/フェルナンデス 88 機能を一言で表現した 消臭芳香剤 消臭力 リキ 商標登録第4507364号ほか 消臭芳香剤として、初めて消臭パワーを前面に押し出して リキ 登場したのが、エステー化学株式会社の「消臭力」だった。従 来商品が悪臭を別の香りで覆っていたのに対し、消臭力は、 悪臭を消臭し、さらによい香りをプラスする機能を備えてい る。 89 消臭力 リキ すでに、同社には「シャルダン」ブランドがあったが、敢えて、新しいブランド を立ち上げた。商品開発グループマネージャーの水中幹士さんは「全社が 一体となって、シェア獲得に向けた商品内容の一新に取り組みました」と 開発の経緯を振り返る。ターゲットとする30代、40代の女性を意識して、スタ イリッシュなデザインにもこだわった。スマートな容器を実現するために、従来 品より高い位置まで液を吸い上げられる吸液芯の開発が、技術面のポイン トになったという。高さの違いでその他の点でも機能がまったく変わるため、 シャルダンで培ったノウハウを基にしてもなお、一年余りの開発期間を要し たそうだ。 2000年にトイレ用消臭力を発売した当初から、独自技術とネーミングのイ ンパクトによって、大きな反響があった。翌年に部屋用を出し、その後も新た な香りの追加、デザインなどのリニューアル、機能アップをしてきた消臭力シ リーズは、年10~20%の成長を続けている。現在、消臭力にはトイレ用、部 屋用各10種のほか、トイレスプレー、台所スプレーがあり、同社の主力ブラン ドの一つとなっている。 消費者向けに製品展開する同社の商品開発コンセプトは「聞いてわか る、見てわかる、使ってわかる」というもの。特に消臭芳香剤は競合品が多 い上に、嗜好性の強い商品だ。「いかに消費者の目にとまるかが大事。パッ と見て特徴がわからなければ負け」(水中さん)という。消臭力のネーミング は、商品特性をズバリと表したものである。 しかしその反面、商標登録は難しかった。「ブランドを保護するため、いろ いろな方法で出願し続けました」と法務グループ知的財産担当サブマネー ジャーの座間毅さんは語る。発売からほぼ2年を経て、デザインを含めたロ ゴとして登録にこぎつけた。「商標、意匠はブランドを守るために重要なもの として、社内でも広く認識されています。商品価値におけるウェイトも高い」 (座間さん)という。消臭力シリーズでは、対抗的、防衛的措置として、リ ニューアルに合わせて新たな商標を登録している。 消 臭 力 リ キ ※エステー化学株式会社は2007年8月1日より エステー株式会社に社名を変更 取材協力/エステー株式会社 90 シンプルな構造ゆえに 特許がいきる ハイブリッドファン 特許第3717509号ほか 空調から出る風を分散させ、空気の流れをつくる株式会社 潮のハイブリッドファンは、天井付近と床面の温度差を解消 して、快適な空間を創造する。天井カセット型など既設の空 調機に簡単に取り付けられるほか、空調の風で回るので、そ れ自体はエネルギーをまったく消費しないのが大きな特徴で ある。 91 ハイブリッドファン 開発のきっかけは、冷房の風が直接当たらないようにボール紙を貼付け た空調機を見たことだったと、同社代表取締役の田中俊孝さんはいう。自 宅の天井扇を見上げて、これをつけたらどうなるのかと考えた。試作品をつ くる上で苦労したのは、羽根の形状くらいだという。 特許出願を済ませた田中さんは、重量1kgを目安に、軸と座金以外はす べてアルミ製の試作品を100個ほどつくり、顧客などのオフィスで試用しても らった。その結果、予想を超えた効果が得られることがわかった。冷房の場 合、10℃以上あった天井付近と床の温度差が、ハイブリッドファンを取り付 けることで1℃になるというデータが出たのである。 「空調の設定温度を夏は上げ、冬は下げることができ、大きな省エネにも つながる。CO2削減もアピールできるとわかりました」 室内環境改善効果に加え、1台2万8800円(税抜き)のローコスト省エネ 機器として、2005年1月に発売。大量注文を受けたのは、着想から1年半 後だった。店舗開発、事務機器関連の展示会に出展したほかは、営業活 動をしていないが、月1000台ほどの注文がある。 「オフィスでも店舗でも、そこに訪ねてきた人が目にする場所にとりつけられ る製品であることが強み。お客様のところがショールームの役割を果たしてく れるのです」 開発を始めた当初、田中さんは「単純な構造なので特許がとれるとは考 えていなかった」そうだ。「同じようなことを考えたという人もいたが、つくった 人はいなかった。発想を形にすることが大事」だともいう。シンプルな構造で あるだけに、アイデアとそれを形にした努力を守る特許の力が発揮される。 現在はプラスチック製の羽根を採用したタイプのほか、家庭用空調機向 けのエココプターも発売。「中小企業が製造できるものを開発し、販売店と 連携する。 開発から製造、販売まで、どこでも業績が上がるような製品のメーカーとし て展開していきたい」と田中さんは今後の抱負を語る。 ハ イ ブ リ ッ ド フ ァ ン 取材協力/株式会社潮 92 新たな性能を守るための 特許戦略 キュキュット 特許第3617838号 意匠登録第1215001号 商標登録第4760169号 2004年春に発売された花王株式会社の食器用洗剤キュ キュットには、発売直後から好評意見が多く寄せられたという。 これは、新たな性能である素早い泡立ちとすすぎ、ぬめりが残 らない洗いあがりが、消費者をとらえたことの証左である。 93 キュキュット 汚れ落ちのよさを求める消費者が実感できる性能を、どう設計するかが 洗浄剤開発のカギとなる。キュキュットは「素早い」をキーワードにしたと語 る、同社ハウスホールド研究所の吉田隆治さんが着目したのは、界面活性 剤・アルキルグリセルエーテル(AGE)だった。単分子として働くAGEの特 徴が速泡性と、油汚れを素早く取り去る性能を生んだ。AGEを含む新たな 洗浄成分は、ミクロウォッシュと呼ばれている。 ミクロウォッシュの技術は、液体洗浄剤組成物として特許出願、登録され ている。一般の洗浄剤に使われている成分とAGEとの組み合わせは公知 だったことから、AGEを特定の1種に限定した選択発明として出願された。 「選択発明では、効果、即ち何を実現するかを明確にしなければなりま せん。一番強調すべき性能として、早いすすぎと洗いあがりの感触を取り 上げました」というのは、同社知財センターの網屋毅之さんである。特許化 に当たってぬめりのない洗いあがりの感触は、消費者のニーズに合致する ことを主張した。また、従来の洗浄剤に関する特許で、すすぎに言及されて いる例は少ないという。 特許出願では、技術を説明するための「性能の数値化が最も難しい」と 吉田さんはいう。JISなどの基準はあるが、それでは示せない性能がある。 洗い上がりの感触などは官能評価で示すことになるが、その内容が曖昧だ と受け止められないように示すことがポイントになる。 洗浄剤は歴史の長い分野であり、また競合商品も多い。「液状の洗浄 剤は、成分を混ぜれば誰でも簡単に同じものを作ることができる。特許は広 くとるのが望ましいのですが、どこまで限定したら認められるかとの兼ね合い で、出願内容を決めていきます」と網屋さんはいう。同社では、研究開発で 新たな技術ができた時点で特許をとり、商品化の進展とともに周辺を守る ための特許のほか、商標や意匠を出願するそうだ。キュキュットも商標、意 匠が登録されている。 05年にシンクの水アカ汚れも落とせる「クエン酸効果」を、さらに翌年「ピ ンクグレープフルーツ」、「若竹」を追加した キュキュットは、同社の主要ブランドの一つに 成長した。 キ ュ キ ュ ッ ト 取材協力/花王株式会社 94 Suica対応コインロッカー AIT 商標登録第4971442号 意匠登録第1219066号ほか 駅などに設置されているコインロッカーを、電子錠を利用した 集中制御型に進化させたのが、株式会社アルファのAIT(ア ルファインテリジェントターミナルロッカー)である。現金でも 利用できるが、最大のポイントは電子マネーEdy・Suica・ PASMO・PiTaPaなどICカード型乗車券が決済だけでなく、 鍵としても機能することだ。 95 AIT 同社は1964年、日本で初めてコインロッカーを製造販売した。以来、メー ターや表示部分は改良されたが、ロッカー一つずつにコインを入れ、附属の鍵 で開閉する仕組みは変わっていない。他方では、マンション向けの宅配ボック スで、電子錠により操作部分を一カ所に集約するシステムを構築していた。 ICカードが普及し、電子マネー化の方向が見え始めた2003年、宅配ボッ クスで得たノウハウでコインロッカーを一新する取り組みが始まった。不特定 多数の利用者を対象とする製品だけに、いかにわかりやすく簡便な操作 性を持たせるかに、一番苦心したという。 試作機ができた2003年12月、Suicaとの連携の提案をさせて頂いた。 JR各駅にはコインロッカーが設置されており、新しいロッカーの普及には Suica対応が効果的との判断があった。2005年2月、Suicaの電子マネー 化を大々的にアピールした上野駅で、Suica対応型AITもデビューを果たし た。同時に複数の利用者が来た場合にどうなるか、使い方がすぐに理解さ れるか気がかりで、運用開始から1週間ほど、同社設計部次長の吉沢猛さ んは上野駅でAITにつききりだったそうだ。 運用開始から3ヵ月後、AITのSuica利用率は20%と、同時に設置され た自動販売機などよりも高く、ロッカー稼働率も約80%とのデータが出て、強 い手応えを得たという。その結果、同年6月に東京、品川、池袋各駅に相次 いでAITが導入される運びとなった。 新しさをアピールし、また洗練された雰囲気で利用率を高める目的でも、 AITではデザイン性が重視されている。全体、部分の意匠登録に加え、操作 部分の液晶表示を業界で初めて意匠登録をしている。「独自のアイディアを 守るために知財は重要です。特にロッカーはエンドユーザーに直接アピール でき、企画から製造まで一環してコントロールできる製品なので、商標、意匠 を大切にしています」と経営企画部法規課主管の黒澤達哉さんは語る。 関西などのICカード型乗車券に対応する機種も順次投入し、AITは全 国で設置台数を伸ばしている。 A I T 取材協力/株式会社アルファ 96 太陽熱温水器の定番 ゆワイター 商標登録第1501603号ほか 実用新案第1452991号ほか 太陽熱温水器の代名詞ともいうべき、矢崎総業株式会社の 「ゆワイター」の発売は1976年のことである。同社の吸収冷凍 機の技術を活かした、太陽エネルギーによる冷暖房給湯シス テムの実用化が開発の契機だったと、環境システム開発セン ター副センター長の浅井俊二さんはいう。その背景には、第1 次、2次石油危機時の原油の安定確保に対する危機感と同 時に、国際的な太陽エネルギー利用の気運の高まりがあった。 97 ゆワイター 74年、太陽熱により冷暖房・給湯ができる実験ソーラーハウスを完成し、世界 ではじめて太陽熱による冷房を行った。このために開発したのが、太陽集熱器 「ブルーパネル」である。透過性の高い半強化ガラス(のちに半強化白板ガラス を採用)、温水に対する耐食性に優れたステンレス鋼などの新素材を、メーカー の協力を得て開発した。単独開発した選択吸収面とその製造方法は、国内は もとより、海外30ヵ国以上で特許出願した。 この時期は太陽熱利用の市場が限られていたことから、ブルーパネルのコスト 低減を図り、市場拡大するための商品として浮上したのが、住宅用太陽熱温水 器だった。既存の汲置き式太陽熱温水器は、日が陰ると貯湯水が冷めてしまう 欠点があった。そこで、集熱器上部に保温した貯湯槽を、下部に集熱器を配置 し、日射により自然循環する自然循環型に着目した。 集熱板は、プレス成形した2枚のステンレス鋼板をシーム溶接して水路を形成 したもので、水路を一つおきに溶接することにより凍結で水の体積が増加して も、溶接していない部分がふくらんで、破損を防止できる。一度に8本を溶接でき る、8連シーム溶接の技術も生み出した。 さらに、貯湯槽のカバーを反射板として活かし、冬期に追い焚きなしで風呂に利 用できる日数を増加させた。また当時、主に緩衝材に使われていた発泡スチロー ルを断熱材として利用するなど、協力メーカーとともに商品化開発が行われた。 ゆワイターという名前は、社内で公募した中から、当時の矢崎裕彦社長(現会 長)が採用したという。機能をずばりと表現する商品名は、消費者の認知度を 高めるのに効果的だった。商標のほか意匠や実用新案を登録したが、それで も、76年の発売直後から、デザインなどの類似品が市場にあふれた。その中で、 当時は、給水自動止水装置(ボールタップ弁)の摺動面に湯垢が付着して起き る止水不良は業界の常識だったが、それを改善する為に考案されたフッ素樹脂 コーティングが、実用新案として公告され、ロイヤリティー収入が入った時は、至上 の喜びだったと考案者の環境エネルギー機器本部住設企画部主管の吉広孝 行さんは振り返る。 以来30年以上にわたり、ゆワイターは時代に応じて進化し続け、ロングセラー となっている。 