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ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.18
「プリーツ・プリーズ」

 常に革新的なデザインで世界のファッション界に旋風を巻き起こしてきたイッセイ・ミヤケ・ブランド。中でも1989年にパリ・コレクションで発表されたプリーツ加工素材の服は、大きな反響をよんだ。古くからあるプリーツの概念を壊し、立体的な洋服を二次元で表現したデザインに到達するまでには、糸から加工に至る全行程で五年間の開発期間を要したという。その後、現在に至るまでプリーツ加工素材による服は、イッセイミヤケの「顔」ともいえるシリーズに成長し、毎年新しいデザインが発表されている。

 「89年のパリ・コレで世界の注目を集めただけに、日本だけでなく世界中で偽物が出ました。形だけを真似た劣悪な商品に対処するため、93年に知的財産部を設けてプリーツ・プリーズの名称で商標を取得しました。」

 三宅デザイン事務所知的財産部の本橋繁さんは、同部の発足時からイッセイ・ミヤケ・グループの知的財産権に関する業務を統括している。欧米ではデザインに著作権が認められるが、日本では認められていない。

 「デザインをどうやって守るか、というのはずっと重要なテーマでしたが、プリーツ・プリーズをきっかけに具体化しました。プリーツ・プリーズに関しても、日本の知的所有権の考え方だとズバリこれで守れる、というものがありません。結果的に商標のほかに、特許などを取得しました。特許で技術を独占するためではなく、デザインのオリジナリティとその複製権を主張して、偽物を作る業者に警告・交渉するためです」

 コピー商品であることを認めない業者に対する訴訟では、昨年七月に日本で初めて服のデザインに知的所有権を認める判決が下された。プリーツ・プリーズは「新しいものをプラスするのではなく、余分なものを取り去るマイナスのデザイン」であることから、知的所有権で守られるべき対象が争点になったという。こうした点だけでなく、取得に一年半程度かかる意匠権など現在の知的所有権は、デザイン生命が最長二か月というアパレルの実情にまったく対応できない、とも本橋さんは言う。ファッション業界団体も、特許庁の要請で意匠権についての意見をまとめた。

 「知的所有権について社内で勉強するようになって、デザイナーの認識も変わりました。既存の権利を侵害しないという意識がデザインの幅を狭める可能性もありますが、知的所有権を主張できるアイディアを出そうという意欲にもつながっています」

 そうした知的所有権に対する意識がプリーツ・プリーズに続く、斬新なデザインを生み出している。

(取材協力 三宅デザイン事務所知的財産部の本橋繁氏 及び 代理人 中山健一弁理士)

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