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[意見]知的創造サイクルの戦略的な展開に係る課題

 日本弁理士会は2005年11月16日付けで、知的財産戦略本部知的創造サイクル専門調査会における意見募集に対して、下記意見書を提出いたしました

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2005年11月16日

内閣官房知的財産戦略推進事務局御中

日本弁理士会

貴内閣官房知的財産戦略推進事務局が意見募集されている知的創造サイクルの戦略的な展開に係る課題について、日本弁理士会は、以下の意見を提出させていただきます。

I.創造分野

「(1)大学等における知的財産の創造」

 日本弁理士会及び各弁理士においては、当会の組織である知的財産支援センターにおいて、産学連携への支援としてここ数年にわたって、組織的な支援を展開してきた。この結果、承認TLOや大学知的財産本部へは多くの弁理士が内部職員として又は外部専門家として参画する状況となった。これらの参加弁理士は、大学の知財ポリシーや職務発明規程をはじめとする種々のルール、システム作りに、また外部の専門家として権利取得やライセンス契約などの利用活用への貢献によって、大学及び産業界からの高い評価を得ている。
 しかし、これらの産学連携に関係している弁理士は、全弁理士数から判断すると未だ少数と言えるので、さらに組織的に産学連携に貢献できる弁理士の育成に努力しており、各種の研修や産学連携に貢献できる弁理士の情報収集に努力している。これらの情報については、その都度、日本弁理士会のホームページに掲載している。
 一方、現状では、大学間において、知的財産レベルの高低差は大きいのが現状である。今後は、日本全国の大学において、知的財産レベルの高揚を期待致する。なお、日本弁理士会には、産学連携に長けた弁理士も数多く存在することから、これらの弁理士の情報提供や派遣については万全の体制が整っているので、全国の大学からの要請があれば、いつでも対応できる状態にあることを付言させていただく。

「(2)企業における質の高い知的財産の創造」

 我が国企業の知的財産創造に関しては、旺盛な発明意欲と知的財産意識により、世界有数の知的財産国家となっており、今後も世界をリードすることは間違いないと確信している。
 これに対して、登録率が低いとか、未利用特許が多いとかの指摘があることも事実である。しかし、知的財産の質と、製品レベルの質とは異なるのが通常である。知的財産の質が高いといえば、必ず企業にとって高収益の上がる発明かといえば、必ずしも当て嵌まらない。知的財産レベルは低いが、企業にとって高収益を揚げている発明は多く存在する。また、出願時には評価は低くても、社会情勢や開発環境の変化により、後日この評価が逆転することは日常茶飯事である。
 このような視点に立つと、ビジネスにおいて有益な特許とは必ずしも審査においてレベルの高い特許であるとは言えないのであり、質の高い知的財産の創造は何であるかをここで改めて考える必要があると思われる。

II.保護分野

「(1−2)模倣品・海賊版対策(水際)」

(1)水際における仲裁の活用

 「(2)今後の取組」中に、「・水際での侵害裁判について、当事者の意見や専門家の関与等により技術等を専門的に判断する制度として、中立的な判断の専門機関である日本知的財産仲裁センターの活用を検討することを含めて、制度的仕組みを整備すべきではないか。」と修正すべきである。
(理由)
 新たな制度的仕組みを整備することについては、賛成であるが、可能な限り既存の確立した組織を活用することも必要である。日本弁理士会と弁護士連合会は、仲裁センターを設立して、調停、仲裁を含めて、技術的な判定も業務として活動を行っており、これらの民間機関の活用も視野に入れるべきと思料する。

(2)技術判定制度の導入

 今年の関税定率法改正によって、税関における認定手続にサンプル提供・分解検査制度が導入された。この制度の導入は高く評価できるものの、分解検査によって得られた情報に関して権利者に対する秘密保持命令等が出されることはなく、当事者の自治に委ねられている。また、そこで得られた情報は報告書として税関長に提出されなければならないということにもなっていない。通常、権利者は分解検査によって得られた情報に基づいて証拠・意見を提出するものと期待されるものの、情報を秘匿して自己に都合のよい証拠・意見のみを提出することも現行制度下では可能である。
 本来、分解検査制度は、権利者が権利の内容を一番熟知しているのであるから権利者に分解検査をさせ、そこで得られた情報を認定手続において活用しようというのが制度導入の趣旨であると考えられる。したがって、現行の分解検査制度は認定手続における技術専門性の判断において十分な役割を果たしているのか疑問なしとはし得ない。
 権利者側と輸入者側との公平を期すためには、権利者側が分解検査によって得た詳細な技術的事項等について、権利者側と輸入者側の双方が、技術的及び法律的見地から主張・反論を行い、当事者の主張に基づいて専門的かつ簡便・迅速に判断を下すことができる技術判定の仕組みを構築することが必要である。