1941年創業の矢崎総業は、自動車用のワイヤーハーネスや各種計器のメー カーとして成長を続ける一方で、空調システムやガス機器などのエネルギー機器 の分野でも事業を拡大してきた。法務室管理部部長の 勝亦佳仁さんは、特にエネルギー機器の営業部門は特 許を営業戦略に活用することを常に考えてくれるので、 特許的にもやりがいのある仕事ができると語る。 98 取材協力/矢崎総業株式会社 ゆ ワ イ タ ー 半導体の高生産性を実現する 商標登録 CLEANTRACK:第2718814号 LITHIUSPro:第5143203号 半導体は、コンピュータや携帯電話といった情報通信機器 をはじめ、家電など身近な製品の多くに使用されています。現 代社会は、半導体およびその製造技術におけるたゆまざる研 究開発の恩恵を受けているのです。 99 半導体製造は、直径200mmのシリコンウェーハに対して生産コストを約 30%削減できる300mmウェーハへの移行が進んでいます。高性能化を図 る構成回路の微細化も加速しており、2006年に65nmプロセスの量産が本 格化し、07年には45nmプロセスに移行しました。このため、写真と同様の技 術でウェーハに回路を投影して焼きつけ、IC回路を形成する光学リソグラ フィ技術も、従来の主流技術から液浸リソグラフィに向っています。 2007年に市場に投入された東京エレクトロン株式会社のCLEANTRACK® LITHIUSPro®およびCLEANTRACK®LITHIUSPro®-iは、フォトリ ソグラフィプロセスにおいて感光剤の塗布と現像を行う装置で、32nmノード 以細までをターゲットとした次世代300mmウエーハプロセスに対応する機能 を備えています。また、この装置は、斬新なプロセスとモジュールを適用するこ とで、最先端の液浸リソグラフィプロセスにも対応可能です。 開発に当たっては、同社のレジスト塗布現像装置で培った高い技術力 をもとに、飛躍的な高生産性と高信頼性の実現を目指しました。装置面積 の縮小化を図りつつ、処理能力を高めるという矛盾した課題を克服する のが困難でしたが、まず設置面積を従来比25%削減することに成功し、次 いで、ウェーハを搬送するシステム開発によってスループットを30%高め、 180枚/時間の高い生産性を実現しました。露光機を含めた装置性能の 向上に加え、薬液コストの大幅削減などによって運用コストを低減した点で も革新的であるといえます。 技術専門商社として1963年に創業した同社は、その後、半導体製造装 置の開発・製造に軸足を移しました。その当初、競合会社の多くは米国企 業でした。競合企業が保有する米国特許を徹底的に分析し、開発・設計部 門にフィードバックしてきた結果、半導体製造装置およびフラットパネルディス プレイ製造装置のトップメーカーに成長し、2007年の半導体製造装置メー カーの売上高ランキングでは、日本1位、世界2位の実績を誇っています。 日本および米国で積極的に特許出願してきたほか、近年では韓国、中 国などで競合会社が急増しており、米国以外での知的財産権の取得も進 めています。海外での知財権取得に注力し、知財戦略、技術戦略、製品戦 略の三位一体の経営を実践する同社は、2008年度の特許 戦略優良企業として経済産業大臣より表彰されました。 取材協力/東京エレクトロン株式会社 100 豊富な発泡を実現した入浴剤 きき湯 特許第4014546号 意匠登録第1209102号 商標登録第4736467号 ツムラライフサイエンス株式会社の「きき湯」は、温泉ミネラ ルと炭酸ガスが温浴効果を高め、各種の諸症状を和らげると いうコンセプトに基づき、「バスクリン」、「日本の名湯」に続く 入浴剤として開発された。各地の温泉を研究してきた開発 チームは、新しい商品の着想を、日本一の炭酸泉である大分 県・長湯温泉で得たという。長湯温泉の肌にまとわりつく泡の 感覚から、豊富な発泡というテーマが生まれた。 101 きき湯 その発泡を実現するために採用されたのが、ブリケットという形状である。 顆粒より大きく、錠剤よりは小さいランダムな形をいう。それまで、ブリケットが 入浴剤に使われた例はなかった。試作した発泡形成物が小さく砕けたもの を、なにげなく浴湯に投入した偶然がもたらしたアイディアだった。 浴槽に投入した際に、湯の底から湧き上がるような発泡を実現するべく、 温泉ミネラルと有機酸、炭酸塩の種類・配合量の組み合わせを追求し、試 作品は400近くに及んだ。イメージに近い発泡に至ったものの、ブリケットに 成形する段階で、新たな困難にぶつかった。凸凹のある2本のロールで原 料粉末を圧縮成形するのだが、ロールにべっとり付着してしまったり、成形 したものがぼろぼろに崩れてしまったりで、さらに試行錯誤を繰り返さなけ ればらなかった。成形性の最適化と安定性の課題をクリアして、発売にこぎ つけたのである。 2003年の発売時に市場投入された3アイテムは、成分の違いも関連し て、それぞれに溶解状態が異なる製品に仕上げられている。また「きき湯」 というネーミングは、温泉成分による疲労回復効果を印象づける名称として 採用された。開発に数年をかけた商品の良さをユーザーに伝えるパッケージ として選ばれたのが、四角柱のボトルである。4つの面をフルに活用して、成 分表示のみならず、その温浴効果をアピールする情報媒体の役割も兼ね 備えるものとなった。 入浴剤市場では、国内外の多様な商品が展開されている。「きき湯」は 成形性、強い発泡性による浴湯の汚れというブリケット特有の問題を、最適 な成分の配合によって解決した点を明確にして特許を得た。特許出願に よって、同様の商品開発を進めていた競合他社の動きを制することに成 功し、「きき湯」は特徴的な入浴剤として市場の優位性を獲得している。 ツムラライフサイエンス株式会社は、2006年に株式会社ツムラの家庭用 品事業を担う100%子会社として設立された。入浴剤をはじめ、ヘアケア、 スキンケアなどの領域にも事業を広げている。2008年8月、ツムラグループ から独立した同社は、入浴剤を牽引する商品 として、「き湯」を位置づけている。 き き 湯 取材協力/ツムラライフサイエンス株式会社 102 何度も書き直せる筆記具 フリクションボール 商標登録第4911337号 意匠登録第1272587号 同第1276099号 1本のボールペンで書いて、消して、また書けるのが、パイ ロットの「フリクションボール」である。消すといっても、筆跡を 消しゴムで削り取るのとは別のメカニズムで、消しカスがでな い。その秘密はフリクションインキにある。 103 フリクションボール 一般的なゲルインキは水に顔料を混入する。フリクションインキは顔料の代 わりに、発色剤、顕色剤、変色温度調整剤を封じ込めたマイクロカプセルが 使われている。常温では発色剤と顕色剤が結合して筆跡を残す。この筆跡 を、ペンのボディ後部のラバーでこすると、摩擦熱によって変色温度調整剤 が働いて発色剤と顕色剤の結合が解かれ、インキの色が無色透明になる。 インキ消去液など化学式の消去方法とも異なり、フリクションインキは何度でも 書き直せる。 1975年に開発した、温度によって色が変化するメタモインキの改良を重 ねて得たのがフリクションインキである。メタモインキは、変色温度の幅が狭く、 マイクロカプセルもかなり大きかった。「インキとしての用途を広げるために、さ まざまなニーズに対応した目標をたて、独自の材料や成分の開発も行い、ら せん階段を登るように技術を蓄積してきました」とパイロットインキ商品開発部 課長・千賀邦行さんは語る。 筆記具に用いるための改良では、マイクロカプセルを微小かつ均一にし、 同時にカプセル膜の耐久性を高め、顔料の発色性を濃くするのが難しかっ たという。変色温度の幅を決める温度調節剤は、約20年にわたり多くの研 究員によって、1000以上の化合物が評価されてきた。フリクションインキは、 消えた状態を保つ変色温度の幅を約80度に広げることに成功した。 インキの改良にめどがつき、2004年前半にボールペンの開発が正式にス タート。ボール径0.7mmのフリクションボールは05年末にフランスで先行発売さ れ、爆発的なヒットとなった。日本でも07年3月に発売するや、ビジネスシーンか ら勢いがつき、予想を上回る売れ行きに東京の大手有力店では品切れが 1ヵ月続いたという。日本発売から1年間で4000万本(世界)を売り上げた。 07年9月に0.5mmの極細タイプを発売するに当たり、筆跡をより濃くするイ ンキの改良もあった。さらに蛍光ペン、24色のカラーボールペンなど、フリクショ ンシリーズが続々と登場している。 知的財産権について、同社知的財産室の増田敏夫さんは「営業活動を 優位にするための権利取得と、営業活動に支障をきたさないよう他社権利 の侵害防止を行うことが基本的な役割と考えます」と述べる。長年の研究成 果がつまったフリクションボールも知的財産権で しっかり守られている。 取材協力/パイロットインキ株式会社 104 フ リ ク シ ョ ン ボ ー ル 音商標によるブランドの保護 米国商標登録第2814082号 欧州商標登録第2529618号ほか TVやラジオなどで流される久光製薬のコマーシャルは、ど の商品の場合でも、メロディーにのせた「ヒサミツ♪」という会 社のロゴ商標が最後に流れる。TVの場合には、このロゴ商 標が動画として動きながら現れる。同社は、このロゴ商標を、 日本でも導入が検討されている音の商標《サウンド商標》とし て、アメリカをはじめとする12カ国・地域で登録を受けており、 さらに7カ国に出願をしている(動画による動く商標としては、 4カ国・地域で登録を受けており、4カ国で出願をしている)。 105 同社製品を展開している海外の国・地域でも、CMには「ヒサミツ」のロゴ商 標を音とともに(TVではさらに動画を加えて)流している。アジアでは香港、台 湾、シンガポールなどでサウンド商標がすでに保護対象として制度化されてお り、同社も登録済みだ(サウンド商標が保護対象になっていない韓国では、動く 商標を登録している)。同社の製品である医薬品は、各国の厚労省に相当す る機関での販売承認が必要であるため、模倣品に同じ販売名がそのまま使わ れることはない。その代わり、パッケージデザインや販売名のロゴ(字体)が頻繁 に真似される。 「売れれば売れるほど、その信用にあやかる(フリーライドする)模倣品は出ま す。だからこそ知的財産権が必要なのです。ロゴの色、デザイン、サウンドなどは 企業の信用、イメージを消費者に向けて伝える重要な媒体です。商標には企 業と消費者をつなぐ情報伝達(コミュニケーション)機能があるのです。従来、 商標の三大機能は、商品あるいはサービスの出所の表示、品質の保証、広告 の機能であるといわれてきました。メディアや社会の変化に伴い、マーケットもグ ローバル化し、今や商標は、三大機能の枠を超えた企業の信用や情報を、ひ いては信用・品質の高い商品・サービスを日本国(MadeinJapan)から世界に 発信するための情報を、消費者に伝達する機能を備えてきているのです。視 覚で捉えるだけではなく、五感で識別できればそれは標章であるという観点か ら、匂い、動きなどもブランドの要素として大事です。」と、同社法務部長の堤信 夫さんはいう。 同社は、サロンパスを発売した1934(昭和9)年当初から、宣伝カーなどを利 用して、商品の優れた点を消費者に直接伝える宣伝広告に力を入れ、これを 「実宣活動」と呼んできた。1953(昭和28)年、民放のテレビ放送開始に際し ては、いちはやくTVCMを流した。こうした、消費者の五感に訴える「実宣活 動」の精神が、商標を重視する現在の姿勢につながっている。サロンパスが発 売から75年を経てなおロングセラーであり続けるのも、ブランドの意義と在り方を 大事にしてきたからにほかならない。 「技術はもちろん重要ですが、技術や商品、サービスの信用を含むすべての 知的財産の集大成が商標(ブランド)だと捉えています。半永久的に続く商標 で企業の信用を維持する、これこそまさに企業の財産です。」という堤さんは、 商品やその情報を世界規模で同時に提供・発信する時代にあって、ブランドの 保護は企業にとってますます大切になるだろうとみている。 106 取材協力/久光製薬株式会社 歯周病予防のトータルブランド デンターシステマ 特許第3145213号 同第3943780号ほか 商標登録第3032623号ほか ライオン株式会社のデンターシステマシリーズは、歯周病 予防をコンセプトとしたトータルブランドとして企画・開発され た。それまでのオーラルケア製品が、ムシ歯予防の機能を追 及してきた中で、同社はいちはやく歯周病予防に取り組んだ のである。 107 デンターシステマ 歯周病は歯と歯グキの間や、歯周ポケットにたまった汚れ(歯垢)が原因に なる。一般に歯ブラシの毛は、ナイロンが用いられ、根元から毛先まで均一の太 さであるため、スキ間の歯垢をしっかりかき出すことが困難であった。そこで同社 は、先端に向かって細くなるテーパー状で、毛先が0.02mmの超極細毛を用い た『デンターシステマライオンハブラシ』を開発した。適度なコシがあってしなり、 テーパー状に加工できる素材として、ポリブチレンテレフタレートが採用された。 