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指を切る不安から開放してくれたプルトップ缶

※「何とか指を切らないようにできないものか」そんな発想からプルトップ缶は生まれた

 

発明好きが5年かけて完成させたプルトップ缶

昔の缶は、缶切りという道具を使って開けるのが普通でした。しかし缶切りを使って開けた缶の切り口が鋭利で、それで指を切ったりする危険があったのです。

プルトップ(pull-top)は、イージーオープン方式とも呼ばれています。缶切りを使わずに、缶の上面にある引き金を手で引っ張って、開ける方式です。

プルトップ缶を考えた谷内氏は若い頃から発明が好きで、現在までに60件ほどの特許を取得したほどの実力の持ち主です。その谷内氏は、考えました。切り口が危ないのであれば、指が切り口に触れないように隠せばいいのではないかと。

原理はこうです。ふたになる円板を全周にわたってジャバラのように折り曲げ、切り口になる部分が折り曲げた湾曲部分で隠れるようにします。原理は簡単ですが、実際に作ってみるとなかなかうまくいきません。少しでも寸法が狂うと、堅くて開けることができません。また逆に緩くすると、切り口が隠れません。

最適な寸法を決めるには、どうすればいいのか。某研究所に相談したところ、コンピュータを駆使しても開発は無理だろうというのが回答だったのです。

しかし谷内氏は諦めることなく、工場にこもり試行錯誤の日々を重ねました。もともとは金型の職人です。長年培った自分の勘を頼りに、手作業で1000分の1ミリとの戦いを始めたのです。環境への配慮からアルミニウムではなく鉄を材料に選んだことも作業を困難にしました。食品の缶詰にも使用できる満足のいくものが遂に完成したとき、研究を始めてから5年もの年月が過ぎていたのです。

 

弁理士の勧めで欧米でも権利化へ

苦労して完成したプルトップ缶の発明は、弁理士に依頼して特許を取得することができました。またその後も改良発明をするたびに出願し、途切れることなく自分のアイデアを保護しています。

1965年に発売されたアサヒのプルトップ型は、缶切りの要らない缶ビールとして話題を呼びます。日本では大手の製缶業者がシェアを抑えており、このプルトップ缶が採用されるには多くの経済的な問題はあるものの、口コミなどにより徐々に市場に出回りつつあります。

また弁理士の勧めにより、アメリカやヨーロッパでも権利化しました。日本よりも製造物責任について厳しいアメリカの缶詰メーカーが、この権利に目を付けました。

長年にわたる交渉の結果、アメリカでの権利をそのメーカーに譲り渡し、近く実施されることとなりました。そのメーカーの製品は日本のみならず世界数10力国に輸出されており、谷内氏の発明したプルトップ缶が世界を駆けめぐるのもそう遠い先の話ではないでしょう。

取材協力/有限会社谷啓製作所

弁理士山田のワンポイントアドバイス

社長の皆さん!

今回は、日常のなにげないきっかけが世界的に活用される特許権に成長した事例です!主なポイントは次の3つです。

【ここがポイント!】

(1)「缶の切り口が危ない」という問題に対して実用的な構造を発明し、特許権を取得したこと
(2)改良発明を継続的に特許出願、権利化して、保護が途切れないようにしたこと
(3)外国でも特許権を取得して、外国での権利活用を可能としたこと

日常生活から生まれたアイデアでも基本特許に育てることは可能ですし、それに満足することなく改良発明を権利化していくことで、特許権を連ねて事業を保護できます。また外国での権利化を行うことで、更なる収益拡大も可能になります。