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ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.27
「傘ぽん」

特許第2562806号、商標第3196611号

 傘をシュッと差し込んで手前にポンッ。瞬時に濡れた傘にポリエチレンの傘袋が取付けられる。このユニークな装置は新倉計量器(株)・自慢のヒット商品である。この装置は、発明品好きな新倉社長と町工場の一人のプレス職人の出会いから日の目を見たのである。

 1991年、ある雨の日のこと、病院に入ろうとしている老婦人がビニールの傘袋に傘を入れようとしていたが、傘の先がうまく袋の中に入らない。その時一人の男が近寄り、手際よく袋に入れてあげた。この男が発明者の村上稔幸である。彼は思った。「案外入れにくいな、荷物を持っていたら大変だ」と。

 彼は発明好きなプレス職人で、仕事が終わると夜12時頃までテレビを見ることもなく金属加工に専念するのが常だった。村上は装置の試作にとりかかった。しかし静電気で閉じている傘袋の口を簡単に開くことができない。ある日、彼は靴をはこうとして靴ベラを持ったときだ。このヘラを袋の端に引っ掛ければ、口を開いて傘の石突きを袋の中に案内できるのではないかと閃いた。このヒントもとにして数種類の機構を設計・試作した。

 村上は試作品の売り込みにも苦労した。しかし、新倉計量器の営業担当が会社に持ち込んだものの、倉庫の片隅に放置された試作品がしばらくして新倉社長の目に留まった。「これはイケる」と直感した新倉社長は即座に製品化を決定し、村上にすべてのアイデアを特許出願するように進言した。村上は約20件を出願した。

 最初に発売した製品はペダルを踏んで傘袋の口を開くタイプであったため使用方法が十分に理解されず普及しなかったが、ペダルを廃止した「傘ぽん」1号機が1994年に発売されると多数の類似品が市場に出回った。1996年に2号機が発売される頃にはその数は30近くにもなった。

 新倉計量器は、傘ぽんの早期権利化を図ると共に、市場の監視を強化し、類似品を注意深く市場から駆逐していった。現在では製品を見かけた人からの電話注文やインターネットを通じた海外からの引き合いもある。新倉社長はこの成功をきっかけに、次のヒット商品探しに余念がない。

(取材協力 新倉計量器株式会社)

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