テーパー状に加工する技術の確立も容易ではなかったが、量産に向けた最 後のハードルとなったのが、植毛技術だった。歯ブラシの毛は、真ん中で二つ折 りにしてヘッド部に設けた穴に植え込む。従来の歯ブラシの場合は、植毛後に 先端をカットして揃えるが、両側をテーパー状に加工した毛は、カットしたら先端 が極細ではなくなってしまう。そのため、植毛した時点で先端が揃うよう、確実に 毛の真ん中をつかむ等、さまざまな技術の検討が重ねられたという。 デンターシステマシリーズを発売した1993年、歯周病という言葉は一般的で はなく、『デンターシステマライオンハブラシ』が認知されるまでにはさまざまな苦 労があった。「国内外の学会などで、『デンターシステマライオンハブラシ』の歯 垢除去機能に関する研究論文を発表するなど、歯科関係者への周知にも力 を入れました」と同社オーラルケア研究所副主席研究員の小林利彰さんは振 り返る。 歯科の治療法は2000年前後から、できる限り自分の歯を残す保存の方向 に重点化され、政府も口腔ケアに注目して80歳で20本の歯を保持する目標を 出した。更に、歯周病と全身疾患の関係が研究され、メディアでも取りあげられ るようになったことが、デンターシステマシリーズの追い風となり、大きなシェアを 獲得するに至る。 歯周病予防をコンセプトにした先見性と技術力とともに、『デンターシステマ ライオンハブラシ』の市場での優位性を支えているのが、特許だ。柄の先端に 毛がついているという、歯ブラシの基本的な構造が大きく変わっていない中、新 しい技術を生み出し、それを特許にするのは容易ではない。デンターシステマラ イオンハブラシ』は、歯周ポケットの歯垢をかき出すのに最適なテーパー状の毛 を数値で特定して、特許を取得した。「特許と製品が結びついてベストセラーに なっている成功例です。より長く、広く発明を守る努力をしています」と同社知 的財産部主任部員の戸辺秀岳さんはいう。 同社は、本年この技術を更に進化させたデンターシステマ音波 アシストブラシを市場導入し、デンターシステマブランドの充実を 図っている。 取材協力/ライオン株式会社 108 デ ン タ ー シ ス テ マ 天然成分の快眠サプリメント グッスリン2-V 特許第4295756号 商標登録第5176687号 沖縄、特に本島では、古くから睡眠改善効果のあるハーブ としてクヮンソウ(和名・アキノワスレグサ)が、各家庭の庭に 植えられていた。クヮンソウはニッコウキスゲなどと近縁のユリ 科ヘメロカリス属の植物である。しかし、太平洋戦争末期の 沖縄戦で市街地が壊滅的な被害を受け、クヮンソウもほとん ど姿を消してしまった。 沖縄野菜の 「クヮンソウ」から できました! 109 グッスリン2-V 数年前、クヮンソウの睡眠改善効果を琉球大学教育学部の上江洲栄子 教授が研究、その成果が新聞紙上に発表された。これが、グッスリン2-V開 発のきっかけだったと、(株)クレイ沖縄専務・渡嘉敷哲さんは振り返る。だ が、この時点では睡眠改善効果をもたらす物質は、まだ解明されていな かった。 クレイ沖縄は、泡盛の製造過程で生じる黒麹もろみ酢の原液から、18種 類のアミノ酸、クエン酸などの栄養成分を完全に残して濃縮粉末化する独 自の製法を確立し、特許を取得している。この濃縮もろみ粉末はパン、麺 類、菓子類など多様な加工食品での利用が容易だ。多くが産業廃棄物に なっていた黒麹もろみ酢に有効活用の道を拓いた点で、環境配慮を重視 する企業にも注目されている。 渡嘉敷さんは「眠れない時に、クヮンソウの茎を豚肉と煮込んで食べると よいと言われていたことがヒントでした」という。豚肉の代わりに、多様なアミ ノ酸を含むもろみ酢粉末と組み合わせた、快眠サプリメントのアイディアが生 まれた。製品の信頼性を高めるためには、クヮンソウの睡眠改善効果を実 証しなければならない。世界的に睡眠研究で知られる大阪バイオサイエン ス研究所に、飛び込みで共同研究を持ちかけたことから、同志社女子大学 薬学部も加えた共同研究が始まった。三者の研究により、睡眠調節物質 「オキシピナタニン」が見いだされ、その誘導体とともに「睡眠改善剤」「鎮 静剤」として特許をPCT出願した。さらに栽培・育種で琉球大学と連携、経 済産業省の地域イノベーション創出研究開発事業にも選定されている。 グッスリン2-Vは、沖縄県などの出資によって設立された沖縄県物産公 社と連携、販売している。同公社によるモニターアンケート調査では、20代か ら80代のモニター385人のうち約6割から、睡眠改善効果があったとの回答 を得ている。2008年夏の発売以来、同公社の広報や口コミで、グッスリン 2-Vの反響は広がりつつある。 渡嘉敷さんは、クヮンソウをウコンと同様に、健康増進に役立つ沖縄の特 産品として広めたいという。特許に守られたクヮンソウの 有効性分をいかし、新たな製品を世に出していく構えだ。 グ ッ ス リ ン 2 ー V 取材協力/株式会社クレイ沖縄 110 21世紀のお守り特許第4302474号 ココセコム 同第3886455号ほか 意匠登録第1212442号 商標登録第4634492号ほか セコム株式会社の「ココセコム」は、対象者が所持したり、 車などに搭載した専用端末の位置情報を提供し、さらに必要 に応じて同社の対処員が現場急行して対象を救援あるいは 捜索するサービスである。 111 ココセコム 自動車などの盗難、子どもの誘拐、高齢者の徘徊などが社会問題となって いた1990年代後半、屋外でのセキュリティサービス開発のため、同社は世界 中の測位技術をリサーチしていた。従来のオンラインセキュリティサービスでは、 警備対象は固定的な場所であるのに対し、屋外の警備対象となる車や人は 動く。その位置を正確にキャッチする、新たな技術が必要だった。「21世紀の お守り」をテーマにしたシステムの実現には、小型・低消費電力・高感度な専 用端末と、高精度かつ日本全国で使用できるサービスの仕組みを準備しなけ ればならなかった。 2000年5月、米・クアルコム社がGPSと携帯電話の電波を使った測位精度 の高い技術を開発すると、同社はすぐさま技術協力をとりつけ、わずか10ヵ月 先のサービス提供開始を目指した。携帯電話とは異なり、位置情報提供に必 要な機能に絞り込んだ専用端末を設計する必要がある。位置情報受信の仕 組みから、発見後の人的対応まで含めた、技術と人が関わる複雑なプロセス の構築も並行して進めなければならない。当初3人で始まった開発は、あっと いう間に社内のさまざまな部署を巻き込んだ大プロジェクトになった。「GPSを 使った世界初の商用サービスを始める意義、その熱意を協力企業を含めた開 発スタッフに伝えました」と技術開発本部開発センター通信Gのチーフエンジニ ア・寺本浩之さんは振り返る。 しかし、同年11月にできた最初の端末試作器は、まともに測位する事もおぼ つかなかった。ようやく測位システムが動くようになったのは年末で、年明け 早々から開発メンバーによる全国規模の測位実験に入ったものの、今度は満 足な精度を得られない問題にぶつかる。狭い地域に携帯電話設備が密集すコ る日本では、アメリカで開発したシステムをそのまま適用できなかった事が原因コ セ で、ここからさらに日本の環境へ最適化するシステムの開発を進める事になるコ ム が、この間4月のサービス開始延期の声はどこからも出なかったという。そして、 ついに当初の目標どおり、2001年4月にサービス提供がスタートした。 開発と同じスピードが知的財産の確保にも求められる。技術開発本部技術 管理室知的財産G・中村俊則さんは「各知財部員が自分の問題として捉え、 開発と一緒に走りながら」対応しているという。「走っている開発に、知財がブ レーキをかけるわけにはいかない」という強い思いによる。「サービス業にとっ て、第一に守るべきはブランド。似て非なるものが出たときにブランドを守るのが 知財」だと中村さんはいう。端末の使いやすさ、低料金に加え、同社のブランド 力によって、「ココセコム」は屋外セキュリティの分野で高い支持を得ている。 112 取材協力/セコム株式会社 幼児が安全に使える ベネッセコーポレーションの子ども通販 「すっく」の傘 特許第3713505号 意匠登録第1206926号 同第1205315号 ベネッセコーポレーションの通販ブランド「すっく」が開発し た傘は、幼児が安全かつ楽しく持てる工夫が凝らされ、2003 年9月の発売と同時に、大ヒット商品となった。 113 「すっく」の傘 「すっく」(03年6月「こどもちゃれんじevery」としてスタート、05年9月に名 称変更)は、0~6歳児を対象とする教材「こどもちゃれんじ」の公式ショップ である。毎日使いながら成長をサポートする商品は、素材や安全性にこだわ り、メーカーと共同開発している。ブランド立ち上げの中心となった同社の通 販商品部商品開発課の糸藤友子さんは「子どもにとって使うのが難しいも のから作りたいと考え、間違った使い方をすると危険な傘とハサミは、当初か ら開発商品の候補でした」という。お母さんたちへのアンケートでも、子どもが 使いたい、子どもにとって使いやすいものが欲しい商品として、傘は上位に 入っていたそうだ。 02年5月にお母さんたちを集めた「子どもの傘を考える会」を設け、既存の 製品の問題点、幼児の傘の扱い方などを検討した。糸藤さんも、雨が降れ ば、自身の子どもに傘をさして歩かせて、改良点を研究したという。こうした取 り組みや「こどもちゃれんじ」で蓄積したデータなどから、幼児の傘に求められ るポイントは安全性と適正なサイズであることが明らかになった。 また、子どもが安心して開閉できるように手開きとし、ネームプレートをつけた 紐を引っぱって閉じる仕組みが生まれた。そして、さした時に前が見やすいよ うに、全体の4分の1を透明にした。これは当時、画期的なアイデアだった。 さらに、持ち手に指形のくぼみを入れて、左右どちらの手で持っても透明 部分が正面にきて、真っすぐさせるようになっている。このほか石突きの先端 を丸くし、摩耗しにくいセラミックを埋め込む、長めの閉じひもをつけるなど、さ まざまな配慮がされている。そして、「こどもちゃれんじ」の人気キャラクターが プリントされた傘は、幼児向けの傘の定番となった。自分で容易に開閉できる ことに、子どもたちはとても喜ぶという。身長に応じて選べる3サイズを揃えた ことも、使いやすさにつながっている。 サービス業である同社では、特許・意匠・商標等の知的財産権を駆使して 新商品の保護を行っているが、法務部の荒牧康浩さんは「この傘は、当社 の発想と共同開発先の技術がうまく合って権利化できたケース。 当社にとって、この特許は重要です」という。生産国や商品展 開の可能性があるアジア諸国を中心に国際出願し、中国、 台湾、マカオで登録済みとのことだ。 「 す っ く 」 の 傘 取材協力/株式会社ベネッセコーポレーション 114 保温性を格段に高めた吸湿発熱素材 ブレスサーモ 特許第2028467号ほか ミズノ株式会社のブレスサーモは、人の皮膚から蒸散する 水分(不感蒸泄)を吸着熱に換え、従来品より保温性を格段 に高めた画期的な素材である。商品化から10年余りを経た 現在、同社の冬の戦略素材となっている。 115 ブレスサーモ 開発の出発点は、スキーウェアの高機能化だった。開発者である同社研 究開発部主任研究員の荻野毅さんは、学生時代の登山やスキーの経験 から、ウールや羽毛素材の保温性の高さを知っていた。当時、保温性を獲 得する3要素とされていた熱伝導、対流、輻射では、その温かさは論じられ ない。「吸湿発熱」という仮説をたて、吸湿性の高い新素材を探していた 荻野さんが1992年に出会ったのが、医療用乾燥剤のポリアクリレート系繊 維だ。試料に、手元にあったお茶をかけたら、ぐっと熱くなった。「これだ!」と 思ったと荻野さんは振り返る。 この繊維は高い吸湿・放湿性に加えて防菌防臭、消臭、pHコントロール 機能などを併せ持つ。しかし、原綿自体がわりと濃いピンク色で、染着座席 がなく染まらない、繊維強度も弱いなどの欠点があった。荻野さんは吸湿発 熱素材としてのテキスタイル化に挑んで、さまざまな素材と混紡、交編の試 行錯誤を重ねた。最大の問題は、衣類としての品位だった。当初の試作品 は毛玉ができやすい、すぐによれよれになる、発色が悪いなど、とても商品 化できないものだったという。 ブレスサーモ最初の商品は、94年リレハンメル冬季五輪の日本チーム公 式スキーウェアだが、この時は中綿としての利用だった。紡績、編み、染色 技術が確立した96年には、バブル崩壊でスキー市場は縮小していた。アウ トドア向けアンダーウエアで黒やネイビーなど、ブレスサーモを染めやすい色 が主流だったこともあり、97年12月に登山用のアンダーウエアを市場に投 入した。利用者から「こういう商品を待っていた」「びっくりするほど温かい」 などの声が寄せられ、追加投入分も含めて、年内に完売した。99年からは 同社の製品分野すべての冬物衣料にブレスサーモをラインナップするとと もに、一般向けのアンダーウエアも商品化して新規市場を開拓した。また、 コートや布団の中綿などにも採用されている。 テキスタイル化には3年余りを要したが、吸湿発熱の概念特許は、93年 春に出願している。