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<米国>CAFC判決:誤差範囲を示すために数値に‘About(約)’を付けたクレームは不明瞭でない

〈米国〉

CAFC判決:誤差範囲を示すために数値に‘About(約)’を付けたクレームは不明瞭でない

〈概要〉

 粘性値が“about 0.06(約0.06)”である液体を注入して地下のオイル井及びガス井を粉砕する方法を開示した特許は、当業者であれば“about”は測定において生じる実験誤差の範囲を包含するために用いられたと理解できるため、米国特許法第112条第2パラグラフの規定により不明瞭であるとして無効になるものではない、とCAFC(連邦巡回区控訴裁判所)は判決を下した(BJ Services Co. v. Halliburton Energy Services Inc., Fed. Cir., No. 02-1496, 8/6/03)。

 また、原判決における$98.1 million という陪審の損害額を支持し、同裁判所は、実験結果が全て上記の数値よりも僅かに上又は下であったという原告の証拠を考慮した上で、当業者であれば明細書を参照してクレームの意味を理解できるものと認定した。更に、同裁判所は、方法クレームのポリマーの“C*”濃度を測定する方法の知見が当業者にはあるという証拠が存在したため、実施可能要件の欠如を理由に特許無効と判断することを拒絶した。

BJ Service Company  :原告-被控訴人、特許権者(USP 6,017,855)

Halliburton Energy Services Inc.  :被告-控訴人

オイル井、ガス井の粉砕方法

 BJ Service Companyは、オイル井及びガス井を刺激するために地下層を粉砕する方法に関する特許(USP 6,017,855)を所有している。この発明は、地下層を粉砕するのに十分な高圧力で粘性のある液体を孔の中に注入する工程を含むものである。

 BJは、HalliburtonのPhoenix systemが ’855特許を侵害したと主張し、特許権侵害としてHalliburtonを訴えた。陪審は、特許は有効であって侵害が生じており、BJに$98.1 millionの損害賠償金を与えるとの評決を下した。Texas Southern地裁のSim Lake判事は、Halliburtonによる、法律問題としての判断の求め及び新しい公判の申立を否定した。その後、Halliburtonは控訴した。

実施可能要件の欠如

 CAFCは、特許は無効でないとした陪審の結論を重要な証拠が支持するか否かを決定する、という方針を定めた。

’855 特許のクレーム17には、次のような記述がある。

 “blending together an aqueous fluid and a hydratable polymer to form a base fluid, wherein the hydratable polymer is a guar polymer having carboxymethly substituents and a C* value of about 0.06 percent by weight; adding a crosslinking agent to the base fluid to form a gel; … ”

 C*の濃度に関しては、明細書中で“それはポリマー鎖の重なりを起こすのに必要な濃度である。架橋したゲルを効果的に得るのに好適なポリマー鎖の重なりは、ポリマー濃度がC*濃度を超えた際に起こると考えられている。”と記述されていた。

 Halliburtonは、まず、’855特許はC*濃度の測定方法及び測定条件を開示していないため、米国特許法第112条第1パラグラフの実施可能要件を満たさないことになり無効であると主張した。

 この無効の主張にCAFCは同意しなかった。Mayer裁判長は、「本件特許は実験条件について述べていないが、BJは、当業者がC*濃度の測定方法に関する知見があることを示すために、発明者の証言、専門書の抜粋等を提出した。」と述べた。更に、「Halliburtonは、C*濃度は選択された条件に応じて変化するということを単に述べたにすぎず、測定条件について立証する専門家も連れてこなかった。」とCAFCは強調した。

 また、CAFCは、“about 0.06”に対する定義が特許中に存在しない点についても、実施可能要件を満たさないとする判定はしなかった。Mayer裁判長は、「C*濃度の測定器を所持する当業者が、得られた結果が“about 0.06”であったか否かを知り得たか」という問題は、実施可能要件の問題ではなく、明瞭性の問題であると強調した。

誤差範囲は当業者にとって不明瞭でない

 “about 0.06”という用語が、同法第112条第2パラグラフに基づき不明瞭であるとして特許を無効にするか否かについて、CAFCは、程度を示す用語はしばしば問題を生じることを指摘した。しかしながら、Mayer裁判長は判例(Seattle Box Co. v. Indus. Crating & Packing Inc., 731 F.2d 818, 221 USPQ 568 (Fed. Cir. 1984))を引用し、クレーム中の用語が正確でないからといって自動的にそのクレームが無効になるわけではないと述べた。CAFCは、当業者が明細書を参酌してクレームの意味を理解できるか否かに着眼することにした。

 CAFCは、BJの主張に納得した。その主張は、“about”を付けたのはどのような測定においても生じる実験誤差の範囲を包含するためであり、当業者であれば “about 0.06”が包含しようとする範囲を容易に理解できる、というものである。

Mayer裁判長は、最後に概略次のようにまとめた。

 ――― 専門家により得られた実験結果は、平均が0.0569であり、全て0.06の僅かに上か下であった。この証拠に対して、Halliburtonは、ランダムで都合良く従来技術と同程度になった専門家の実験結果を提出した。しかし、BJは、Halliburtonがソフトウェアを改変する等して測定機器を不法に改良したり、テスト結果を不当に混ぜ合わせたりした事実を示す証拠を提出した。更に加えて、BJは、Halliburton側の生データを不法改良なしに分析すると、その結果はBJ側の専門家による値とほぼ同値であることを述べた。これらの事実は、Halliburton側の信用面に影響を与えた。’855特許は不明瞭性及び実施可能用件の欠如によって無効になるものではないとした陪審評決は、証拠に基づいて支持される。

  また、Mayer裁判長は、陪審評決は証拠の重要な点に反するものではないため、Halliburtonによる新しい公判の求めを否定したことは、自由裁量の乱用ではないと述べた。

以上のようにして、地方裁判所の判決は支持された。

文責 阿部豊隆

出典

BNA International Inc., “Patent, Trademark & Copyright Journal”, ‘Claim Using ‘About’ With Numerical Figure to Show Range of Error Is Not Indefinite’, Page 451-452, Volume 66, Number 1634, August 15, 2003

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