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事業計画

平成24年度事業計画

【基本方針】

昨年度の基本方針に基づいて、本年度は、さらに、

1. 改革を加速する

2. 委員会・附属機関の検討の結果を年度半ばまでに出し、実行する

3. 日本弁理士会の使命を改めて考える

昨年度の基本方針
(ア)魅力的な知的財産制度を構築する
(イ)国民のための弁理士制度にする
(ウ)委員会と附属機関は、街に出る
(エ)特許事務所の基盤整備を支援する
(オ)会務運営を革新し、会員サービスの向上を図る

【本年度の重点項目】

1. 日本弁理士会の使命を考える
2. 弁理士法の改正に向けた対応をする
3. 意匠法と商標法の改正に向けた対応をする
4. 知的財産制度全体の将来像に関する提言を行う

【現状認識】

知的財産制度について
2003年にスタートした知財立国の国策の下、プロパテント政策の流れに沿って知的財産推進計画が推進され、この梃子入れの結果もあって、41万件(2003年)まで減少していた特許出願数も43万件弱まで一旦回復した(2005年)。しかし、2006年以降再び特許出願数が減少し始め、2011年の件数は速報値で342,412件となっており、前年比微減となる一方、国際出願の特許庁の受理件数は37,974件となり、前年比約20%増である。

このような現実の裏には、日本の生産年齢人口の減少といったこともあるが、同時にユーザーの日本の知財制度への不信感もあると考える。すなわち、近年のように権利行使の際に権利が無効になる可能性が高く、特許権者の勝訴の可能性が低いと、特許の取得に多大な労力と費用をかけても、特許を活用できず、投資に見合った利益の回収が困難になる。ユーザーは必要最低限の保護或いはそれ以下の保護しか求めなくなっている。そのような状況の下では、日本企業でさえ、本国を離れて、市場と知財保護の実効がある国における権利取得に動く。知財保護の有効性についても他国との競争があると認識すべきである。我々は決意をもって、知財の権利取得とその行使が適正に行われる環境が日本にあると宣言できる体制を構築する責務がある。

現在、我々弁理士を取り巻く問題は、特許出願等の出願件数の減少のほかにも、弁理士試験合格者の増員、弁理士報酬の減少などがあるが、これらの各問題に対して小手先の施策を講じても根本的な解決はない。我々弁理士と弁理士制度は、知財制度を礎に成り立っており、本質的な解決策として、知財制度の信頼性を向上させる必要がある。

したがって、原点に立ち返って特許のみならず、実用新案、意匠、商標、そして著作権を含む知財制度を抜本的に見直し、ユーザーにとって魅力ある知財制度の実現のために、知的財産権の価値の向上を目指し、ユーザーが信頼感をもって、知的財産の活用が促進される制度になるよう、現場の実務家の立場から種々の提案活動を行い実現する。

弁理士制度について
平成26年通常国会への法案上程を目指して、弁理士法改正の動きは確実に始動した。弁理士制度の本質と弁理士試験制度をもう一度、根本から見直さなければならない。近年、弁理士制度は改善されてきている。付記弁理士制度や標榜業務の拡大など、改善された点は多い。しかし、その過程で見失われたものもあるのではないか。弁理士という代理人の制度が定められ、国家資格が付与された上で、特許庁に対する手続において代理人として専権が与えられている意味を考えるべきである。
特許権などの産業財産権は、行政処分を経て、国家により権利主体に付与される。我々弁理士は、この財産権の形成に関与している。そして、他方、産業財産権は排他権である。第三者の行為を制限するという側面をもっている。つまり、権利主体に対しては財産権という根源的な権利の取得を手伝い、その一方では、第三者に対しても、不当な権利行使が行われないようにする責務がある。
その結果、高度な専門性と高い倫理観が継続的に求められるものであるからこそ、試験制度があり、専権がある。このことは、一定の知識があることを認定する資格や試験とは本質的に異なる。
この視点から見ると、現在の弁理士試験合格者数、試験制度上の多くの免除や特定の受験者に有利な決まり、そして現在の弁理士が標榜できる業務範囲が、このような弁理士の本質である、国民のために産業財産制度の公正な運用に資するということに照らして妥当なものでないことは明らかであろう。