ポリアクリレート系繊維と出会って約半年後のことだ。そ こには、吸湿発熱素材のパイオニアとして、この発明を守りたいという強い 思いがあった。「パテントを活かし、専門性のあるとこ ろでブレスサーモの機能性をアピールして、もっと用 途を広げていたきたい」と語る荻野さんには、未知 なるさまざまな可能性が見えているに違いない。 ブ レ ス サ ー モ 取材協力/ミズノ株式会社 116 100年を超す世界的ロングセラー うま味調味料味の素® 商標登録第39051号 日本のみならず、世界中でロングセラーとなっている「味の 素®」は、1908年に遡る。昆布のうま味成分がグルタミン酸 ソーダであることを、東京帝国大学(現・東京大学)の池田菊 苗教授が突き止め、グルタミン酸を主成分とした調味料(グ ルタミン酸ナトリウム)の製法特許を取得した。その工業化に 応じたのが味の素株式会社の創始者、二代鈴木三郎助氏で あり、08年に池田教授の特許権を共有し、09年に商標「味の 素」を登録した。 117 うま味調味料味の素® 当時の登録証を見ると、指定商品が“味の素”となっている。調味料といえ ば伝統的な味噌、醤油などだった当時、うま味を加える調味料がいかに画期 的なものだったかがわかる。 売上が伸びた20年頃から、次々に類似品が現れた。関東大震災によっ て生産が一時的に困難になった23年には、京阪神地方で多くの類似品が 出たという。また味の素キャラメル、煙草味の素等、ブランドイメージに便乗し た商品も現われ、同社は訴訟などで排除を行った。製品が広く普及するに 従い、登録商標が誤って普通名称のように扱われる問題も生じた。33年に は、新たに出願した図形商標が「味の素」は普通名称であるとの理由で一 旦拒絶され、抗告審判で争ってあらためて識別力を認める審決を得ている。 戦後、売上が飛躍的に伸びたことから、商標権侵害事例が多発した。こ れらに法的に対処するとともに、商標の保全と管理、普通名称化防止のた め、同社は55年に商標使用に関する最初の原則を設け、更に商標表記に 関する社規を整備した。これにより商標の適正な使用や商号と商標の明確 な区別も社内で徹底されてきた。 「味の素」は戦前から海外でも販売、35カ国で商標登録していたが、大戦 中に商標権を一旦は失った。戦争により更新手続不能で失効したものが多 かったが、米国などの戦勝国では敵国財産として商標は政府管理下に置 かれた。戦後、50年代に入ると漢字および英字表記で各国に商標を再出 願し、現在は約170カ国で登録しているほか、販売国の言語で表記した商 標も登録している。東南アジア、南米では偽物の問題はあとを絶たないが、 それもヒット商品であることの証左と言えよう。需要の大きい国には偽物対策 チームを置いて行政当局の協力を得ながら偽物排除活動を行っているとい う。知的財産権を重視する一環した取り組みによって、基本調味料の1つ、 うま味調味料として世界各国に浸透した「味の素」ブランドは、発売から100 年以上に渡って守られてきた。グルタミン酸ソーダに端 を発してアミノ酸の可能性を切り拓いてきた同社は、 そのブランド力を基盤として世界企業への成長を図り、 その地位を獲得したのである。 う ま 味 調 味 料 味 の 素 ® 取材協力/味の素株式会社 118 お洒落でヘルシーなスナック菓子 フランスパン工房 商標登録第5126190号 特許第4148320号 同第4195068号 同第4195069号 同第4219971号 (株)おやつカンパニーの「フランスパン工房」は、パンを加 工した新感覚のスナック菓子として2007年に発売された。1 月に東海地区で先行販売するや、1カ月の販売目標を4日で 超過する売れ行きをみせた。さらに関東から順次、販売エリア を広げ、メディアでも話題のヒット商品として紹介された。 119 フランスパン工房 「ベビースターラーメン」を主力商品とする同社では、90年代半ばから、 ラーメンと同様にスナック菓子に展開できる食品の模索が始まっていた。パン も有力候補だったが、スティック状あるいはクルトンにして、ベビースターラーメ ンのノウハウを応用した加工法では、油と調味液を吸収しすぎるのが難点 だった。 一方で、愛知県三河地方の伝統的なえびせんべいの製造用プレス機を 入手し、独自の「えびチップス」を2001年に発売した。このプレス技術を用い た新商品開発において、あらゆる食材がプレスされ、パンも押しつぶされた。 「食パン、バターロールなどさまざまなパンだけでなく、パン生地も試しまし た」と、開発に携わった同社開発部主任研究員の河村朗子さんは振り返 る。試行錯誤を重ねる中で、フランスパンの食感にピンとくるものがあった。最 初はパンをプレスすることは考えていなかったという河村さん、加工法の緒を 見いだすまでの3年ほどが、一番大変だったという。 02年にフランスパンからつくる商品の原型ができ、翌年に製法特許を出 願。ここから具体的な商品化が始まった。スナック菓子の王者であるポテト チップスの食感に近づけるために、プレス前後のパンの厚みなど、細部の調 整が続いた。プレスした平らな形状がスナック菓子らしくないと、反りもつけ た。こうした点は「得意な領域ですから、すぐに加工法の見当がつきました。 袋を開けて、わっ、薄いと驚いて、さくさくと気持ちよく食べられるものをつくり たかった」と河村さんはいう。この商品に最適なフランスパンを安定的に確保 するために、社内に製パン工場も設けられた。 ノンフライ加工のフランスパン工房は、スーパーの主な顧客である30代、40 代の女性を主要ターゲットに、お洒落でヘルシーなスナック菓子をコンセプト にしていた。テスト販売などによるマーケティングにも力を入れ、最終段階で追 加された、原色を使わないパッケージ、中身がストレートに伝わり高級感もある 商品名が決まったという。これが、既存のスナック菓子には手を出さなかった 年配の女性たちも含め、幅広いファンを獲得する結果をもたらした。商品の 魅力とネーミング、パッケージが相まってヒット商品を 生んだ好例である。 フ ラ ン ス パ ン 工 房 取材協力/株式会社おやつカンパニー 120 野菜を手軽に補えるジュース 野菜生活100 商標登録第3315891号ほか 1995年にカゴメ株式会社が発売した「野菜生活100」は、 それまでの野菜ジュースのイメージを一変させ、おいしい野菜 飲料として幅広い消費者に愛飲されている。 121 野菜生活100 健康への関心の高まりを背景に、同社は92年に砂糖・食塩無添加の 「キャロット100」を発売した。βカロテンが注目されながら敬遠されがちだった にんじんを、100%ジュースにして女性や子どもに好評を得た成功から、にん じんをベースとした、飲みやすい野菜ジュースの開発に着手。コンビニエンス ストア向けの商品として、20代~30代の男女をメインターゲットにした。 従来の野菜ジュースの主要な素材トマト、セロリ、ニンニクの代わりに、に んじん、ピーマン、カボチャなど8種の野菜とオレンジなど3種の果物のブレンド が完成した。野菜の味や香りを活かし、食感にも工夫が凝らされている。競 争の激しいコンビニで「生き残る」目標をクリアし、PETボトルや紙容器を追 加してスーパーなどにも販路を拡大した。 「街で紙容器の“野菜生活100”を手にしたお客様をよく見かけたのは、 新鮮な経験でした」と同社経営企画本部法務部課長・西平幹夫さんは、 当時の手応えを振り返る。 「カゴメのプロダクトブランドのトップになった」(西平さん)商標が決まるま では、紆余曲折があったという。同社の商品名はずっと「カゴメ+一般名 称」が採用されていた。新たな野菜ジュースも当初は「野菜ミックス100」「野 菜果実100」が候補だったが、ヒアリングをしてみたところ、ネーミングを再考 したほうがいいことが分ってきた。担当者は苦悩の日々を過ごし、野菜のある 暮らしを応援したいという思いを込めて「野菜生活100」としたそうだ。 「野菜生活という名称には、さまざまな可能性、広がりがあります。ネーミン グによって開発が変わった面もあり、相乗効果でブランドとしても、商品とし ても成長してきたと思います」と西平さんは語る。現在「野菜生活100」シ リーズは、21種類の野菜と3種の果実を用いた“オリジナル”、食物繊維に注 目した“30品目の野菜と果実”、ビタミンCたっぷりの“フルーティサラダ”など特 徴あるラインナップが揃っており、中でもポリフェノールを含む“紫の野菜”は 爆発的ヒットとなった。 天候の影響を受ける農産物は、年、季節ごとに 出来具合や味が異なる。常に原材料をチェック、 調整してブランドを守っているという。 野 菜 生 活 1 0 0 取材協力/カゴメ株式会社 122 NOx(窒素酸化物)除去能力の高い外装用光触媒塗料 ハイドロテクトカラーコート ECO-EX 特許第4092714号ほか TOTO株式会社の「ハイドロテクトカラーコートECO-EX」 は、同社が開発した光触媒技術から生まれた、高いNOx分解 能力を特徴とする外装用塗料である。 ▲アクリルシリコン系塗料使用 ▲ECO-EX使用 実際の現場における 曝露比較 試験条件 期間:塗装2年5ヶ月後 場所:TOTO 123 ハイドロテクトカラーコート ECO-EX 光触媒は光化学反応によって活性酸素を表面に発生し、有機物を分 解することが知られていた。同社は1991年から酸化チタンによる光触媒の 研究開発に着手。光触媒の先駆者である東大・藤嶋研究室と共同研究を 開始した。防汚防臭機能を持つ新製品の開発を模索する中で、光触媒を 施した表面で水が濡れ広がることを95年に発見した。酸化チタンに紫外線 が当たると大気中の水分と反応、親水性の高い層が形成されるというもの である。この現象が光触媒(酸化チタン)の「超親水現象」である。表面で 分解された有機物を超親水性によって洗い流す、光触媒のセルフクリーニ ング機能に関する学術的かつ基礎的な発見だった。これによって同社は 大きな基本特許を得ることができた。 光触媒技術ブランド「ハイドロテクト」を98年に立ち上げ、自社製品として 塗料・コート剤、タイル建材を製品化してきた。ECO-EXは他社製品と差別 化された塗料である。「セルフクリーニング機能は他の親水性材料、防汚技 術でもある程度は実現可能ですが、大気汚染物質のNOx除去は他技術 で実現するのは難しい」と同社環境建材事業部BtoB事業推進部管理グ ループリーダーの早川信さんは言う。その機能を追及して得た技術を2006 年に特許出願(翌年優先権出願)、ほぼ1年後に製品化した。開発当初か ら製品イメージができていたからこそのスピードである。 ECO-EXは3層から成る。一番上が光触媒の層だ。光触媒の効果を最 大限に発揮させるバインダーを求めて試行錯誤の末に行き着いたのは、本 来バインダー用途ではない材料であった。有機物を分解する光触媒は表 面だけでなく、下にある塗料も分解してしまう。このバインダーを用いた ECO-EXは酸化チタンの含有率が高くなくても大きな効果を発揮し、塗料 層などの劣化を防ぎ、かつ紫外線の吸収率も高い特性を有し、約20年と 従来品より格段に長い耐久性を実現した。 同社の光触媒関連特許出願件数は、これまでに国内外で約1200件に のぼり、欧米、アジア諸国等でも権利化している。光触媒の機能はさまざま な製品に活用できるが、同社ですべてを製品化できるわけではない。光触 媒普及のために、現在までに国内外で約100社とライセンス契約を結んで いる。また「信頼性を高めるための標準化活動(JIS化など)にも積極的に 参画し力を入れてきた」と同社環境建材事業部マーケティンググループ技 術主査・岩田広長さんは語る。 先見性のある研究開発が特許とブランドに結 びつき、光触媒は同社の事業における新たな柱 となっている。取材協力/TOTO株式会社 124 ハ イ ド ロ テ ク ト カ ラ ー コ ー ト E C O E X 歯の健康を保つ機能性ガム XYLITOL 特許第3689803号ほか 商標登録第1692144の2号ほか 1997年、株式会社ロッテは日本で初めて、キシリトールを 配合したガムを発売した。キシリトールは白樺や樫などの樹木 や植物からつくられる甘味料だ。 「ガムはキャラメルやチョコレートと同様に、歯によくないと いうイメージがあったので、砂糖に代わる甘味料の研究はずっ と続けていました」というのは、同社ブランド研究部部長の 佐藤誠さんだ。 125 XYLITOL キシリトールが歯によいとの研究論文が1975年にフィンランドで発表され て以来、この成分に注目してきたという。キシリトールは従来使われていた砂 糖や水飴と物性が異なるために、ガムに使用する上での難しさもあった。日 本でキシリトールが食品添加物として認可された97年にいちはやく商品化 できたのは、その長い研究開発があったからこそだった。 歯の健康のためにキシリトールの研究開発を行ってきたが、一方で、ガム の開発には、味、噛み心地の研究も重要だ。最初に発売したキシリトールガ ムはライムミント、クールハーブの2つ。どちらもロングセラー商品となっている が、特にライムミントが発売時にヒットし、現在に至るキシリトールガムの成功に つながっているという。 「キシリトールは独特の冷涼感が特徴の物質です。