本文の先頭です

ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.22
「VC-J21V」

特許第3163287号、特許第3160239号

 2000年3月に発売された東芝のエアサイクルクリーナー(掃除機)VC-J21Vは、100%排気ゼロの驚異的新製品としてマスコミで大々的に取り上げられた。市場の反応も大きく、発売当初の出荷量は予想の倍を超えたという。その背景には、開発・製品化の要因ともなった住環境への関心の高まりがある。

 従来のクリーナーが吸込み口から取り込んだ空気を排気として本体の外に出すものであるのに対して、排気ゼロのクリーナーは空気を循環させる方式を取っている。

 ゴミを吸取っている間は、クリーナーの吸込み口が畳や絨毯に吸い付かず、吸込み口を畳等から離すと吸込み口から空気が出てくるため、消費者からは「どうなっているのか」という問い合わせもあったという。このクリーナーがいかに画期的なものかを物語るエピソードといえよう。

 実は、本体から排気を出さないというアイディアそのものは、40年ほど前からあったそうだ。しかし、製品化されたものは一つもなかった。東芝のクリーナーの設計、開発に当たる東芝テックでは、10年前から排気ゼロに向けた試行錯誤が繰り返されてきた。消費者の排気ゼロへのニーズが明確になった'97年から本格的に取り組み、試作をつくる度に特許を出願し、独自の技術を蓄積した。循環路が短く製作が比較的容易なハンディタイプのクリーナーを先行して発売した。この段階では本体から外に出される排気を70%までカットできた。

 「70%排気をカット」と「排気ゼロ」では、全く別の技術が必要でしたと開発担当者の東芝テッククリーナー部の技術者は振り返る。その後の研究により、モーター部を何回も通る空気の温度が上昇しないようにし、ゴミの吸込み性能を上げた吸込み口やホースなどが開発された。排気ゼロのクリーナーは複雑な構造を持ちながら、既存の製品並のコンパクトさも求められる。クリーナーは通常、試作から1年ほどで発売になるところ、排気ゼロのタイプは3年かかったそうだ。

 「排気がゼロ」というフレーズがあまりにインパクトがあったため、他社でも同様のうたい文句で新製品を次々に出しているが、実際に100%排気をカットしているのは東芝製品だけだという。ハンディタイプも含め、空気循環式クリーナーについては吸込み口、本体、制御などさまざまな技術について100件以上の特許が出願されている。

 特許は事業の優位性を創り出すためのもので事業戦略の一部であり、製品開発から完成までの色々な段階で特許出願をしているという。

(取材協力 株式会社東芝、東芝テック株式会社)

ページの先頭へ