日本弁理士会について
我々日本弁理士会の各組織、機関に決定的に欠けている点が2点ある。スピード感と使命感である。
世の中の動き、日本弁理士会にとって第一の顧客である弁理士諸氏の要望に瞬時に対応して、行動を起こすスピード感が未だ足りない。
第二の顧客は知的財産制度のユーザーである。日本弁理士会は、知的財産制度のユーザーの求めるところにしたがって行動してきたのか。日本弁理士会は、会員から集めた会費を有効に活用する機関であり、収益を目標にして何かを製造したり販売したりする機関ではない。弁理士法第56条第2項には、「弁理士会は、弁理士の使命及び職責にかんがみ、弁理士の品位を保持し、弁理士の業務の改善進歩を図るため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行い、並びに弁理士の登録に関する事務を行うことを目的とする。」とあるのであるから、日本弁理士会は、「弁理士の業務の改善進歩を図るため」の指導、連絡等に関する事務を行わなければならない。業務の改善のためにはユーザーの視点が必要である。ユーザーが知財制度を利用したいと考えて初めて我々の仕事があり得るのである。ユーザーを忘れたサービス業(代理業)などあり得ないであろう。そのような機関の支出を律するものは何であるべきなのか。今後の20年、30年のためにも、ここで、改めて、日本弁理士会の使命とは何であるのかをきちんと検証したい。

【具体的事業】

1.改革を加速する
我々に立ち止まっている時間はない。

 (ア) 魅力的な知的財産制度を構築する

  (1)特許、意匠、商標の各委員会の2部制を定着させて、十分に機能するようにする。

  (2)これら3委員会以外の委員会と附属機関についても、外部への発信を行い、自ら立案して実行する組織にする。

  (3)そして、既に始まっている意匠法と商標法の改正議論には一段と積極的に取り組んでいく。

  (4)特許法の見直しの必要性を各方面に働きかけていく。特許の価値を政策的に上げなければならない。また、職務発明制度の抜本的な見直しも必要である。さらには、実用新案制度の活用を考える必要がある

  (5)日本の技術開発力と特許出願の件数の関連性を検討し、必要な出願が行われるような施策をとる。

  (6)日本版アミカスブリーフ制度の採用を働きかける。

  (7)中小企業の支援を強化する。日本の強みは中小企業にあることは間違いがない。日本弁理士会は、全国的な広がりをもって、個別の中小企業への支援を含めた支援活動を強化する。   (8)大企業の知財戦略を補佐するためにできることが何であるかを検討する。

  (9)全国の各支部を最大限活用しつつ地域知財の支援を強化する。日本全国の企業の成長は、弁理士にとっても重要である。

  (10)商標と意匠の権利保護の有効性と、ブランド戦略の重要性を再確認するためのキャンペーンを行い、弁理士に何ができるのか、なぜ弁理士に依頼すべきなのかを世に訴える。

  (11)企業内弁理士に対する会員サービスとはどのようなものであるべきなのかの検討を継続する。

 (イ) 国民のための弁理士制度にする

  (1)弁理士法改正は平成26年の通常国会に提出される予定が決まっている。本年度は、特許庁が外部に委託する調査研究が行われる予定である。日本弁理士会としても調査研究を行う。

  (2)日本弁理士会中央知的財産研究所には、弁理士法改正部会を設けて、外部の意見を積極的に伺って、日本弁理士会の立ち位置を明確にする。

  (3)弁理士試験とその他の弁理士制度に関する改正を求める項目は既に整理されている。それを肉付けし、ロビー活動を本格化する。弁理士試験の合格者数の目標は250名/年程度とし、定性的な弁理士制度のあるべき姿を明確にするとともに、適正な合格者数など定量的な弁理士制度のあり方を検証する。

 (ウ) 委員会と附属機関は、街に出る

  (1)ビジネスへの挑戦

日本弁理士会の附属機関と委員会はこれまで多大の研究成果を達成してきたが、本年度はそれを踏まえて、現実のビジネスにおいて弁理士がどのような参入と収益のチャンスを得られるのかを改めて考える。つまり、判例や実務上の課題を整理して検討することやマニュアルの作成も重要であるが、それらの努力を踏まえて、どういったビジネスに弁理士が現実に取り組んでいくべきかを各委員会にも考えて頂きたい。もちろんそういった方向性とは無関係の委員会(例えば、選挙管理委員会)はあるが、それ以外の附属機関や委員会においては、全てビジネス面での検討と、可能であれば実践をお願いする。

  (2)外部団体との連携の強化

知財協、経団連、日弁連とは、役員会と各委員会のレベルで連携を強化したい。すなわち、テーマを決めて、定期的に会合を持てるようにしたい。その他の団体とも積極的にかかわっていく。特に、政府系の機関と国際機関、例えば、JETRO、JICA、WIPOなどには積極的に関与する。WIPOについては、日本事務所との連携を強める。知的財産戦略本部は、役員会と担当ワーキンググループに、文化庁は、著作権委員会に、農水省は、農水知財対応委員会に、財務省は、産業競争力推進委員会に、それぞれ担当して頂く。知財学会は、全会的に対応する。

  (3)JETRO、JICA、知財研などの政府系機関へ弁理士が常勤または非常勤の職員やアドバイザーとして参加するためのすじ道をつける。

 (エ) 特許事務所の基盤整備を支援する

  (1)会員サポートセンターを創設する。サポートセンター設立ワーキンググループを作り、提案の骨格を作る。基本的に複数の案を考えて、その中から、可能な組織形態を探る。