これに合うフレーバー は何かを考えました」と佐藤さんは振り返る。当時、ガムでは清涼感を求め るミント系と、味を楽しむフルーツ系は別個の製品として開発されていた。こ れを合体するアイディアが生まれ、キシリトールの冷涼感と相性がいいフレー バーとしてライムミントが開発されたという。 さらにキシリトールガムに歯のエナメル質の再石灰化の機能を高める第2 リン酸カルシウムなどを加える技術を開発し、特許権を得ている。新しい機 能性物質が製品開発現場に上がってから数年かけて、味と食感を試して 新製品に結びつける。開発スタッフは日々、試作品を噛み続けるそうだ。キ シリトールガムの機能アップは続いており、また同社の知的財産権の出願も 増えているという。 「時間をかけて開発した技術が知的財産として守られることは、開発者 としてもやりがいがありますし、類似品の抑制になります」という佐藤さん、ア イディアの段階から法務担当部署と連携しているそうだ。 同社はキシリトールガムを発売にあたり「キシリトール」を商標登録してい る。現在では「キシリトール」の認知度は極めて高い。しかし、当時キシリトー ルは日本ではまったく認知されておらず、商標登録後の権利行使をどのよ うにするかで判断が分かれていた。「この判断は難しかった」というのは、同 社総務部法務担当部長の秋本晴一郎さんだ。例えば、他社が『「キシリトー ル」配合』をうたった場合にどうするのか。開発現場とも協議した上で「キシ リトール」の認知度を高めるために、商品名等以外では争わ ない方針を決めたという。「XYLITOL」が歯の健康に貢献 する機能性ガムのシリーズとして、同社のガム事業で1つの 柱となっていることから、その判断は正しかったといえよう。 取材協力/株式会社ロッテ 126 X Y L I T O L 激しく動く犬が特徴の貯金箱 貯犬箱 意匠登録第1383939号 商標登録第5295891号 商標登録第5343065号 お腹をすかせた犬が、わき目もふらずにエサを平らげる。そ んなイメージでつくられたのが、株式会社ウィズと株式会社ハ ピネットが共同開発した「貯犬箱」だ。2009年11月の発売か らわずか3ヵ月で4万8000個を出荷。11年末までの累計販売 数はおおよそ国内10万個、海外20万個にのぼる。また、独創 的かつヒットの可能性が高いギフト商品に贈られる英国「ギフ ト・オブ・ザ・イヤー2010」ホットノベルティ部門大賞を受賞し ている。 127 貯犬箱 製造元のウィズの企画開発部・清水浩平さんは「犬がご飯を食べるしぐ さを玩具にしたかった」という。かわいらしさを強調した犬の玩具が多い中 で、激しい動作でエサにがっつく姿はユニークだ。 エサ皿に入れたコインが、食べる動作の振動で下の箱に滑り落ちていく が、複数枚を投入すると動作が継続するよう、コインが一度に落ちない工 夫がされている。また、犬の表情をより多くの人に好まれるものに調整する のも、難しかったところだという。「のら犬という設定で、特定の犬種をキャラ クター化したわけではありません。いろいろな部分が動くようにするために、 耳を長くしました」(清水さん) さらに、貯犬箱の特徴でもある激しい動きによって、関節部分のロックが 起きるのを回避するための試行錯誤があった。5時間以上連続で動かして も不具合が出ないように、コンマ数ミリ単位で金型の微調整をするなど、通 常の商品より開発に時間をかけたそうだ。 貯犬箱は2010年1月に香港トイフェアに出品され国際進出を果たすが、 早くも3月に中国製の模造品が発見された。「玩具は正規品から型をとっ て、まったく同じものを出されるケースが多い」という同社法務知財担当者 が見せてくれた模造品は、素人目には判別のつかないものだった。国内で もネットで販売されていることが発覚、流入阻止に力を入れているそうだ。ま た、「貯犬箱」のほか、ヒットを受けて「笑撃アクション」の商標登録を行い、 シリーズ化した商品を次々に展開している。 玩具はサイクルが短いため、知財戦略は意匠、商標が中心になる。「意 匠は公表前に出願しますが、最終的なデザインの決定が玩具ショーなどに 試作品を出す直前の場合もあり、出願のタイミングが難しいところです。幅 広く活用できそうな機械的な開発は特許を出願しています。開発した製品 を守る知財は重要です」 貯 犬 箱 (同社法務知財担当者) 取材協力/株式会社ウイズ/株式会社ハピネット 128 ユニークな形状の視線誘導標 ポストフレックス 意匠登録第1201417号 商標登録第4701524号 交通安全施設の一つに、ドライバーの注意を喚起する視線 誘導標がある。道路の中央線などに並ぶポールも、その一種 だ。保安道路企画株式会社が2003年3月に発売開始したポ ストフレックスは、従来品より価格を43%低減、強度を49% アップすることに成功。これによって、大手4社が押さえていた 市場への新規参入からわずか3年で、全国シェア25%を獲得 した。 129 ポストフレックス 同社はもともと工事現場などで利用される製品の販売・レンタル会社だっ た。現社長の森健太郎さんが、後継者がいないと苦悩していた先代から同 社を引き継いだ00年、社員は10人弱だった。公共事業が縮減される中で 会社を存続させるためには、オリジナル商品の開発が必要と判断。その第 一弾がポストフレックスだ。当時この市場における国内メーカーの製品は価 格も性能もほとんど同じだった。そこで、この商品で差別化できればチャンス があると森さんは考えた。 はみ出し・巻き込み防止などの役割もある視線誘導標は、自動車に踏み 倒された場合の復元力が求められる。それまでのポールは全て円柱で、復 元力が弱いために、内部にもう1本円柱を入れた二重構造になっていた。 製造コストを下げる単一構造にするため、復元力と強度の両面をクリアす る形状としてたどり着いたのが、アールを3つ持つ角のない凸型の断面の ポールだ。この形状を採用したことで、施工の容易性、ポール部分のみの交 換によるメンテナンス費用の軽減を実現した。 発売直後の営業は苦戦した。道路の安全管理に関わる製品であり、顧 客の多くが自治体であることから、革新的な形状がなかなか受け入れられ なかったが、それまでの実績で信用のあった地元・横浜市に採用されたの を皮切りに、東京・六本木の交差点に採用されるなどの事例が波及効果を よび、全国で採用が進んだ。「販売網もなかった」から全国展開は考えてい なかったという森さんが手応えを感じたのは、発売から半年ほど経った頃だ という。自社の営業マンが顧客からの要望をキャッチ、これを反映した改良 をし続けて、ずっと出荷数を伸ばしてきた。 ヒット商品を生み出したメーカーになったことで一番変わったのは、採用 だという。意欲的な新卒志望者が増えたのだ。社員30人になった現在、平 均年齢が約29歳だという社内は、活気にあふれていた。 今や同社の事業を支える柱の一つになっているポストフレックスの優位 性を守っているのが、意匠権である。登録した形状は、他社製品にない性 能と価格を実現した開発の要である。 意匠権が最も有効に機能した一例だろう。 ポ ス ト フ レ ッ ク ス 取材協力/保安道路企画株式会社 130 即席麺のトップブランドを冠した米飯商品 日清カップヌードルごはん 特許第2703144号 商標登録第1183902号 商標登録第1251256号 日清食品株式会社の「カップヌードルごはん」は、同社を代 表するブランドである「カップヌードル」の味を「ごはん」で忠 実に再現したことによって、大ヒット商品となった。 世界で初めてインスタントラーメンを発明・商品化した同社 は、時代を画する新たな即席麺を次々に市場に投入し、業界 をリードしてきた。 131 日清カップヌードルごはん 即席カップライスの開発にも30数年来取り組んできたが、当初はうまくい かなかったという。長年の研究成果をもとに2009年3月に「日清GoFan (ゴーハン)」を発売した。電子レンジの世帯普及率が100%近くなり、市場に はセット米飯といわれる米飯と具材を組み合わせた商品が多数登場した が、その主流はピラフやリゾットなどであった。「日清GoFan」は電子レンジで 炊くという新しいコンセプトで勝負したが、セット米飯市場では上位に位置し たものの、同社のさまざまな看板ブランドが市場拡大に貢献したようなヒットに はならなかった。このジャンルで、よりインパクトのある商品を出す打開策が 「カップヌードル」ブランドを冠することだった。「日清GoFan」の技術を踏まえ、 味も具材も「カップヌードル」と同じ即席カップライスをつくるという発想は、一 種の冒険だっただろう。 「『日清GoFan』の売れ行きが思うように伸びず、背水の陣という感じでし た」と開発を担当したブランドマネージャーの上原秀介さんは振り返る。「カッ プヌードル」ブランドのマーケティングチームが別にあり、会社幹部による「新 製品委員会」で承認されなければ、ブランドの使用権は得られない。商品開 発の現場担当者も、このアイディアを初めて聞いた時には「本気か?」と思わ ず口にしたそうだ。 「カップヌードル」の味の再現が始まったが、思いのほかに難しかったの は、フライ麺が生むロースト風味や香ばしさ、スープのスパイス感をごはんで出 すことだった。約2ヵ月にわたる100種類近くの試作を経て、いよいよ「新製 品委員会」に試作品を提出した。社内にはラーメンのブランドをごはんに使う ことに批判的な意見が大勢であったが、粘り強い説得で承認が得られただ けでなく、ネーミングやデザインも積極的に「カップヌードル」を打ち出したもの にするほうがいいと、経営陣から後押しされたという。 10年8月に近畿地区で先行発売したところ、予想を大幅に上回る売れ行 きで生産が追いつかず、5日目に販売を一時休止せざるを得なかった。約 1ヵ月後に近畿地区での販売を再開、さらに生産体制を拡充して11年7月 に全国販売して、順調に市場を広げている。 「カップヌードル」ブランドでの成功により、「日清焼そばU.F.O.そばめし」 「日清のどん兵衛釜めし」と同社の主要ブランドを冠とした商品も発売した。 さらに「日清GoFan」の売り上げも伸びるという、相乗効果をもたらしている。 消費者に支持されてきたブランドは浸透力、信頼感、安心感があるだけに、 これを損なうことは許されない。そのプレッシャーに敢えて挑戦 したことが「カップヌードルごはん」ヒットの最大の要因だった。 力のあるブランドの活用は、他社が真似できない新商品を 生むと同時に、質の高い商品によって歴史あるブランドを 多面的に進化させる、ブランド戦略となった。 取材協力/日清食品株式会社 132 日 清 カ ッ プ ヌ ー ド ル ご は ん 10年間トップシェアを誇る美容食品 アミノコラーゲン 特許第4814646号 商標登録第5167280号 実用新案登録第3136642号ほか 株式会社明治の「アミノコラーゲン」は、化粧品で注目され たコラーゲンを配合した先駆的な美容食品として、2002年に 発売された。コラーゲンは皮膚や軟骨などを構成するタンパ ク質の一種で、体内のタンパク質の約30%を占める。「しっか りコラーゲンを入れた食品」を目指して開発が始まったと、同 社健康事業商品開発部の伊藤愛さんは振り返る。 133 アミノコラーゲン 「アミノコラーゲン」は魚由来のコラーゲンを、吸収しやすいように低分子 化しているが、単に分子数が小さければよいのではなく、適切な分子数や 配列があるという。このコラーゲンにアミノ酸(アルギニン)、グルコサミン、ビタミ ンCを配合し、飲み物や料理に加えて摂取する粉末状の商品が完成した。 開発に当たっては、コラーゲン臭の除去も大きな課題だった。当初から脱 臭技術に力を入れ特許も取得している。発売から10年の間に技術を向上 させ、「発売当初のものに比べて、現在の商品は格段に飲みやすい」とは、 商品を飲み続けてきた伊藤さんの実感である。 今ではコラーゲンを含む食材・食品が人気になっているが、発売当初は 美容食品というジャンルもなかった。消費者の反応が予測できなかったため にほとんど宣伝をしなかったが、効果を実感した人たちのクチコミで売り上げ を伸ばし、高いリピート率を誇っている。臨床試験などによる科学的な根拠に 基づいた情報発信も、信頼性を高めることにつながった。「さしたる宣伝もし なかったのに、商品の効果を実感していただいて売れた希有な例だと思い ます」と同社知的財産部専任課長・石井敦さんは言う。 商品名を「アミノコラーゲン」としたのは、商品内容をストレートに伝えるため だった。発売当初に商標を出願したが、品質表示だとして認められなかっ た。略称の「アミコラ」はすぐに商標登録できたことから、パンフレットなどでは 「アミコラ」の名称を併用してきた。売り上げの着実な伸びが鮮明になった 06年、男性アイドルを起用したテレビCMを流したことで、一挙に認知度は高 くなった。この年、再度「アミノコラーゲン」を商標登録出願し、審判でその高 い認知度が認められて08年に登録となり、模倣品の排除が確実にできるよ うになった。市場に多様なコラーゲン関連食品が出回る現在、商標は一段 と重要性を増している。 これまでに錠剤、ドリンクなど多様なシリーズ商品を生んできた。