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キヤノンインクカートリッジ事件控訴審判決

(知財高裁 平成17年(ネ)第10021号)

(1)本件は、キヤノン(株)が製造販売しているインクジェットプリンタ用のインクカートリッジをリサイクルして販売する行為が、キヤノン(株)の特許権(第3278410号)を侵害するかが争われた事件(東京地裁 平成16年(ワ)第8557号)の控訴審であり、知財高裁の大法廷で行われた3つ目の事件として注目された。

(2)原審は、いわゆる消尽論を用いて、かかるリサイクル行為が、キヤノン(株)の特許権を侵害しないと判断したが、控訴審によってその判断が覆された。本控訴審においては、消尽論が適用されない二つの類型を挙げて、そのうち一つに当てはまれば、消尽論が適用されず、特許権を侵害するとしている。すなわち、「(1)当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用された場合(以下、「第1類型」という。)、又は、(2)当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部分の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(以下、「第2類型」という。)には、特許権は、消尽せず、特許権者は、当該特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが許される」としている。

(3)本控訴審は、第1類型該当性に関し、原審と同様に「当初に充填されたインクが費消されたことをもって特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えたものとなるということはできず、第1類型には該当しない」と判断しいている。
 しかしながら、本控訴審は、第2類型該当性に関し、原審と異なる判断をしている。
 すなわち、原審が「毛管力が高い界面部分を形成した構造が重要であり、界面部分の上方までインクを充填することは、上記構造に規定された必然ともいうべき充填方法であるといわざるを得ない。そして、本件インクタンク本体においては、上記毛管力が高い界面部分の構造は、インクを使い切った後もそのまま残存しているものである。・・また、本件発明1では、インクの充填は構成要件の一部を構成しているが、インクそれ自体は、特許された部品ではない」と判断しているのに対し、本控訴審は、「従来の技術にみられた開封時のインク漏れという問題を解決するために、負圧発生部材収容室に2個の負圧発生部材を収納し、その界面の毛管力が各負圧発生部材の毛管力よりも高くなるようにするという構成(構成要件H)と、液体収容器がどのような姿勢をとっても圧接部の界面全体が液体を保持することが可能な量の液体が充填されているという構成(構成要件K)とを採用することによって、負圧発生部材の圧接部の界面に空気の移動を妨げる障壁を形成することとしたものであり、これらの構成は、本件発明1の本質的部分に当たる」と判断したうえで、インクカートリッジは、「インクタンク内部のインクが費消され、プリンタから取り外された後にある程度の期間が経過すると、構成要件H及びKの充足性を失うところ、」リサイクル品は、上記各構成要件の充足性を失った使用済みのインクカートリッジにつき、「インクタンク内部の洗浄及び負圧発生部材の圧接部の界面を越える部分までへのインクの注入を含む工程によって製品化されたものであり、この製品化行為は、本件発明1の上記各構成要件を再充足させるものである」と判断している。
 原審においては、使用済みのインクカートリッジが、本件発明の主要な構成を未だ充足しており、インクそれ自体は、特許された部品でないと判断しているが、本控訴審においては、使用済みのインクカートリッジは、本件発明の主要な構成の充足性を失っており、インクを再充填する行為によって本件発明の主要な構成を再充足させていると判断しているのである。
 この控訴審の判断は、特許発明の実質的な内容に踏み込んでなされたものであって妥当であると思料する。

(4)以上のように、本控訴審は、消尽論の適用除外の第2類型該当性に関して、原審と異なる判断をすることによって、キヤノン(株)のインクカートリッジをリサイクルして販売する行為を特許権侵害行為と認めたのである。  なお、本控訴審は、上告され、現在も争われている。

特許委員会委員長 千且 和也
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