  (2)クライアントへのサービスに加えて、事務的な業務の標準化をさらに進めて、事務所内における事務処理の効率を向上させる方策を検討し、モデルケースを作成する。

  (3)商標の業務強化をはかる。商標及びブランド戦略の重要性の周知を図り、弁理士の活用を促進するために、どのような政策が望ましいのかを検討する。

  (4)意匠の業務強化をはかる。平成22年度の「意匠の底力」キャンペーンの成果などを梃子にして、出願件数の増大策を探る。

  (5)周辺業務と著作権については、知財コンサル委員会や著作権委員会と、研修所(IPBA)との連携を図って、一定のコース修了者に公的支援による場(相談受付、業務開拓)を提供する。

  (6)中小企業・ベンチャー支援については、特許庁の施策動向を詳細に見て、弁理士会として何ができるのかを検討する。

  (7)研修活動を強化する。

   @座学で必須科目あるいは弁理士業務の基礎をなすものではない科目について、これまでより多くの研修を有料化する。受益者負担の原則と無断欠席者対策の両面から、研修所、支部の別なく、座学の研修については、ある低額の料金を徴収する。

   A新人養成研修を強化する。事務所の所長をターゲットにして宣伝を行う。

   B特許英語・外国実務の研修を強化する。

   C研修所内にプロジェクトチームを作って、研修所の科目を定期的に見直し、例えば20%の科目または講師は毎年入れ替えることにするなど、積極的に研修内容を見直す。

   D事務所所員のための研修を強化する。海外実務などを研修の対象とする。事務所の所長をターゲットにして宣伝を行う。

   E海外でのインターンのポジションを探して、国際活動センターが紹介できないか検討する。

   F早稲田大学における日本弁理士会提携講座を継続する。

 (オ) 会務運営を革新し、会員サービスの向上を図る

  (1)日本弁理士会の会費を月額15,000円とすることを改めて定期総会で決定する。法人会費は、10,000円に減額する。

  (2)日本弁理士会の支部に自律的に活動してもらう。必ずしも本部がやる必要が無く、支部ができることは支部の主体性を尊重する。

  (3)研修と地域知財の活動のあり方を不断に見直し、関東、東海、近畿の3支部以外の支部への支援を強化する。

  (4)会務への参加促進の方策を、総合政策企画運営委員会に探ってもらう。ポイント制を利用したマイレージサービス的なことを考える。

  (5)会長室の渉外活動と調査能力を高める。例えば、会長室を外部団体へ出向する弁理士の受け皿として活用する。会長室は、日本弁理士会がかかわれる外部プロジェクトにどのようなものがあるのかなどの調査を継続的に行う。

  (6)活動の活性化と若手の参加促進のため、委員会・附属機関の通算の年数制限を規則に盛り込む。

  (7)新たな会員総合データベースを作る。

  (8)共済制度残金が3億円程度あるが、残金の有効活用の方策を探る。

2.委員会・附属機関の検討の結果を年度半ばまでに出し、実行する
全ての委員会と附属機関は、その答申書と報告書を原則として12月末までに提出し、その後、その活用を検討し、実際に活用する。結論を出して、それに基づいて行動または実行することを求める。目的は結論ではなく、実行である。例えば、セミナーを1月から次年度4月に分散して行う、パテント誌または外部の雑誌に成果を発表する、成果を持って特許庁やその他の団体と協議を行う、次年度に向けた立案をするなどが考えられる。

3.日本弁理士会の使命を改めて考える
日本弁理士会の本来的なミッションを明確に定義して、その活動を評価するための適正な基準を定める。
日本弁理士会を運営してまず強く感じるのは、会費として集めたお金を使うことが仕事であるように考えられているのではないか、というおそれである。放漫になってしまっていた支出の規律は、それを物語っていると感じる。そのような考えが誤りであるのは言うまでもないであろう。
もう一つの感想は、活動するために活動しているように見える点である。皆で集まって研究しその成果を発表する、あるいは、外に向けた支援活動を行う。それ自体は、大変すばらしいことである。ただ、そうするにしても、日本弁理士会の資金を使ってする以上、どこかに会員全員に還元されるものがなければならないはずである。
日本弁理士会は誰に対して奉仕すべき団体なのか、その活動の成果を図る基準は何であるのか。日本弁理士会の社会貢献(CSR)はどうあるべきなのか。当たり前のことではあるが明確に認識されていなかったのではないかと感ずる。我々が誰で、どこへ向かっているのかを全員で考える。
また、それに関連して、会員全体を含めた意味での日本弁理士会の長期の見通しを策定する。企業経営がそうであるように、あるいは人生設計がそうであるように、少なくとも5年、10年先のことを考えて、現在を律する必要がある。
この基本方針については、全会的に取り組む。執行役員会、常議員会、いくつかの委員会、有志、各地で行うタウンミーティングにおいて、議論を深める。

以上

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