それぞれに 最適なコラーゲン分子の配列を追求し、コエンザイムQ10やヒアルロン酸を加 えた商品を開発するなど「アミノコラーゲン」ブランドは進化し続けている。商 品ラインアップを増やすのに伴い、サブネームを商標登録するなど、ブランド保 護にも力を入れてきた。缶入り粉末商品の蓋に、一日の適量であるスプーン すり切り1杯にできる機能をつけ、実用新案も登録している。発売時から現 在まで「アミノコラーゲン」が美容食品でトップシェアを維持し続けている背景 には、知的財産権を重視する同社の取り組みがあった。 その姿勢は、開発現場にも浸透している。 取材協力/株式会社明治 134 ア ミ ノ コ ラ ー ゲ ン 人の代わりに働く産業用ロボット MOTOMAN-SIA MOTOMAN-SDA 特許第3402378号 同第4888582号ほか 産業用ロボットで世界のトップシェアを誇る株式会社安川 電機は、人の腕と同様の動きができる7軸ロボットを開発し た。1915年の設立以来、モータとその制御技術で成長してき た同社は、1977年からモートマン(MOTOMAN)ブランドで、 独自開発した電動式産業用ロボットを展開してきた。 135 MOTOMAN-SIA MOTOMAN-SDA 自動車産業を中心に産業用ロボットが普及し、ロボットは6軸(関節)が主流に なった。しかし、6軸の場合、アームは水平あるいは垂直方向に動き、障害物を 避けるような回り込み姿勢ができない。そのような中、製造や物流の多様な作 業を自動化するニーズの高まりを受け、人と同じような運動・作業能力と自在性 を可能にする7軸への挑戦が始まったのは1990年代のことである。関節に当た る軸にはモータ、減速機(ギヤ)、ブレーキなどによる動力機構がある。人と同等 のスペースでの作業をするためには、その小型化が不可欠だった。同社には開 発研究所が開発した小型動力機構があった。モータなどを一体化したギヤ内蔵 アクチュエータである。これを進化させ、作業に求められる動作、荷重、スピード、 耐久性などをクリアするものにした。このアクチュエータは中心部が大口径の中 空になっており、配線、配管を通すことができるのも大きな特長だ。アームの外側 に配線などが出ないため、周辺機器との干渉もない。小型アクチュエータの採 用により各軸間のアームも短くなり、細かい動作を可能にした。7軸化のもう一つ の課題は、6軸より格段に複雑になる制御だった。同社の強みはハード、ソフトの 両面で技術の蓄積があり、機械と制御の同時進行で開発を進められたことだ。 2006年には、業界で初めて7軸単腕・双腕ロボットをシリーズ化し、2009年に は腕構造や駆動系を改良した7軸単腕ロボット「MOTOMAN-SIA」、7軸双腕 ロボット「MOTOMAN-SDA」が市場に投入された。双腕は2本のアームで協 調動作ができ、電子基板にマスキングテープを貼るといった複雑な作業を、人よ り正確かつコンスタントに行う能力を備えている。同社ロボット事業部東部営業 部第1営業課長の山崎聖明さんは「技能の伝承をデジタル化し、国内外のどの 工場でも品質を安定化できる」とロボット導入のメリットを語る。 2010年以降、スリム化を進めて家電や一般産業で既存の生産ラインに配置 するなど、用途は大きく広がっている。 ライフサイエンス分野で新たな用途を開拓するため、産業技術総合研究所な どと共同で開発した、汎用ヒト型ロボット「まほろ」がその一例である。人の目や感 覚に当たるセンシング機能を加え、臨床検査のベンチワークを自動化して、PC の仮想空間を利用したオンラインティーチングができるようになったことも、多様な 用途に対応する上で大きなポイントだった。 同社のロボット技術の水準は世界でも群を抜いているが、「たまたま開発の 方向が同じで争いになることはあるので、当社の技術者は海外の技術情報に ついて常に眼を光らせている」と技術開発本部知的財産 部課長補佐の安川優さん(弁理士)はいう。同社では年 間200件から300件の特許出願(国内)をしているそうだ。 世界トップの技術力は知的財産権によって守られている。 取材協力/株式会社安川電機 136 M O T O M A N -S I A 、 M O T O M A N -S D A 革新的な針なしステープラー ハリナックス 特許第5152232号 意匠登録第1398926号 商標登録第5353378号 コクヨS&T株式会社の「ハリナックス」は、2009年12月の発 売から2013年2月末までのシリーズ販売累計が400万台に及ぶ 大ヒット商品だ。針なしステープラーの開発が本格化したのは 2007年であったが、その背景には、コクヨの総合カタログに掲 載されている全商品を環境配慮商品にするという「エコバツ※」 への取り組みがあった。針なしステープラーは、特に環境配慮 を促進する「超エコ」プロジェクトに位置付けられた。 ※「エコバツ」とは・環境への配慮が十分ではない自社ブラン ド商品にエコバツマークをつけ、3年間でそのマークをなくす取 り組み。2011年度版総合カタログにおいて、環境配慮商品 100%とし、エコバツゼロを達成した。 137 ハリナックス ステープラーの針をなくせば消耗品が不要になり、そのままシュレッダーにか けたり再資源化したりでき、また利用現場での異物混入やけがを防止でき る。針なしステープラー自体は100年ほど前に実用化され、基本特許も公開さ れていたが、保持力の弱さや綴じ枚数の少なさが普及の妨げとなっていた。 針なしステープラーは、紙に切り目を入れて紙片を折り込み、別の切り目か ら引き揚げて綴じる仕組みになっている。2ヵ所で綴じれば保持力を高められ るが、折り込んだ部分の穴が気になるというユーザーの声もあった。その中で、 この穴を活用するという発想の転換から、2穴ファイルに対応した2穴タイプが 生まれた。 また、綴じ枚数を10枚程度まで増やすために、紙片を引き揚げる側の切り 込みをH形にした。開発を担当した同社クリエイティブプロダクツ事業部の青 井宏和さんは「H形の刃を低コストで実現するのが最も難しかった。内側を切 り抜いた金属板を折り曲げる方法にたどりつくまで2、3ヵ月かかりました」とい う。さらには、刃の材質などの試行錯誤や2枚から10枚程度まで留められる紙 片の長さ、刃の高さなどの微調整が続いた。その中で得た、将来使えそうなア イディアも、特許に盛り込んだそうだ。 「針なしステープラー」として発売した2穴タイプは、3ヵ月で1年間の売上目 標をクリアした。また、エコ商品の展示会に出展したところ、周囲の綴じる仕組 みへの関心が高かったことを受け、並行して開発していたハンディタイプは、 仕組みが見える構造に変更した。2010年7月に、このハンディタイプを「ハリ ナックス」の商品名で市場に投入したところ、TVCMの効果もあり、わずか2ヵ 月で年間売上目標を達成した。 「ハリナックスの開発は、一から市場をつくるため、自由に考えられて楽し かった反面、大変でした。新しいカテゴリーの商品として、まず社内でその良さ をアピールする過程では、他の部署との連携も生まれました」と青井さんは振り 返る。その後も改良を重ねて、一段と保持力を高めるなど進化を続けている。 同社では企画段階から知財スタッフが参加して、出願のタイミングなどを協 議している。コクヨ株式会社法務部知的財産グループの岡本太郎さんは 「数年前から、知財の重要性に対する認識が社内文化として根付いてきて、 知財部の基本的な仕事もスムーズにできています」という。 「知財戦略込みで、将来的に面として広がる開発を 考えていきたい」という青井さんの言葉も、同社で知財 の重要性が共有されていることを物語っている。 取材協力/コクヨS&T株式会社 138 ハ リ ナ ッ ク ス 自然な歌唱音声の合成ソフト VOCALOID 特許第4153220号 商標登録第4722616号ほか ヤマハ株式会社が2003年に発表した「VOCALOID」 (ボーカロイド)は、楽曲のボーカルパートを制作できる歌声合 成技術と、その応用ソフトウェアだ。さまざまな楽器がデジタル 化されてきた中で、歌声の合成も研究されてきた。同社では 研究実績を踏まえ、2000年からスペインのポンペウ・ファブラ 大学と共同で実用化に取り組んだ。 139 VOCALOID 歌唱音声のデジタル化は、歌詞が聞き取れることが必要条件だ。ボーカロ イドでは、実際の歌声から取り出した音声の素片を周波数領域で接続し、加 工している。「最初の難関は声の素片の単位を決めることだった」と、ボーカロ イドプロジェクトのリーダー・剣持秀紀さんは振り返る。音素の変化する部分で 切った素片を、どう接続したら滑らかになるか、試行錯誤を繰り返し、最終的 に、音素が変化する部分ではなく、伸ばし音の部分を加工することで、聞き取 りやすさと、自然な歌声に近づけることに成功した。 ボーカロイドは、音程や歌詞などを入力する「スコア・エディタ」、歌声の合成 エンジン、歌声ごとのデータベースである歌声ライブラリで構成されている。当 初想定された用途は楽曲にコーラスを入れる、ボーカルを仮に入れる、などで あった。ビジネスとしてスタートする際には、歌声のバリエーションを増やすため に、他社が歌声ライブラリを開発できるようにすることを考えた。そのため、ボー カロイドの歌声ライブラリ制作の技術を他社にライセンスする枠組みをつくる必 要があり、この枠組みを考えるのも苦労した点の一つであった。また、ライセン ス先は国内に限らなかったので、歌声ライブラリ制作を教えるためにイギリスの 会社をはじめ欧州にも出張した。 ブロードバンドが普及した2007年に、より自然な歌声の合成が可能となるな どの進化を遂げたボーカロイド2を出した。「初音ミク」(クリプトン・フューチャー・ メディア)に代表されるシンボルキャラクターが設定されたボーカロイドのソフトが 次々に出て、動画サイトでバーチャルなボーカリストとして注目されたのはこの 頃である。ニコニコ動画のボーカロイドで作られた曲(ボカロ曲)の投稿サイトが ユーザーの作品発表の場となり、爆発的なヒットにつながった。 最近のカラオケ人気曲には、さまざまなユーザーが生み出したボカロ曲が多 数入っている。ボーカロイドは楽曲制作のハードルをぐっと低くし、たくさんの人 気曲を世に送り出したのである。「ボーカロイドは楽器として位置づけていま す。ほかの電気・電子楽器と同じように曲づくり、音楽の創作活動に対する 敷居を下げ、新たな手段を提供することで、新たな音楽の可能性を広げられ ると思います」と剣持さんは展望する。2011年に発表され、 歌声合成性能がさらに向上したボーカロイド3からは、これまで 一体となっていた基本ソフトと歌声ライブラリが別々に販売 されることで、より手頃に歌声の追加が行えるようになった。 現時点で5ヶ国語に対応するなど、新しい楽曲づくりのツール として、ボーカロイドは世界の音楽シーンを変えようとしている。 取材協力/ヤマハ株式会社 140 V O C A L O I D 残り芯を短縮したシャープペンシル .e-sharp 特許第4736219号 意匠登録第1132952号 意匠登録第1132105号 ぺんてる株式会社の「.e-sharp」は、100円のシャープペン シルとして初めて、残り芯3.5mmを実現した。2001年の発売当 初からヒット商品となり、現在まで世界中で支持されるロング セラーとなっている。 従来のシャープペンシルでは、芯の残り(残芯)が、10mmくら いになると芯が引っ込んでしまい上手く書けなくなっていた。そ のため、先端から残芯を手で抜き取り、次いで、数回ノックして 新しい芯を出していた。この抜き取った残芯が“もったいない”と 多くの人が感じていた。 141 .e-sharp また、シャープペンシルの芯は、「芯チャック」と称される芯を把持する部 品により芯を連続的に送り出す仕組みになっているが、ノック操作を止め ると芯チャックが戻って、後続の芯を引き戻してしまう。その結果、使用中の 芯と後続する芯との間に隙間ができる。このため、書いている芯が中に入っ てしまい、残り芯となっていた。 2000年頃、他社から100円でゴムグリップ付き、エコマーク対応商品が 出され、これに対応する製品開発が急がれた。他社製品との差別化を図 るために、残り芯短縮技術が導入されることになった。技術開発に当たって いた同社中央研究所第七開発室室長・丸山茂樹さんは「正直なところ、 100円の製品に組み込むことになるとは思っていませんでしたが、それまで の研究の流れで、製品化に取り組みました」と言う。そして、芯を保持する 戻り止めを内装したスライダが芯チャックと連動して動くことで、後続の芯と の間にできる隙間をなくした、世界初のギャップレス構造を生み出した。 2000年1月に基本構造を出願、翌年3月に発売したが、その過程では、 サンプル出荷3ヵ月前に構造を変更せざるを得なくなるという試練もあった。 同社のシャープペンシルは2回ノックして最適な長さの芯が出るように設計 されている。ところが試作品は長めに芯が出て、2回ノックすると折れやすく なる。“2回ノックで最適な長さ”という同社のシャープペンシル共通のポリ シーをまげるわけにはいかず、一時は発売延期も考えたそうだ。 「研究過程で出た多様なアイデアから、一番信頼性の高い構造を選ん だ結果でした。