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<米国>CAFC判決:医薬特許の解釈に当たり、患者が了知していることを要するとの解釈は正しい

〈米国〉

CAFC判決:医薬特許の解釈に当たり、患者が了知していることを要するとの解釈は正しい

〈概要〉

 悪性貧血を「治療または予防」する方法であって葉酸およびビタミンB12をそれを必要としているヒトに投与する方法に関する特許は、その症状を処置する必要があることをそのヒトが知っていることを要する、と正しく解釈されたと、米国連邦巡回裁判所(CAFC)は判示した。

  CAFCは、葉酸およびビタミンB12を含有して悪性貧血以外の症状を処置する栄養補助食品をOTC薬(医師の処方箋なしで販売購入できるいわゆる店頭販売薬)として被告が販売することは、購買者に対する侵害教唆には当たらないことを認め、非侵害であるとのサマリー・ジャッジメント(略式判決)を支持した。本件特許はそのクレームに「それを必要としているヒトに」の用語を加えることによりおよそ20年の出願経過を経て許可されており、そのことはクレーム解釈上その用語が重要であることを示している、とCAFCは述べている。

非侵害との判決に至る重要な争点

 Christian J. Jansen Jr.は、巨赤芽球性貧血(即ち、悪性貧血)を「治療または予防」する方法であって葉酸およびビタミンB12を「それを必要としているヒト」に投与する方法に関する特許(第4,945,083号特許)を保有している。この発明の目的は、葉酸を単独で用いて貧血を処置した場合に起こり得るビタミンB12欠乏のマスクを防止することにある。

 Rexall Sundown Inc.はOTC薬として栄養補助食品「Folic Acid XTRA」を販売しており、これは本件クレームの範囲内にある葉酸とビタミンB12とを含有しているが、そのラベルにはホモシステインの血中レベルを維持するためのものと記載されており、悪性貧血の処置のためとは記載されていない。

 Jansenは、Rexallを侵害教唆あるいは幇助に当たるとして訴えた。インディアナ州南部地区の米国地方裁判所Daniel Tinder判事は、非侵害であるとのRexallによるサマリー・ジャッジメントの請求を認めた。地方裁判所は、侵害というためには、「悪性貧血を治療または予防する」なる用語を、ヒト対象者が悪性貧血を治療または予防する意思をもって化合物を摂取しなければならないことを要すると解釈し、ここではRexallの購買者にそのような意思は認められない、と判断した。

 そこで、Jansenは上訴した。

支持されたクレーム解釈

 Jansenは、クレーム解釈に意思を要求するのは法律違反であり、クレームの通常の意味や審査経過に照らせば、地方裁判所によるそのようなクレーム解釈は誤っていると主張した。Jansenは、Rapoport v. Dement, 254 F.3d 1053, 59 USPQ2d 1215 (Fed.Cir.2001) (62PTCJ224, 7/13/01)に依拠して直接侵害者は意図的にクレーム方法を実施しなければならないと認定した地裁判断に対し、異義を唱え、さらにJansenは、Rapoportは疾患を予防する方法ではなかったので本件とは区別される、とも主張した。Jansenはまた、Rexallの製剤処方およびラベルは、Rexallの購買者が直接侵害していることの状況証拠になると主張した。

 CAFCはJansenによるこれらの主張を退けた。クレーム中の用語を通常の意味で解釈すれば、本件の処置方法は「それを必要としているヒト」に対して実施されなければならず、そして悪性貧血の「治療または予防のために」使用されなければならない、とAlan Lourie判事は述べた。

 Alan Lourie判事はさらに、ここでの争点は、このようなヒトが悪性貧血を治療または予防する必要があることを知らなければならないか否かであると述べ、本件をRapoportに準えた(Rapoportでは、睡眠時無呼吸を処置するためのクレームされた方法は、クレームの前段(プリアンブル)に記載されている目的を達成する意思をもって本方法は実施されなければならないと解釈されている)。また、Alan Lourie判事は次のように説示した:

