支援活動155号
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14 知的財産支援活動だより2014年10月号(No.155)6.内  容: 本年度の弁理士の日の記念講演会は、「3Dプリンタ技術の新潮流」をテーマとして開催しました。3Dプリンタは、例えば、安価な多種少量生産や短期間での試作、また、パーソナルな造形を可能にするなど、ものづくりを大きく変える可能性を秘め、製造業のビジネスモデルや社会のライフスタイルを刷新する可能性が取りざたされています。そこで、講演会の講師に、3Dプリンタおよび知的財産に関する第一人者の方々をお招きし、基調講演(第1部)、一般講演およびパネルディスカッション(第2部)の構成で開催しました。その結果、講演会には400名を超える多くの聴講者がお越しになりました。 講演会は、最初に日本弁理士会近畿支部の稲岡耕作支部長より開会の挨拶があり、続いて、第1部の基調講演を行い、休憩を挟んで、第2部の一般講演およびパネルディスカッションを行いました。 第1部の基調講演1では、3Dプリンタの世界最初の発明者でいらっしゃり、現在は弁理士として活躍されている小玉秀男氏より、ご自身による3Dプリンタの発明経緯、普及活動を研究者の視点および現在の弁理士の視点を交えて解説して頂きました。特に、新たな発明を想到するためには、問題意識の持続、好奇心、楽観、および契機が重要であることや、発明された技術を普及させるためには、研究者自身が、その有用性をプレゼンテーションすることも大切であることなど、後進の研究者、開発者に向けた心強いメッセージが含まれていたと思います。また、開発された技術のグローバルな実用化にあたっては、外国特許の取得や、派生技術も網羅した特許取得が大切であり、その際の弁理士の役割が、いかに重要であるかを実体験を基に改めて強調されました。研究開発者や知的財産業務に携わる方々にとって、大変参考になるお話だったと思います。 第1部の基調講演2では、キャノン株式会社で技術開発、知的財産法務等に携わられた後、知財コンサルタント、アナリストとして活躍されている菅田正夫氏より、モノづくりを変革しつつある3Dプリンタの技術開発の動向、さらに技術開発の成果物である知的財産を企業戦略視点から読み解いた知見を解説して頂きました。特に、3Dプリンタ自体の技術からビジネスモデルに亘るまで、長期的視点に立った技術開発、知的財産戦略の重要性がマクロな分析も含めて解説され、知的財産業務に携わる方に限らず、広く一般の方にも興味深い内容だったと思います。 第2部の一般講演では、弁護士の水野祐氏より、3Dプリンタなどのデジタル工作機械を取り巻く社会の現況と可能性について紹介して頂きました。また、3Dプリンタなどが普及した後の社会の展望や具体的なイメージについて、アニメーションを交えて非常に解りやすくお話し頂きました。さらに、知的財産の保護と利用のあり方についても、法律家の視点からの考察を交えて解説して頂きました。 第2部のパネルディスカッションでは、東京理科大学専門職大学院教授で、弁理士でもいらっしゃる生越由美氏をコーディネータとし、3名の講演者との間で、上記3つの講演を踏まえ、来場者からの質問も交えて、「3Dプリンタ」という新しい技術の保護の困難性、ビジネスへの活かし方、今後の法的保護の課題などについて活発な討論が行われました。特に、3Dプリンタが普及した社会を想定した場合には、オープン戦略/クローズ戦略の使い分けが改めて重要になる可能性や、発明の保護、活用や技術の普及における弁理士の役割の重要性とともに、弁理士への期待なども指摘されました。これからも誕生し続ける新しい技術を睨んだ開発戦略、技術評価のあり方や知的財産戦略などを考えるのに際して、大変参考になったのではないかと思います。 本講演会の最後、日本弁理士会副会長の北村修一郎氏より閉会の挨拶があり、盛況のうちに本講演会を終了することができました。 また、講演会場のロビーでは、実際に3Dプリンタで作製されたサンプルの展示も行われ、来場者は、自由に手に取りながら、その精巧さや複雑な形状が作成可能なことなどを実感していらっしゃる様子でした。 本年度の講演会は、新たな展開を呈しつつある3Dプリンタの発明経緯から将来への展望にかけたテーマに焦点をあてて開催しましたので、技術開発から知的財産戦略まで幅広く考える良い機会を提供することができたのではないかと思います。また、長時間の講演会にもかかわらず、聴講者が最後まで熱心に講演に聞き入っていた様子からも、本講演会の内容は有意義なものとなり得たのではないかと考えます。知財普及・支援委員会委員 三宅 康雅

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