ほかのアイデアの中に実用化できるものがあったので、なん とか発売予定をクリアできました」と丸山さんは振り返る。芯チャックを含む 心臓部の構造、部品をすべて変更し、この試練を乗り越えた。 「構造の変更には、製品化の前に広く考えてきた技術の蓄積を活かせ たと思います。技術部門と知財部門の月一回のミーティングで、研究中の技 術について、どういう観点から特許にするか、他社の視点で逃げ道がない か、を検討しています」と言うのは、同研究所知的財産管理室室長の阿久 津和男さんだ。新たに採用した構造についても、出願済みであったという。 「.e-sharp」は再生樹脂を使用したエコマーク認定製品で、残り芯が 少ない省資源の面でも評価され、ノベルティの需要も多い。また、 従来製品の約4.8倍の大きな消しゴムがついているのも特長だ。 消しゴム部分の大きなフォルムは意匠登録されている。製品 サイクルが短くなっている中で、10年余りにわたり年間200~ 300万本をコンスタントに生産するロングセラー商品となっている。 取材協力/ぺんてる株式会社 one two 142 .e -s h a r p 交換不要、超長寿命フィルター モノMAXフィルター 特許第3124901号 商標登録第5467390号 株式会社モノベエンジニアリングのバネ式「モノMAXフィル ロカ ター」は、自浄機能を備えた超長寿命の画期的な濾過フィル ターだ。液体の濾過だけでなく、気体の集塵にも高い性能を発 揮する。 モノMAXフィルターは数10マイクロメートルの隙間のある、 ステンレス製バネである。濾過時はバネの外側から内側に液体 (気体)を流し、その圧力で隙間が固定されて精密な濾過がで きる。流れを逆にすると バネに内側から圧力が かかって隙間が緩み、 一挙に逆洗浄できる。 濾過能力を維持し続け るので、交換は不要だ。 洗浄済 モノMAXフィルターの原理 無限の再生力ばね式フィルターのろ過工程 スタート ろ剤の形成 ろ過中 序剤をプリコートし汚濁水を圧送し ブリッジを形成清澄液を取出す 繰返し再生の仕組 ●ろ過時はバネ部が堅く閉められ、逆洗浄時は少し弛む構造 ●逆洗頻度はろ過原液のSSの性質により大きく変動する ●高温(500°C)、高圧(1.52MPa)、低圧(0.02MPa)、 高濁度(1000ppm…ろ過物質による)に応用可 逆洗浄 目詰した汚濁物を 洗浄し装置外に排出 外部排出 脱水 原汚 水 槽濁 液 原残 料 ・ 廃渣 棄 143 モノMAXフィルター 同社は1968年の設立以来、幅広い金属精密加工を手掛け、大手メーカー モノノベサキヨリ の要望に応える開発力で定評があった。創業者で代表取締役の物部長順さ んは、大手機械部品メーカー出身のエンジニアである。20年ほど前、独自技術 で勝負をしたいと地元・千葉市などの会社見学会に参加した物部さんは、ある 金型企業で洗浄水の使用済み浄化フィルターが山積みになっているのを見 た。すぐに目詰まりするフィルターの運用コスト、廃棄物処理コストが大きな負担 だと聞き、製造業の現場で長く使えるフィルターが求められていることを知った。 「これは挑戦する価値があると思いました。開発のポイントは“自社の技術で できるもの”でした」と物部さんは振り返る。「濾過はまったくの素人」だったの で、30種ほどのフィルターを入手して実験するところから、開発は始まった。用 途別の多様な既存フィルターに対し、汎用性の高いものを目指した。濾過に適 した素材を探していた時、自社製品に内蔵する密着バネに着目した。密着バ ネは引っ張ると均等な隙間ができる。物部さんは旧知のバネ技術者を同社に 招いて、バネ式フィルターの開発に取り組んだ。 最も困難だったのは「均等な隙間のあるバネ」をつくることだった。バネの線 材に突起をつければ隙間ができるが、微小な突起を正確につけるのは容易 ソセイ ではなかった。同社の塑性加工技術を活用しながら、何度も金型をつくり直し て、技術を確立した。1999年にモノMAXフィルターによる濾過装置の試作機 ができるまで、6年半かかったという。 同社の濾過装置はフィルターの直径、長さ、材質の違い、あるいは複数のフィ ルターを内蔵するユニットの数などで、さまざまな需要に対応できる。濾過助剤を 使って大腸菌も除去でき、油分などの多い濾過液の場合は細かい気泡を混ぜ て高圧で逆洗浄するシステムも開発している。河川・井戸水から工場排水、建設 現場の濁水の浄化など、幅広い採用実績がある。海水の淡水化施設では浮遊 物質除去の前処理に利用され、塩分を除去するRO膜の長寿命化に貢献して いる。また研磨廃水から研磨液、メッキ処理液などを回収・再生するシステムもあ る。いずれも運用コスト、廃棄物処理コストを大幅に低減する成果を生んでいる。 超長寿命で、メンテナンスにも特殊な技術を必要としないので、同社は常に 新しい顧客を開拓しなければならないのが悩みだとか。「小型の試験機を入 れたら、これで十分だと言われたケースもあった」のは、この フィルターの性能がいかに高いかを示すエピソードだろう。海水、河川、排水、濁水 MAXフィルターの開発を契機に、同社はこの独自 技術を主軸に据えた経営に転じた。その技術と経営 異物をろ過 方針を守るのが知的財産権である。 取材協力/株式会社モノベエンジニアリング ろ過された水 144 モ ノ M A X フ ィ ル タ ー 生米からパンが焼ける GOPANSD-RBM1001 特許第5430895号 意匠登録第1472458号 商標登録第5393399号 GOPANは2010年、生の米からパンを焼ける世界で初めて のライスブレッドクッカーとして開発・発売された。この画期的な 機能を実現する鍵は、米を水に浸けて柔らかくして砕く方法を採 用したことだ。当初は固い米粒をそのまま粉砕して粉にすること を目指したが、行き詰まってしまった。この難問を、炊飯器開発で 米の性質をよく知るベテランのアドバイスによって解決した。 GOPAN発表時の反響は開発チームの予想をはるかに超え、予 約が殺到したため に急遽、発売日を 延期したほとだ。 GOPANは4カ月 で販売累計計画 台数の約3倍、17 万台を出荷した。 ■ミル構造の比較 従来品 刃のエッジを 使って米粒を 砕く 新製品 ミル羽根の凹凸面を 使って米粒をすりつぶす フラットな刃で 対流を作りだす 傾斜をつけた羽根で 大きな対流を作りだす ■分解可能な米パン羽根 分解 ねり羽根ミル羽根羽根台 145 GOPANSD-RBM1001 2013年3月、初代GOPANの課題だったコンパクト化、運転音の低減を 実現した新GOPAN(SD-RBM1001)が発売された。初代GOPANは モーターを2つ搭載していたため、設置面積が大きく、また重かった。モー ターを一つにすれば、この問題は改善できる。調理家電として求められるサ イズ、運転音などの条件から、試行錯誤の結果、インバータモータを搭載す るのが最善の方法だった。米をペーストにする最適な回転数と、パン生地を 練る最適な回転数とは大きく異なり、これら回転数を効率よく制御するに は同社の家電商品に採用されているインバータモータのノウハウが活かさ れている。 また米を砕く際に大きな音がすることから、すり潰す仕組みに変更した。 軸の底部に組み込まれた、独自開発の米をすり潰すミル羽根の両端は凹 凸面になっている。この凹凸を最適にするために、担当者が様々な形状を ヤスリで削り出して試作機で検証し、形状が決まるまで半年以上を要したと いう。 こうした技術革新によって設置面積を約25%、質量約31%、実感音 (SONE値)を約63%低減するのに成功した。 さらにこだわったのは、パンの焼き上がりだ。従来品の蓋部分にあった窓 をなくし、新加熱構成を採用するなど熱効率を高め、上部までパリっと焼け て、中はもちもち感のあるふっくらした仕上がりを追求した。そのために生地 のねり時間、羽根の回転数、発酵時間も見直し、最適な数値を求めて開 発チームは試作したパンを食べ続けたそうだ。ホームベーカリーで約75%の シェアを持つ同社のノウハウが、ここでも活かされている。 新GOPANは、小物家電製品では稀な発売から3年で大きな革新をし た。「初代とはまったく違う新しい機構になっています。今までなかったもの をつくる機会に出会えたのは、技術者として本当に幸せなことでした」と言 うのは同社調理器商品設計チームの伊藤廉幸さんだ。 GOPANは大ヒットしたにもかかわらず、類似製品がほとんど出ていな い。技術力の高さの証だが、同社事業知財第2チームの 高石守人さんはこうも言う。「もちろん特許や意匠により 採用された技術をしっかりカバーしていますが、GOPAN という商標がすぐに浸透した効果もあると思います」。 GOPANの先進性は知財で守られている。 G O P A N S D -R B M 1 0 0 1 取材協力/パナソニック株式会社 146 回らないトラスネジを回す ネジザウルスGT 特許第3486776号 第4471315号 意匠登録第1232051号 商標登録第4744142号ほか 株式会社エンジニアのプライヤ「ネジザウルス」シリーズは、 2002年の発売からの累計販売数が、14年6月に200万本を突破 した。このうち120万本を4代目の「ネジザウルスGT」が占めてい る。一般に、工具は5万本でヒット商品といわれるそうだ。 ネジザウルスはつぶれたネジ、固着あるいは錆びたネジ、特殊 な形状のネジをつかんで回せるプライヤとして開発された。技術 のポイントは、先端部分にタテ溝を入れたことで、基本特許を 取っている。初代の発売で一定の評価を得て、適合するネジの 大きさの異なる2種を市場に投入した。 ネジザウルスGT 147 鉄腕ハサミGT ネジザウルスGT ここまでは、ヒット商品というほどの反響はなかったという。4代目に向けた 改良点を探る中で、ネジザウルス購入者から送られてきた「愛用者カード」 の内容を洗い出した。グリップの改良など上位の要望に続く5番目に、頭部 の低いトラスネジを回せるようにしてほしい、という声があった。 08年のリーマン・ショックによる景気悪化の危機感もあり、上位4番目まで は対応することにしたが、1000枚のカードのうち7枚にすぎなかった、トラスネ ジを回せる機能を付加するかには、社内でも否定的な意見もあったという。 しかし、2カ月ほど後に、社員がトラスネジを回せる試作品をつくり、この機能 を備えることになった。 09年に「ネジザウルスGT」を発売すると、ぐんぐん売り上げが伸びた。トラ スネジを回せることに、多くのユーザーが飛びついたのだ。「正直なところ、 予想外の大きな手応えでした」と言うのは、同社社長の高崎充弘さんだ。 GTでは先端部分を改良して、基本特許の改良特許を取得しているが、高 崎さんは技術革新よりも「水面下にあったユーザーのニーズに気づけたこと が大きかった」という。 弱電工業向けにプロ仕様の工具を1000余アイテム出してきたファブレス メーカーである同社にとって、ネジザウルスGTは一般消費者をターゲットに 想定した初めての製品でもあった。「なぜGTは当たったのか」を分析した 高崎さんは、独自の「MPDP理論」を導きだした。マーケティング(M)、パテ ント(P)、デザイン(D)、プロモーション(P)のすべてが揃って、ヒット商品が 生まれるという理論だ。ネジザウルスGTはグッドデザイン賞のほか、国際的 に最も権威あるドイツのiFデザイン賞を受賞している。また、イメージキャラク ターとして、ネジにがっちり噛み付く恐竜「ウルスくん」を導入した。 知的財産権を重視してきた同社では、まず高崎さんが知的財産管理技 能検定で知財への理解を深めてきた。「社内に知財部を持たない中小企 業にとって、知財の有用性を理解することは、事業戦略において重要なポ イントです」。今では社員30人中11人がこの資格を取得しているそうだ。 MPDP理論を確立してから最初の開発製品となった「鉄腕ハサミGT」 もユーザーの要望から生まれた。本体は小さく、しかも固いものも切れるとい う、従来のハサミでは相反するテーマを兼ね備え、これもまたヒット商品と なっている。 ネジザウルスのシリーズも進化し続け ている。知財も最大限に活用しながら、 快進撃は続くことだろう。 取材協力/株式会社エンジニア 148 ネ ジ ザ ウ ル ス G T 知的財産権の種類知的創造物は知的財産権によって守られます。 保護対象/規制 特許権 (特許法) ●「発明」を保護 比較的程度の高い新しアイデに与えら れる権利。発明にはものと方法2タイプ があります。 創 作 意 欲 を 促 進 知 的 創 造 物 に つ い て の 権 利 実用新案権 (実用新案法) 意匠権 (意匠法) 著作権 (著作権法) 回路配置利用権 (半導体集積回路の回路配置に関する法律) ●物品の形状等の考案を保護 発明ほど高度なものではなく、言い換えれ ば小発明と呼ばれるものに与えられる権利。 ※実用新案権は無審査で登録されます。 ●物品のデザインを保護 物品の形状、模様など斬新なデザイン に対して与えられる権利。 ●文芸、学術、美術、音楽、プログラム等 の精神的作品を保護 ●半導体の集積回路の回路配置の利用 を保護 独自に開発された半導体チップの回路 配置 ●植物の新品種を保護 知 的 財 産 権 育成者権 (種苗法) 営業秘密 (不正競争防止法) ●ノウハウや顧客リストの盗用など 不正競争行為を規制 1 信 用 の 維 持 営 業 上 の 標 識 に つ い て の 権 利 商標権 (商標法) 商号 (商法) 商品表示、商品形態 (不正競争防止法) 産業財産権=特許権、実用新案権、意匠権、商標権 これらは特許庁所管 ●商品・サービスに使用するマークを保護 自分が取り扱う商品またはサービス(役 務)と他人が取り扱う商品またはサービ ス(役務)を区別するためのマークに与 えられる権利。 ●商号を保護 商人が営業上事故の法人格を表示する ために用いる名称、社名に与えられる権利 【以下の不正競争行為を規制】 ■混同惹起行為 ■著名表示冒用行為 ■形態模倣行為(販売から3年) ■ドメイン名の不正取得等 ■誤認惹起行為 発明などの創造をするためには、たいへんな労力を必要とする反面、模倣されやすく盗用されやすいという特 徴があります。模倣・盗用が野放しになれば、人の知性による自発的な創作活動への意欲が損なわれることに なりかねません。そこで知的創造物の保護が必要となります。この知的創造物を権利として保護するしくみが知 的財産権制度です。あらゆる有益な発明、その他の創造がこの制度によって守られます。 要件または特性 保護期間 1産業上利用できる発明 2新規性・進歩性のある発明 出願の日から20年 (医薬品等については25年に延長可) 1物品の形状、構造、組み合わせに関す る考案 2産業上利用できる考案 3新規性、進歩性のある考案 1物品の形状、模様もしくは色彩またはこ れらが結合した意匠 2美観を起こさせる意匠 3工業上の利用性、新規性、創作非容易 性のある意匠 何らの方法を必要とせず、創作と同時に 発生する。(著作権に関連する実名、創作 日等の登録は可能) 出願の日から10年 設定登録の日から20年 死後50年 (法人は公表後50年、映画は公表後70 年) 申請し、登録により発生する 登録から10年 品種登録など 登録から25年(樹木30年) 技術上の秘密など 期限なし 1文字、図形、記号、立体的形状 2商品またはサービスに使用するもの 3識別力を持つもの 4特に他人の登録商標と同一または類 似でないもの 5(平成26年度改正で追加)音、色彩、 ホログラム、動き(※) 商号登記など 登録から10年(更新あり) 期限なし 知 的 財 産 権 の 種 類 周知、著名など 期限なし ※平成26年5月14日から起算して、一年を 超えない範囲内において政令で定める日 から追加 2 特許・実用新案・意匠・商標登録の流れ 特許 Patent 出願人 特許出願 特許庁 方式審査 出願審査請求 出願日から3年以内 出願公開 出願日から 1年6月経過時 実体審査 拒絶理由通知 意見書・補正書提出 拒絶査定 の場合 特許査定の場合 特許査定又は 拒絶査定 拒絶査定不服 審判請求 特許料納付 特許庁へ 認められなければ、 知財高裁へ出訴可能 設定登録 特許公報発行 特許に対して第三者は無効審判請求可能公報 発行から6月間は特許異議の申立て可能(※) 3 ※特許異議の申立てについては、平成26年5月 14日から起算して、一年を超えない範囲内に おいて政令で定める日から可能 実用新案 UtilityModel 出願人 実用新案登録 出願 特許庁 方式・基礎的要件 審査 補正命令 手続補正 出願人、権利者及び第三者は 出願中あるいは登録後に 技術評価の請求が可能 設定登録 実用新案公報発行 登録に対して第三者は 無効審判請求可能 登録に基づく特許出願も可能 特 許 ・ 実 用 新 案 ・ 意 匠 ・ 商 標 登 録 の 流 れ 4 意匠 Design 出願人 意匠登録出願 特許庁 方式審査 実体審査 拒絶理由通知 意見書・補正書提出 拒絶査定 の場合 登録査定の場合 登録査定又は 拒絶査定 拒絶査定不服 審判請求 登録料納付 5 特許庁へ 認められなければ、 知財高裁へ出訴可能 設定登録 意匠公報発行 登録に対して第三者は 無効審判請求可能 商標 TradeMark 出願人 商標登録出願 特許庁 方式審査 出願公開 実体審査 拒絶理由通知 意見書・補正書提出 拒絶査定 の場合 拒絶査定不服 審判請求 特許庁へ 認められなければ、 知財高裁へ出訴可能 登録料納付 登録査定の場合 登録査定又は 拒絶査定 設定登録 商標公報発行 登録に対して第三者は、登録異議申 立て、無効審判、取消審判請求可能 異議申立期間:商標公報の発行日 から2ケ月 6 特 許 ・ 実 用 新 案 ・ 意 匠 ・ 商 標 登 録 の 流 れ こんなときは、弁理士にご相談ください。 ❶ あなたが発明・考案をしたとき 〔特許権・実用新案権の取得〕 ❷ あなたが物品のデザインを考えたとき 〔意匠権の取得〕 ❸ あなたが商品または サービスのマークを考えたとき 〔商標権の取得〕 ❹ あなたが外国へ出願するとき 〔外国特許権・商標権などの取得〕 7 ●にせ弁理士にご注意 弁理士の資格がない人が出願業務等の代理を行うと刑罰の対象となり、依頼者が思わぬ損害を受ける ことがありますので、ご注意ください。 ●著作権では発明やアイディアは保護されません。民間業者による「知的所有権(著作権)登録」の勧誘に ご注意ください。 ❺ 権利について争いがあるとき 〔審判・訴訟〕 ❻あなたの権利を侵害する物品が 輸出入されるとき 〔輸出入差止め〕 ❼ ❽ あなたが実施したい 方法や物が、他人の権利に ふれるのではないかと心配なとき 〔鑑定・判定〕 あなたが契約を締結したり 媒介や相談を希望するとき 〔売買・ライセンス〕 弁 理 士 に 依 頼 / 8 つ の ポ イ ン ト 8 日本弁理士会のプロフィール 日本弁理士会は、弁理士法に基づき大正11年(1922)5月に設立された弁理 士に関するわが国唯一の公益法人です。 弁理士は、明治32年(1899)7月1日施行の特許代理業者登録規則をもってそ の始まりとし、わが国の弁理士制度は100年を超える歴史があります。 弁理士になるためには、弁理士法に定める国家試験に合格するなど、厳しい資 格審査が行われます。資格を与えられた者は、日本弁理士会に登録して初めて弁 理士となりますので、弁理士はすべて日本弁理士会の会員です。 弁理士業務は最新技術と法律に関係することから、日本弁理士会は、弁理士 の品位を保持し、業務の改善進歩を図るための指導と連絡を行うことを目的とし て、内部に研修所を設け、会員研修を継続的に行い、会員の研鑽と能力の向上 を図っています。また、各種委員会を設け、産業財産権制度の研究や普及活動を 行い、産業財産権法の改正点や審査基準について調査研究し官庁に建議をす るなど、多様な活動を行っています。 このほか、特許庁との産業財産権制度の運用に関する協議や、諸外国の弁理 士会との連絡も日本弁理士会における活動の中で重要なものとなっています。 このように、日本弁理士会は産業財産権の業務を通じて産業の発展、公正な 取引制度の確立に寄与し、豊かな未来づくりに幅広く貢献しているのです。 9 主な活動 ●知的財産権の研究…知的財産権に関する専門委員会を設置して、調査、研究を 行っています。 ●弁理士の研修…研修所を設置し、弁理士業務に従事するのに必要な研修を行っ て、資質の向上を図っています。 ●国際交流…産業財産権は国際的なものであるため、諸外国の制度の研究を行う だけではなく、海外の弁理士会とも交流を図って、意見交換を行っ ています。 ●支援活動…知的財産支援センターを設置し、各種の支援事業を展開しています。 ●広報活動…知的財産権の啓発、普及のため動画やパンフレット、広報誌などを 制作しています。 ●月刊誌「パテント」の刊行…最新の内外の知的財産権情報を掲載しています。 ●無料相談…全国各地に相談室を設け、無料で特許相談を行っています。(詳しくは、 本誌裏表紙を参照してください。)さらに、47都道府県の全ての「知財 総合支援窓口」に常駐相談員として弁理士を派遣しています。 沿革 明治32年(1899)「特許代理業者登録規則」施行、同年138名の代理業者が登録。 明治42年(1909)特許代理業者は「特許弁理士」と改称。「特許弁理士令」公布。 大正4年(1915)「日本特許弁理士会」創立。(特許局長の許可) 大正10年(1921)「弁理士法」公布。弁理士に改称。 大正11年(1922)「弁理士会」設立(農商務大臣の許可) 弁理士会会則が制定され、第1回の弁理士試験が実施される。 昭和23年(1948)弁理士法改正、特許等の審決取消訴訟代理人に弁理士。 昭和24年(1949)弁理士制度50周年記念式典開催。 昭和35年(1960)弁理士法一部改正により、弁理士の登録事務が特許庁から弁理士会に移管。 平成9年(1997)「特許代理業者登録規則」施行日の7月1日を「弁理士の日」に制定。 平成10年(1998)日本弁護士連合会と共同で「工業所有権仲裁センター(現/日本知的財産 仲裁センター)」を開設。 平成11年(1999)天皇陛下をお迎えして弁理士制度100周年記念式典開催。 平成13年(2001)全面改正された「新弁理士法」施行。 「弁理士会」の名称を「日本弁理士会」に変更。 平成15年(2003)弁理士法の一部を改正する法律施行。(弁理士の特定侵害訴訟代理に関 して) 平成16年(2004)特定侵害訴訟代理業務の登録付記弁理士誕生。 平成17年(2005)各地に支部 (北海道・東北・北陸・中国・四国)開設。 平成18年(2006)関東支部開設。 平成20年(2008)継続研修・実務修習開始。 平成21年(2009)弁理士制度110周年記念式典開催。 平成22年(2010)広報センター(附属機関)設立。 平成26年(2014)特許法等の一部を改正する法律が可決・成立 (弁理士法第1条に「使命条項」が創設) ヒット商品はこうして生まれた! 【ヒット商品を支えた知的財産権】 2004年1月26日 2004年4月26日 2005年10月11日 2006年10月20日 2010年3月19日 2011年11月16日 2013年3月19日 2014年10月20日 第1刷発行 第2刷発行 第3刷発行 第4刷発行 第5刷発行 第6刷発行 第7刷発行 第8刷発行 編集/日本弁理士会広報センター 発行/日本弁理士会 〒100ー0013 東京都千代田区霞が関3ー4ー2 電話03ー3581ー1211(代)FAX03ー3581ー9188 http://www.jpaa.or.jp/ ■制作協力 ●表紙・本文デザイン・イラスト/高木デザイン事務所 本書の全部または一部を無断で複写複製(コピー)することは、著作権法上での例外を 除き、禁じられています。 本書から複写する場合は日本弁理士会(TEL.03ー3581ー1211)に連絡してください。 日 本 弁 理 士 会 主 な 活 動 / 沿 革 知的財産なんでも110番 弁理士が無料で相談に応じます。予約制 北海道 011-736-9331〒060-0807札幌市北区北7条西4-1-2 KDX札幌ビル3階 支部 東北 支部 022-215-5477 ●相談時間/毎週火・金曜日14:00~16:00 〒980-0014仙台市青葉区本町3-4-18 太陽生命仙台本町ビル5階 ●相談時間/毎週火曜日13:00~16:00 関東 支部 北陸 支部 03-3519-2707〒100-0013東京都千代田区霞が関3-4-2弁理士会館1階 ●相談時間/月~金曜日10:00~12:00/ 14:00~16:00 076-266-0617〒920-8203石川県金沢市鞍月2-2石川県繊維会館2階 ※詳細はホームページをご覧ください。 ●相談時間/http://www.jpaa.or.jp/hokuriku/ 東海 支部 052-211-3110〒460-0008名古屋市中区栄2-10-19 名古屋商工会議所ビル8階 ●相談時間/月~金曜日13:00~16:00 近畿 支部 06-6453-8200 〒530-0001大阪市北区梅田3-3-20 明治安田生命大阪梅田ビル25階 ●相談時間/月~金曜日10:00~12:00/ 14:00~16:00 中国 支部 四国 支部 九州 支部 082-224-3944〒730-0016広島県広島市中区幟町13-14 新広島ビルディング4階 ●相談時間/毎週水曜日13:00~15:00 087-822-9310 〒760-0019香川県高松市サンポート2-1 高松シンボルタワー・ サンポートビジネススクエア2階 ※詳細はホームページをご覧ください。 ●相談時間/ http://www.jpaa.or.jp/shikoku/ 092-415-1139〒812-0011福岡市博多区博多駅前2-1-1 福岡朝日ビル8階 ●相談時間/毎週木曜日10:00~12:00/ 13:00~15:00 ●相談は無料です。ただし、鑑定、調査、明細書の作成や内容の修正など、相談事項や依頼事項に よっては対応できない場合がありますので、ご相談の際に必ずご確認ください。 ●日時によっては混み合う場合がありますので、ご了承ください。 〒100-0013東京都千代田区霞が関3-4-2 TEL.03-3581-1211(代)FAX.03-3581-9188 http://www.jpaa.or.jp/ N14 2014.10