(3)現行認定手続の改善

 当事者が輸入差止申し立てを行う際に、現状では、税関に対する非公式の事前相談が行われているようである。この間に税関における書類審査が行われ、案件によっては認定手続が開始されるまでに半年近くの期間を要するものもあると聞く。この間の税関における処理は全くブラックボックスであり、透明性を付与するための措置について検討を行うことが必要である。

「(1−3)模倣品・海賊版対策(インターネット・オークション)」

 「(2)今後の取組」中の「模倣品・海賊版拡散防止条約を早期に実現するため、各国や関係国際機関との議論を加速すべきではないか。」を、「模倣品・海賊版拡散防止条約を早期に実現するため、各国や関係国際機関、及び国際的な民間の仲裁機関も視野に入れた議論を加速すべきではないか。」と修正すべきである。
(理由)
 2004年には(社)日本自動車工業界と中国自動車工業界との合意により、知財権に関する紛争調停機関が設立された。同様に、日本弁理士会と中国の専利代理人協会との間で、日中の知財権に関する紛争調停機関を設置する話し合いも行っている。このように、国等の公的な機関のみならず民間機関同士による国際的な知財紛争処理も視野に入れた議論をすべきである。
 インターネットビジネスについては、法規制や自主規制で大きな成果を上げている実情から、このような施策を引き続き継続することで今後も効果的な改善が達成できるものと考えられる。
 しかし、一方では、法規制や自主規制にも拘わらず、これらをかいくぐる不法ビジネスは依然として横行する。このため、インターネット取引のための「オンライン110番」制度や、インターネットサイトでの自動検出のための技術開発にも傾注する必要がある。文字情報での自動検索のみならず、画像での自動検索の開発も急務であると思われる。

「(2)特許審査の迅速化」

 「(2)今後の取組」における「特許審査迅速化に向けた取組を更に強化するための具体的かつ効果的な抜本的対策を早急に検討すべきではないか。」という方向性は大いに結構であるが、審査の外注化等によって審査の質が低下することがないような配慮・検討も同時になされるべきである。
(理由)
 審査の質が低下すれば、審判請求件数、更には出願件数が増大することにつながり、全体としての特許審査迅速化、効率化が図れないこととなる。従って、特許審査迅速化は、世界三極特許庁の一角を担う日本特許庁の審査の質的な担保処置を取りながら進められるべきである。
 特許審査の迅速化は、プロパテント政策の柱である。しかし、行政指導や審査請求料の値上げによる我が国の出願活性を抑制することによって、特許庁の審査負担を軽減させる方策は本末転倒である。任期つき審査官の500人採用の枠を更に拡大するなど、積極策を講ずるべきである。

「(3)世界特許の実現」

 世界特許制度の実現に際しては、各国の審査期間に長短があることによって、審査の迅速な国の審査結果を一方的に他国が受け容れる結果となることも懸念される。第1回知的創造サイクル専門調査会において指摘されたように、米国のようなプロパテント政策をとる国においては、審査が比較的緩くても一旦権利化されればこれを覆すことは困難であり、各国の現状を以って世界特許に移行することは我が国にとって好都合とは言い難いと思われる。世界特許の実現に向けて審査の基準と精度など様々な問題について、十分な検討を行って対応していくべきである。
 なお、日本弁理士会としては、世界特許によって各国の個別手続きが抑制されれば、弁理士の手続き的業務が減少し、弁理士が高度な判断業務に専念できることとなり、高度専門職集団として多いに歓迎すべき事項であると考える。

