日本弁理士会の活動

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先生のための(知財の)ひきだし!国語編

大人でも思わず引き込まれるおもしろ知財エピソード集です。 小学生から高校生までを対象に幅広くご利用ください。

テーマ:青空文庫とTPP

Keywords 青空文庫、底本、著作権の存続期間、TPP
法域 著作権法
教科 国語(現代文)

 青空文庫というサイトをご存じでしょうか。日本語作品を中心として、著作権が消滅した作品等をボランティアでテキストデータに変換し、無料公開しているサイトです。日本では、死亡翌年の元旦から70年経った作家や詩人の作品は著作権が消滅しました(1970年以前は死後30年でした。また、2017年までは死後50年でした。※)。青空文庫に掲載されている有名作品は、たとえば、夏目漱石、芥川龍之介の作品、外国からもエドガー・アラン・ポー(世界初の推理小説の作者)の和訳などがあります。 青空文庫では、著作権が消滅する時期までに底本を集めておき、著作権が消滅したものから順に、ルビを振る、キーボードで打ち込むなどの作業を行って、質の高い文学作品をスマホやパソコンで利用しやすい形でサイト掲載しています。さらに、インターネット読み上げソフトを使用することで、目に障害のある人でも気軽に文学作品を楽しむことができます。

http://www.aozora.gr.jp/
(青空文庫サイト)

※環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)が発効された2018年12月30日より、著作権の保護期間は「個人の場合は死後70年・法人の場合は公表後70年」に延長されましたが、2017年12月31日までに死後50年(または公表後50年)が経過して著作権が消滅したものについては、再び権利が復活することはなく、誰でも利用できます。

http://www.aozora.gr.jp/(青空文庫サイト)(履歴情報)
2015/03/24 掲載
2021/02/19 修正

テーマ:アイデアはどこで生まれるのか?

Keywords アイデア、思考法
法域 特許法、意匠法
教科 国語、理科

 昔、中国の欧陽修という人が文章を作るときに、すぐれた考えがよく浮かぶ場所として、馬上、枕上(ちんじょう)、厠上(しじょう)の3つをあげたと言われています。馬上とは馬に乗って移動するという意味からすると、現代に置き換えると電車などの移動手段に乗っている時を指すのでしょうか。また枕上とは、枕の上、すなわち布団に入って寝るまでというだけでなく、布団で寝ている時も含まれると言われています。そして、厠上はトイレの中という意味で以上3つをまとめ、三上と言います。
これは、『思考の整理学(外山滋比古,ちくま文庫)』からの紹介ですが、著者の外山さんはさらに考察を進めて、無我夢中、散歩中、入浴中の三中という状態(最中)が思考の形成に役立つと述べています。すなわち、時には無我夢中で考えることが必要なときもあることや、ヨーロッパの思想家には散歩派が多いこと、さらにアルキメデスは入浴中に比重の原理を発見したという伝説を紹介し、その自説を展開しています。
三上、三中いずれにしても、すぐれた考えや思考の形成が発明につながるアイデアと捉えると、至るところ(場所)でそのアイデアが浮かぶという点が興味深いです。

テーマ:赤毛のアン

Keywords 赤毛のアン、Anne of Green Gables、文学作品、翻訳、商標、著作権
法域 商標法、著作権法
教科 国語、英語

 ご存じの方も多いとは思いますが、日本で「赤毛のアン」として有名な文学作品の原題は、「Anne of Green Gables」です。この作品はカナダ人であるルーシー・モウド・モンゴメリさんによって書かれていますが、作者の母国であるカナダでは、公的機関も、この作品に格別な敬意を払っているようです。
例えば、カナダ政府は,①赤毛のアンの家を中心としてプリンス・エドワード国立公園を形成したり、②「Anne of Green Gables」との文字から構成される商標を公的標章に指定したり、③カナダのイメージを描いた5枚組のコインの一つに赤毛のアンの肖像を配し、かつ「Anne of Green Gables」のイメージを刻印して、カナダ国内でコインを流通させたり、④1975年5月に発行した8セント切手の図柄に赤毛のアンを採用して「Lucy Maud Montgomery Anne of Green Gables」との文字を配したり、⑤カナダの公的機関を通じ、原作者を1943年に国家の歴史上の人物に指定したりするなど,この作品の保護に関する数々の重要な施策を講じてきました。
一方、このような施策が講じられていることや作品の著名性とは無関係に、この作品の権利者と何ら関係のない一民間企業(カナダの法人)によって、「Anne of Green Gables」についての商標登録出願が日本でなされました。この出来事に関しては裁判所において争われることになり、当該商標は商標登録を受けることができない「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するという判決がなされました1)。この判決は、作品の著名性だけから導かれたものではなく、カナダで上記施策が講じられていることなども考慮することにより導かれたものです。その意味では、カナダの公的機関の行ってきた努力が想定外のところで意味を持つことになったといっても良いのではないでしょうか。
ところで、「Anne of Green Gables」を直訳すると、「緑の切妻屋根の家のアン」などとなりそうですが、日本で出版に携わった方々(翻訳者の村岡花子さんを含む)は、本のタイトルを「赤毛のアン」とすることにしました。直訳調のタイトルにしなかったことに、関係者の方々の、この作品への思い入れの大きさが感じられます。なお、村岡花子さんによってなされた翻訳ですが、著作権法により規定された「二次的著作物」に該当するといえるでしょう。
「赤毛のアン(Anne of Green Gables)」というタイトルがついた本では11~16歳のアンについて書かれていますが、それ以降の年齢のアンの話は別の本に書かれています。村岡花子さんが訳して出版されたこれらの本のタイトルは「アンの青春(Anne of Avonlea)」、「アンの愛情(Anne of the Island)」、「アンの幸福(Anne of Windy Willows)」、「アンの夢の家(Anne’s House of Dreams)」、・・・などであり、「赤毛のアン(Anne of Green Gables)」の時と同様に、原題とは異なるイメージで日本語のタイトルが付けられていることが多いようです。

1)平成17年(行ケ)第10349号

(履歴情報)2021/02/19 掲載