 「第4,945,083号特許(083号特許)におけるRapoportと極めて近似した用語は同じ手法により解釈するのが妥当である。Rapoportおよび本件はともに、クレームのプリアンブルにおいて方法の目的を明示し、クレームの本文では方法が「それを必要としている」ヒトに対して実施されるべきことを規定している。そして、ともに、「必要としている」ヒトまたは患者なるクレーム中の用語は、目的を述べているプリアンブルに意味内容を与えている。即ち、ここでのプリアンブルは、希望または認識されているかどうか分からないような単なる効果の言及ではない。そうではなく、ここでのプリアンブルは方法を実施しなければならないとの意図を伴う目的の言及である。「治療または予防」の用語または「それを必要とするヒトに」の用語のいずれかがクレームに記載されていない場合、我々が同じ結論に至るか否かをここで述べる必要はない。しかし、統一的には、上記地裁および本CAFCがともに至ったクレーム解釈を行うべきである。」

 CAFCは、このクレーム解釈は審査経過からも支持されると述べた。悪性貧血を「治療または予防する」なる用語および「それを必要としているヒトに」なる用語は、これらの用語を付加しなかったために繰返し特許を得るのに成功しなかった20年を経た後にクレームに付加され、それにより特許が許可されている。Bryson判事は、これら用語の加入によって特許が認められていることからそれらの用語を重視し、さらに、これらの用語が同じ拒絶理由を解消するために同時に付加されていることから、「それを(必要)」は悪性貧血の治療または予防を意味するものとして両用語を解釈すべきであると述べた。

 最後に、Bryson判事は、「必要としている」なる用語はそれを付加した理由を勘案してその意味を理解しなければならないと述べている。Bryson判事は次いで以下のように説示している:

 「言い換えれば、Jansenは特定の症状の治療または予防を必要としているヒトにおける当該症状を治療または予防する発明に自身のクレームを限定したのであるから、クレームされた用量でのクレームされたビタミンの投与であっても(悪性)貧血を治療または予防する以外の目的をもってする投与は、クレームされた方法の実施には当たらない。083号特許のクレームが、(悪性)貧血の治療または予防が必要であるとの認識を持ったヒトに葉酸およびビタミンB12の組合せを投与しなければならないことを意味する、と解釈するのは正しい。」

侵害は立証されていない

 上記のようなクレーム解釈を前提として、CAFCは、Rexallが購買者に対して083号特許の直接侵害を教唆しているとする、クレームの要件事実についての真正な争点をJansenは主張していない、と結論した。Jansenによる侵害の構成理論は、悪性貧血を治療または予防することが必要でないことを肯定的に知らない者までも、「それを必要としている」とみなすという、誤ったクレーム解釈にそもそも基づいている、とBryson判事は説示している。

 Jansenは、Rexallの製剤は葉酸およびビタミンB12を083号特許のクレームに含まれるほどに高用量に含んでおり、またRexallのラベルには「葉酸はビタミンB12欠乏をマスクするおそれがあるため、葉酸とともにビタミンB12を摂取するのは特に重要である」と記載され、これらは、Rexall製品の購買者の中には、Rexall製品を摂取することにより悪性貧血を治療または予防しようと意図する者が存在することを示す証拠であると主張した。しかし、上訴裁判所はこのJansenの主張を退けた。Bryson判事は、Jansenは、Rexallの購買者が製品を摂取して貧血を処置することを意図的に行うことがあり得るという理論的可能性を単に示しているに過ぎないと述べ、それでは要件事実についての真正な争点の存在を主張するには不充分であると付加えた。Bryson判事は事件概要について以下のように説示している:

 「Rexall製品のようなOTC薬の使用と、医師の処方箋による医薬の使用とは全く異なる。後者の場合、処方箋は診断結果の証拠を構成し、またそこに記載された目的のために医薬を使用する必要性が知られていることの証拠となる。Jansenは本件においてそのような証拠を示していない。Rexallの製品は、本製品がホモシステインの血中レベルを維持するために使用できると記載されたラベルが付されて販売されており、購買者は(悪性)貧血を治療または予防する必要性について必ずしも知っている訳ではない。JansenはRexall製品の購買者の中には本件クレーム要件を満たし得る者が存在するかもしれないことを推測しているに過ぎない。従って、Jansenが侵害を示す十分な証拠を提示していないとする地方裁判所の判断に誤りは無い。」

よって、原判決を維持する。

文責 高山裕貢

出典

BNA International Inc., ” Patent, Trademark & Copyright Journal”, ‘Drug Patent Was Properly Construed To Require Knowledge on Patient’s Part‘, Page 531-532, Volume 66, Number 1637, September 12, 2003

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