「(4)特許出願による技術流出の防止」

 仏国のソロー封筒制度をモデルとした発明登録制度の導入には反対である。
(理由)
 仏国のソロー封筒制度は、「自己が他人の出願日よりも前に当該発明を創作したことを証明するために、その創作の日付を証明する目的で設けられたものであり、将来、その差出人が特許侵害訴訟を提起されたとき、当該特許権者の特許出願日前に既に当該発明を創作していた旨の証拠方法をとして裁判所に提出し、先使用権としての救済の道を開くものである。」(外国特許制度概説〔第八版〕P.200、201より要約)が、国際的にも極めてマイナーな制度であり、そのようなマイナーなものをモデルとした制度を検討することは、特許制度の国際調和を図ろうという流れに逆行する。仏国のソロー封筒制度は、発明の秘匿を促進し過ぎる可能性があり、現在の主要国の特許制度と整合しないことはすでに明らかである。先使用権の主張・立証を容易にすることは、特許法への成立要件の明記等の他の施策によるべきである。
 生産技術等のノウハウが防衛出願として出願されることにより、審査遅延や海外への技術流出している不利益があるとの指摘に関しては、慎重な調査が必要である。この点は、技術分野、業界のあり方、企業間の格差など諸条件が存在し、我が国産業の全般に亘る問題とは思えない。これらの個別事項を考慮して解決策を検討するべきであると考える。

「(5)デザイン・ブランドの保護強化」

 現状で進展している、地域ブランドの導入などの諸施策は、今後も重点的に展開するべきであると考える。
 我が国の工業製品が世界の一流と認められている割には、デザインや、ブランドの世界的評価が低いといえる。欧米の一流ブランドの品質レベルを考えると、我が国工業製品の品質レベルは遥かに高いと言え、我が国工業製品の世界ブランド化への総合戦略を引き続き推進されることを期待する。

(1)知的創造サイクルにおける商標の重要性

 知的創造サイクルと商標の関係が不明確である。
知的創造サイクルは、特許を中心とした議論であるが、知財立国の実現は、特許のみでは図ることができない。商標の重要性をより一層認識すべきである。
 今回の「知的創造サイクルに関する課題について」においても、商標における課題について、「必要な制度改正を早期に実現すべきではないか」と謳っているが、具体的な内容は、模倣品対策のみの観点から、権利侵害行為への「輸出」の追加しかなく、制度改正の必要性に対する認識が低い。

(2)不使用商標対策

 我が国における商標制度の最大の課題は、不使用商標対策である。
平成8年の商標法改正により、願書における業務記載が廃止され、事実上、3条1項柱書きに基づく拒絶理由がなくなった。さらに、更新の際の使用証明が廃止されたことにより、不使用商標は増大した。巷では、登録商標の約7〜8割が不使用商標であると云われている。一方、平成12年の改正により、不使用取消審判の請求適格が拡大されたが、請求件数は毎年2000件弱(登録件数の0.1%以下)に過ぎず、不使用商標の整理のための有効な手段とはなっていない。
 したがって、不使用登録商標を早急に減少させるための方策を検討することが重要である。印紙代は分類単位であるため、出願する分類内において、実際に使用する意思を有している商品・役務以外の商品・役務を含めた、より広範な指定が一般的であり、これを是正する必要がある。
 また、商標の審査は、類似群単位で行われるが、国際分類の採用に伴い、同一の類似群が複数の分類に分散された結果、使用意思のない商品・役務をたまたま含む先行商標が障害となって、登録を得ることができないことが往々にしてある。類似群の見直しが必要である。

(3)登録の予測可能性

 審査官は独立した行政官庁であるとはいえ、審査主義、登録主義を採用する我が国の商標制度の下では、審査の一貫性がより重要である。しかるに、近時、審査官による判断のばらつきが顕著である。
 商標は、登録された後に使用を開始するのではなく、登録可能性の予測の下、出願の前後に使用を開始するのが一般的である。したがって、商標制度のユーザーにとって、登録可能性の予測が最も重要である。

(4)審査主義、登録主義を堅持したより良い商標制度の発信

 これらは必ずしも法律マターではないものも包含しているが、運用も含め、商標制度のあり方について抜本的な見直しをすべきである。なお、審査主義、登録主義は、ユーザにとって、有用な原則であり、これを捨てるべきではない。むしろ、現在の審査主義、登録主義を採用するアジア諸国とともに、アジアから世界に向けて、審査主義、登録主義を堅持した、より良い商標制度のあり方を発信することが望まれる。

III.活用分野

「(1)国際標準化活動の強化」

 「(2)今後の取組」に、「パテントプールに関する環境整備のために、技術標準における必須特許の鑑定を裁判外紛争処理(ADR)の活用を推進すべきではないか。」を追加する。(理由)  第1「知的財産推進計画2005」75頁では、「パテントプールに関する環境を整備する」と題して、必須特許の鑑定における裁判外紛争処理(ADR)の活用が提言されている。産業界においても、信頼できる必須特許の鑑定がパテントプールの成否を左右する点が強く認識されているところであり、当会は日本弁護士連合会とも協議の上、例えば日本知的財産仲裁センターの利用も視野に入れながら、本件に対応していく予定である。

「(2)中小・ベンチャー企業支援、地域における知財戦略」

(1)弁理士の配慮について

「(2)今後の取組」中の「・弁理士が料金やサービスの面において中小・ベンチャー企業の 個別の事情を考慮して適切な配慮を行うよう更に促すべきではないか。」は、削除すべきである。
(理由)
 日本弁理士会は、可能な限り中小・ベンチャー企業の知財関連費用の負担を減らすことについて、反対はしない。しかしながら、この負担を減らすことは、国の政策として中小企業の知財に対する費用軽減策 (スモールエンティ制度導入・出願助成金制度の整備) がまず取り組まれるべきである。現実に弁理士は、小事務所であっても中小・ベンチャー企業に対しては収入減であっても適切に弁理士は対応している。

(2)日本弁理士会の支援活動

 当会は、弁理士の大都市集中による弁理士地域過疎が生じている状況等に鑑み、弁理士が地域において十分な専門サービスの提供を行い、地域知財戦略に積極的な貢献を果たすべく、以下のような様々な活動を展開している。
 (ア)都道府県毎に弁理士を地域窓口責任者として配置、(イ)ユーザ、各種団体から当会へのアクセス拠点として、東京、大阪、名古屋、福岡、札幌、仙台、金沢にアクセスポイントを設置(今後、高松、広島にも設置予定)、(ウ)「商標キャラバン隊」を組織して全国47都道府県の各地域における地域ブランド保護に関するセミナー・相談会を開催、(エ)当会の産学連携推進の拠点として秋葉原ダイビルに東京分室「アキバウイング」を開設、(オ)島根、高知、北海道、栃木、福島、岩手の各県と地方自治体の知財活動支援に関する支援協定を締結、(カ)石川、青森、徳島、宮崎の各県において地方自治体を対象とした知財啓発活動の一環としてタウンミーティングを開催、(キ)地域ユーザの知財活動支援と地域の関係官庁・団体等との知財活動の連携を図るために当会の組織を全国的な支部組織として再編中である。
 また、11月1日から新弁理士リスト検索システムを公開しており、専門分野・技術分野を中心とした情報だけではなく、弁理士がユーザにどのようなサービスを提供できるか、という観点からの掲載情報の充実を行っている。
 このような各種施策によって、日本全国のどこに在住していても、誰でも何時でも弁理士に知財業務を相談・依頼することができる「どこでも知財」が実現されるようになってきた。このように我々は、中小・ベンチャー企業、地域ユーザへの対応について今後も積極的に取組んで参る所存なので、関係各位のご支援、ご協力をお願いしたい。

(3)外国出願費用の助成

 外国出願奨励のための資金的援助は、一部の地方公共団体だけに任せておいては、結果として大都市圏在住のユーザのみしか支援制度の恩恵を享受できないことになりかねない。国として直接の支援を行う、或いは全国の地方公共団体に対して国が取り組みを求めることが必要ではないか。

IV.創造・保護・活用分野の連携

(1)知財価値評価の推進

 「(2)今後の取組」に、「・知的財産が有する価値に関し客観的に評価できる基準(定量的分析(金額換算値)あるいは定性的分析)の在り方について、日本弁理士会、日本公認会計士会等の各種民間団体調査機関が提唱する手法を参考に、知的財産権の種類や取引毎の特性に応じて調査、検討を続行すべきである。」を追加する。
(理由)
 「知的財産推進計画2004」においては、「知的財産の価値評価手法を確立する」と題して、「知的財産が有する価値に関し客観的に評価できる基準(定量的分析(金額換算値)あるいは定性的分析)の在り方について、各種民間団体調査機関が設ける手法を参考に、知的財産権の種類や取引毎の特性に応じて2004年度までに検討・整理する。また、今後、本格化すると予想される合併・買収等における特許等の価値評価事例を整理公開することにより、特許等の譲渡に関する相場確立を目指す。
 なお、最終的に、価値評価は企業の判断や創意工夫に任せる等フレキシビリティを持たせる。(経済産業省)」(63〜64頁)との提言がなされていた。
 しかしながら、「知的財産推進計画2005」においては、知財の価値評価に関しては何等の提言も行われていない。知財の信託、国民金融公庫等による知的財産権に基づく融資が行われようとしている現在、価値評価の重要性は一層高まっており、今後は日本弁理士会、公認会計士協会、民間金融機関等の民間機関での研究、調査を支援する形で引き続き関係省庁の取り組みを促すための提言をしていくべきである。

(2)医療関連行為の特許保護

知的財産戦略本部の活動成果によって、医療機器の作動方法、医薬の新しい効能・効果を発現させる方法の2つが新たに特許の対象になった。しかし、我が国においても米国並みに医工連携による新たな治療方法が開発される可能性も大きいので、知的創造サイクル専門調査会において中長期的視野をもって検討を進めていただきたい。

「<2>知財人材育成のための総合戦略」

(1)弁理士の人材育成

「(2)今後の取組」に次の文を追加すべきである。
 「・弁理士の質量ともの増員については、過去の推進計画において提言されてきたところである。平成14年度以降の簡素化された弁理士試験によって弁理士の大幅な増員がなされているところであるが、国家資格者としての弁理士の実務能力を向上させるために、弁理士試験制度を改革し、試験と研修を一体化した制度による担保を行うべきである。
 ・特許庁は、(独)工業所有権情報・研修館、日本弁理士会と協力して、弁理士の大量増員を踏まえて、研修等を通じて必要な質的な担保処置を講じるべきではないか。」
(理由)
 知財制度を支える知財人材の育成の必要性は論を待たないが、大量増員される弁理士も例外ではない。平成14年度以降の弁理士試験合格者の中には弁理士として登録しない者や、実務能力に長けていない者もいる。また、条約に関する知識を全く有しない者もいる。
この現状を打破するため、弁理士試験合格者に対して一定の研修を義務づけ、少なくとも産業財産権全般に関わる手続の業務推進能力を高め、弁理士が国民の期待を担って職責を全うできるだけの質を担保すべきである。
 日本弁理士会の組織、財政規模等からこれらの弁理士の人材育成には限界があり、国は財政的な支援も含めて責任の一端を負うべきである。

(2)知財人材育成のための総合戦略

 知財人口の飛躍的拡大が提唱されているが、その詳細は不明であり、これらの知財人材について、分野別の必要スキル、必要レベル、必要人数について詳細に検討する必要がある。
 特に、知財創造分野の人材については今まで指摘がなく、不透明である。知財を創造する人材についても知財人材に含めるべきであり、このような人材の今後の育成計画、スキルアップ、予定規模についての検討も不可欠である。
 このような総合的な創造、保護、利用の各分野において、どのような人材を長期的に育成するかは、今後の少子化社会において、将来性のある若者にどのように知的財産関係人材が魅力ある存在かを示す道標にもなるので、是非とも明確な指針を示されるようお願いしたい。このためには、日本弁理士会もこれらの将来的スキームの作成に参画し、長期的な我が国の人材育成について協力申し上げる努力を惜しまない。

「<3>知財の広がりに対応した国際ルールの構築」

 日本弁理士会は、韓国弁理士会、中国弁理士会、AIPLA,CIPA、など各国の弁理士、弁護士団体との交流、人材派遣、情報交換、制度改善、新提案などに努めている。これらによって、例えば国際的模倣品問題等について、専門家レベルでの問題解決に大きく貢献してきたものと自負する。また、これらは単に、二国間の交流に限らず、APAA,FICPIなど多国間の職業専門家が集まる国際団体においても大きな役割を果たしてきた。
 今後も日本弁理士会は、国際交流や国際貢献に積極的に努める予定であるが、一方では、アジア各国においては、未だに特許などの知的財産制度が不十分で審査体制も揃っていない国々が多くある。これらの国々は日本からの知的財産制度や審査面での支援を望んでいる。特許庁など我が国政府も、研修などの人材育成でアジアの国々に多大の貢献をしているが、さらに積極的に制度面や審査協力面における協力を進めるよう期待したい。

以上
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